ご近所様の声
以前近所にあった居酒屋は、いつもお客の入りが悪かった。まったくお客のいない日もあり、そういう時は決まって大将が、三十メートルほど先にある焼き鳥屋の前まで行き、腕を組んで窓の外から店の中を覗いていた。そして時々「チッ」と舌打ちする。おそらくその焼き鳥屋に、お客を取られたとでも思っていたのだろう。
だけど、ぼくたちご近所様は知っていた。焼き鳥屋がお客を取ったのではなく、お客がその居酒屋を好まないのだと。いや、居酒屋を好まないのではなく、その居酒屋の大将を好まないのだと。
そこの居酒屋の大将は、何を勘違いしているのか知らないが、とにかく態度が大きく、お客を自分の意のままにしようとしていた。
例えば、注文したお酒が大将の推奨するものでなかったら、
「この料理にその酒は合わんよ」と目をつり上げて文句を言っていた。
自分でネーミングした料理のメニューを見せて、
「これは何ですか?」とお客が尋ねると、そんなこともわからないのか言いたげに、声を荒げて答えていた。
気分よく飲んでいるのに、大将はいちいちケチを付けてくる。
そういった大将の態度が気に入らず、お客は「こんな店二度と来るか」となってしまい、結局お客が定着しなかった。それがお客の入りが悪かった原因で、ほどなくその店は潰れてしまった。
「味はまあまあなんだし、もう少し謙虚だったら店も流行っていたのに」
というのが、ぼくたちご近所様の声だ。