延命十句観音経霊験記2
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そういう状態が2ヶ月ほど続いたある日、ようやく打開のきっかけをつかんだ。
たまたま寄った本屋で、ある新刊の本を手に取った時だった。ふと手が滑ってしまい、その本を落としてしまった。慌てて本を拾い上げると、あるページに折れ目が入ってしまっていた。
「まずいな」と思いながら、そのページを開いてみると、ちょうど折れた先が矢印のようになって、ある文章を指していた。
そこを見てみると、そこには『延命十句観音経』という、短いお経が書いてあった。
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『延命十句観音経』、初めて聞く名前である。どんなお経だろうかと説明を読んでみると、そこには、
『非常に霊験あらたかなお経で、古今この経に救われた人は数知れず』
などと書いてあった。うさんくさい宗教書にありがちな表現である。しかし読み進めていくうちに、その経を広めたのが、白隠禅師というのがわかった。
白隠禅師、臨済宗中興の祖だ。
「嘘だろう」と思ったぼくは、その本を一端書棚に戻し、そのことを調べに宗教書のコーナーに行ってみた。
そこに『延命十句観音経霊験記』なる本が置かれていた。作者の欄を見てみると、確かに『白隠禅師』と書かれている。疑い深いぼくは、その経について語っている本を探しだして読んでみた。やはり白隠禅師が広めたと書いてあった。
「白隠が『霊験あり』と言うのなら、嘘じゃないだろう」
と思ったぼくは、先ほど落とした本と、『延命十句観音経霊験記』と、それを解説している本と、計3冊の本を買って帰った。
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延命十句観音経というのは、たったこれだけの短いお経である。短いといえば般若心経も短いが、このお経はさらに短い。解説書には、この短いお経の中に仏教の真理があるのだと書いてあった。しかし、その時のぼくに、真理を追究する余裕などない。ということで、解説書は飛ばして、『延命十句観音経霊験記』のほうを読むことにした。