クリスマス・アルバムのシーズン
何事にも「旬」というものがある。ロック・ポップスの世界にも当然ある。もちろん、いつ聴こうがリスナーの自由なのだが、例えばサーフミュージックを真冬に聴いても、あまり盛り上がらないだろう。
クリスマスソングは、旬の時期がとても短い。最近では、日本の街角はハロウィーンで一度盛り上がり、ブラックフライデー商戦が終わってから、クリスマス仕様となる。だから長くても1ヶ月。にもかかわらず、クリスマスソングに名曲は多い。私の若い頃なら、山下達郎さんのアレとか、ワムのとかマライア・キャリーのとか、ちょっと変化球でポーグスのアレとか…
クリスマス向けにリリースされるアルバムも当然多いが、これは洋楽系が良い。宗教的背景が違いすぎるので仕方ない。フィル・スペクターのなど有名作品が数多あるのだが、今回は、1980年代後半の雰囲気を思い出させる、このアルバムについて書いてみる。
A Very Special Christmas / Various Artists (1987) 邦題「クリスマス・エイド」
本作の概要
本作は、スペシャル・オリンピックス* のために制作された、クリスマスをテーマにしたコンピレーション・アルバムである。ジャケットのアートワークは、ポップアートの雄 Keith Haring。邦題でもわかるように、’84年のBAND AIDから繋がる、1980年代ロック・ポップスシーンにおける一大チャリティー・ムーブメントの一つ。レコード業界の巨匠、Jimmy Iovineの呼びかけによって実現した。1987年10月12日にリリースされ、何百万ドルもの寄付金を集めた。本作が好評だったことにより、この後シリーズ化された。
*スペシャルオリンピックスとは
知的障害のある人たちに、オリンピック競技種目に準じた様々なスポーツトレーニングとその成果発表のための競技会を、年間を通じ提供する国際的スポーツ組織。1968年 J.F.ケネディ大統領の妹ユニス・シュライバーが、知的障害のある人たちのスポーツを通じた社会参加を応援するために設立した。
収録曲 (括弧内は邦題)
Side-A
Santa Claus Is Coming to Town (サンタが街にやってくる) / The Pointer Sisters
Winter Wonderland (ウィンター・ワンダーランド) / Eurythmics
Do You Hear What I Hear? (ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア?) / Whitney Houston
Merry Christmas Baby (メリー・クリスマス・ベイビー) / Bruce Springsteen & the E Street Band
Have Yourself a Merry Little Christmas (メリー・リトル・クリスマス) / The Pretenders
I Saw Mommy Kissing Santa Claus (ママがサンタにキッスした) / John Cougar Mellencamp
Gabriel's Message (ガブリエルのメッセージ) / Sting
Side-B
Christmas in Hollis (クリスマス・イン・ホリーズ) / Run-D.M.C.
Christmas (Baby Please Come Home) (クリスマス(ベイビー・プリーズ・カム・ホーム)/ U2
Santa Baby (サンタ・ベイビー) / Madonna
The Little Drummer Boy (リトル・ドラマー・ボーイ) / Bob Seger & the Silver Bullet Band
Run Rudolph Run (ラン・ルドルフ・ラン) / Bryan Adams
Back Door Santa (バック・ドア・サンタ) / Bon Jovi
The Coventry Carol (コヴェントリー・キャロル) / Alison Moyet
Silent Night (きよしこの夜) / Stevie Nicks
ミュージックビデオなど
ごく私的な感想と思い出
参加アーチストを一覧すると、当時人気が高い方ばかりで、よくぞこれだけ集められたものだ、と感心します。そのためか、アルバムとしての曲の流れや統一性はない。Whitney HoustonとChrissie Hynde(The Pretenders)に挟まってBruce Springsteenの野太いボーカルのライブ音源があったり、Bono (U2)とBob Segerの骨太な声に挟まってMadonnaが可愛らしい声を出してたり、通しで聴くと驚きです。でも、当時既にCDが主流となっていたので、曲順の流れなどはあえて考えられていないのかもしれません。
Springsteenは私のアイドルなので、A-4を聴くために入手した記憶があります。当時最盛期のJohn (Cougar) MellencampのA-6も、彼らしいサウンドで好印象でした。最も驚いたのは、B-1のRun-D.M.C.でした。上記のミュージックビデオを含めて、この中でも異彩を放っています。クリスマスのウキウキ感にもマッチします。私が最も好きなのは、B-2のU2です。名盤”The Joshua Tree”をリリースした直後で、彼らの自信と余裕が感じられます。上記のミュージックビデオ、翌年の映画「魂の叫び (Rattle and Hum)」みたいだなぁ。と思って調べてたら、監督同じでした。本作のハイライトは、このB面冒頭の2曲でしょう。
最後のB-8はStevie Nicks。ファンの方には申し訳ないのですが、彼女の歌い方で"Sleep in heavenly peace”って歌われても、悪夢を見そうです(笑)
1987年当時、私の周囲では、本作をチャリティー関係なく洋楽スターたちのオムニバスアルバムとして捉え、CD(またはカセットテープ)をドライブデートのお供にしていました。12月24日まで大騒ぎで、バブル時代におけるクリスマスのイメージ通りですね。ちなみに、山下達郎さんのアレがスタンダードになるぐらい売れだしたのは、翌年のこと。さらに余談ですが、この12月24日にBOΦWYが、渋公のライブで解散宣言してます。そんな時代でしたが、当時の私は学校以外はバイトに明け暮れ、なけなしの資金で1960-70年代のロック名盤を(再発か中古で)購入し夢中になってました。クリスマス・デート?なにそれ?状態。でも、本作の真っ赤なジャケットを見ると、世間の好況感とは違ってたかもしれないけれど、とても幸せだったあの頃の時間が蘇ります。