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ズレた間のワルさも それも君の “タイミング”

どこかで聞いたタイトル(笑)
成功には、運が必要だ。ロック・ポップミュージックでも同様である。天性の才能などの「天運」生育地などの「地運」人間関係などの「人運」そして、時の巡り合わせの「時運」これらが揃って、大きな成功が得られるのだろう。
天性の才能に恵まれ、業界最先端の場所で活動して、一度は脚光を浴びても、タイミングがちょっと合わなかったために、結局マイナーな存在になってしまった。そんなバンドのデビュー・アルバムについて。

The House of Love / The House of Love (1988)

当時購入した輸入盤

概要

The House Of LoveはリーダーのGuy Chadwickを中心に1986年ロンドン南部のカンバーウェルで結成された。Chadwickは旧友のPete Evans(ドラムス)とともに新しく音楽活動をするため、Melody Maker紙にメンバー募集広告を出した。それに応募してきた元Colenso ParadeのTerry Bickers(ギター)、ドイツ人女性のAndrea Heukamp(ギター)、ニュージーランド出身のChris Groothuizen(ベース)をメンバーに迎えてバンドを結成。ChadwickはAnais Ninの小説”A Spy in the House of Love”(邦題「愛の家のスパイ」)から取って、バンドをThe House Of Loveと名付けた。インディーズ・レーベルCreationと契約し、1987年にシングル「Shine On」でデビュー。87年末にHeukampは脱退。代わりのメンバーを入れずに4人組となり、翌1988年にリリースしたのが本作”The House Of Love”(ややこしいことに、同名アルバムが他に2枚あり。公式HPでは、ドイツで出たコンピレーション盤はThe German Album、1990年リリースのはThe Butterfly Albumと呼称)

収録曲

A-1 Christine
A-2 Hope
A-3 Road
A-4 Sulphur
A-5 Man To Child

B-1 Salome
B-2 Love In A Car
B-3 Happy
B-4 Fisherman's Tale
B-5 Touch Me

ミュージックビデオなど

アルバムの感想

80年代UKインディーズ・ロックらしい少し暗めの雰囲気。独特の鬱っぽい感触や、若干古風だが繊細でメロウな旋律、全編に冷ややかな緊張感が漂う。Guy ChadwickのヴォーカルはEcho & The BunnymenのIan McCullochを彷彿とさせる。幻想的なTerry Bickersのギターとあわせネオサイケ風だが、一方で青臭さも残しており「アク抜きしたThe Smiths」という印象。
A-1は、デビュー・シングル「Shine On」と並ぶCreation時代の代表曲。青臭さのある哀愁をおびた繊細なメロディーを、深くリバーブの効いたクールなギターが包み込み、凛として美しい。
B-2は、Chadwickもお気に入りの1曲。夢の中でフワフワしているような感覚になるエコーが印象的。Netflixのドラマ”One Day"で使われたため、最近人気らしい。

エピソード

Guy Chadwickは、公式HPにおいて、本作について以下のように語っています。レコーディング時の小さなトラブルも、微笑ましい。

Still very proud of this record, after all these years. Christine, Love In A Car, Man to Child are absolutely brilliant songs and although we had a limited budget to make the record, we managed to get it to burn. I made the album with a patch over my right eye after my baby daughter Cydney scratched my eyeball with her finger. Luckily the studio was over the road from Moorfields Eye Hospital!

https://www.thehouseoflove.co.uk/discography

上記にも書かれているが、所属レーベルのCreationは当時かなり経営が苦しく、レコーディング予算も限られていた。Creationは本作制作費として10万ポンド(当時のレートで約1800万円)借りたため、本作には同レーベルの命運がかかっていた。本作は13万枚以上売り上げ、結果的にCreationは崩壊からいったん踏みとどまった。(まあ、Creationは この後My Bloody Valentineの”Loveless"で もっと大変な事態に陥るのだが…)

その後のThe House Of Love

本作のヒットによりメジャー・レーベルから注目され、その結果40万ポンド(当時のレートで約7200万円)の契約金でFontana Recordsに移籍。Fontana側は投資に相応しい成功を求めて、バンドに対してヒットを要求。その影響もあってか、バンド内の人間関係に軋みが生じ、Chadwickは精神的に不安定に。レコーディングに2年近くを費やし、1990年に2ndアルバム”The House of Love”(いわゆるThe Butterfly Album、 邦題「シャイン・オン」)をリリース。作品の質は平均以上で、全英8位とヒットはした。しかし1stにあった独特の繊細さは失われ、バンドとしての煌きも減じていた。その後Terry Bickersの脱退などを経て、1992年に3rdアルバム”Babe Rainbow”をリリース。しかし、この作品も完成度の高さにもかかわらず商業的には失敗。彼らは、翌年もう1枚アルバムを出したのち解散した。なお、2005年に再結成したが、それはまた別の話。

私的まとめ

デビュー当時のThe House Of Loveは、日本では「The Smithsの後継者」的な取り上げ方をされたような記憶がある。Creation時代の彼らは、Echo & The Bunnymen などのネオサイケデリックの流れも汲んでいたし、当人たちが述べているように、同レーベルの先輩格 The Jesus and Mary Chainの影響も窺われる。確かに、このクオリティだったら、次世代のThe Smithsになれたかもしれない。
しかし折悪しく、2nd アルバム発表までの2年間にUK音楽シーンの方が変容してしまった。レイブ文化などに影響を受けた享楽的なダンスビートをとりいれたマッドチェスター・ムーブメントである。こうした音楽シーンでは、陰鬱で繊細な点が特長であるThe House Of Loveのようなバンドは厳しい立場になる。音楽の方向性が正反対なのだから。
それでも彼らは、3rdアルバムで、やや華やかで煌びやかなサウンドに寄せようとしてはいた。だが、既に世界的流行はグランジへと変化しており、彼らのサウンドは古臭く時代遅れと捉えられてしまったようである。売れなかった。
デビューアルバムの質を思うと、彼らが5年、いや3年早く世に出ていれば、大きな成功を収められたポテンシャルはあったのではないか。しかし、結果的に失敗であったメジャー移籍のタイミングの悪さ。さらに偶々UK音楽シーンの変化が激しい時期だったため、やる事なす事悉く間が悪く「上手く時流に乗れなかったバンド」となった。これが「時運」に恵まれなかった、ということでしょうか。
余談だが、当時「Guy Chadwickって内藤陳に似てるよね」と、友人に酒席でよく喋っていたが、そもそも内藤陳さんを分かってもらえずネタにならなかった、ということを思い出した。下らないことだけは覚えているものである。

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