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コミュ障すぎて屋上でお昼ごはんを食べてた日々のこと

天狼院書店のライティング・ゼミで書いた課題を転載します。

学生時代、いわゆるコミュ障で根暗だった。
高校に入学してすぐの頃は特にひどく、ほかの人が自席に座っていたときに何も言えないくらいコミュ障だった。
「お昼自席で食べるから他の席を使ってくれない?」
と言うひとことが言えなかった。教室に戻ってきた私に気づいて
「あ、ごめんね」
と席を立とうとしたクラスメイトに
「あ、大丈夫です」
的なことを言ってカバンに入れていたお弁当を取り出して教室を離れた。友達とわいわいしながらお昼ごはんを食べる人たちの横で、ひとりで食べる勇気もなかった。

そんなわけでお弁当を片手に、学校中を回ってひとりで静かにお弁当を食べられそうなスペースを探していた。見つけたのが学校の屋上だった。
馬鹿と煙は高いところが好きと言うように、見晴らしの良い屋上がすぐに好きになった。格好のひとりになれるスペースを見つけた私は、お昼休みのたびにいそいそと屋上に出かけていた。

そんなある日、屋上に二人の見知らぬ先輩がいた。

ガーン。ひとりの楽園だったのに……。
と、思いつつも、同級生とさえうまく話せない私は先輩たちを避けて少し離れたところに座ってお弁当を食べ始めた。

そうしたら先輩のひとりに
「友達いないの?」
と笑いながら話しかけられた。入学したての後輩が屋上でひとりでご飯を食べていたらクラスに馴染めてなさすぎて心配になって当然だろう。いやいや、先輩とか怖すぎる! と最初は警戒していた私だったが、わざわざぼっちのやつに話しかけてくれることからも分かるように心優しい先輩たちだった。ちなみに先輩たちは友達がいないわけでなく、教室のお弁当の匂いが嫌いで屋上でごはんを食べているようだった。その時何を話したかあまり覚えていないけど、特に約束もせずに、お昼休みはなんとなく屋上にきてなんとなく一緒にお昼ご飯を食べるひとができた。

学校生活がほんの少し楽しくなった。

先輩から貰ったプレゼントがある。
本当は先輩の好きな人にあげるはずだったティーポットだ。好きな人の誕生日のために買って、放課後好きな人が下校するときに渡そうとしていたが、先輩は結局渡せなかったのだ。
「渡せなかったので屋上で燃やします……」
と、先輩からメールがきた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 燃やすくらいなら私が貰います! あと屋上で燃やしたら先生たちに怒られます」
と、慌てて屋上まで取りに行った思い出のプレゼント。その先輩たちと屋上でお昼ごはんを食べていた日々をぼんやり思い出しながら今でも大切に使っている。

屋上には天文学同好会が使っていた小屋があった。天体望遠鏡や、布団、天文学に関する本が少しだけ置いてあった。たまに、部員のひとが布団を干しに屋上にやってきていた。ただ、この学校にそんな部活があるなんてほとんどの人が知らなかっただろう。そして今の部員たちはもうすぐ卒業して、この部活はなくなってしまうようだった。

「天文学同好会、復活させませんか?」
屋上でご飯を食べていた先輩たちとそんな話になった。私は特に星が好きだったわけではないが、屋上にある天文学同好会の小屋に入ってみたい! というのが主な理由で天文学同好会の部長になることにした。

部長の仕事としては、顧問探し、夜間に学校に立入る許可申請、部員探しなどをした。顧問は赴任したばかりの気の弱そうな(大変失礼しました)先生に頼み込んだ。夜間に学校に入る申請は、これまでの活動どうしてたんだ……て思うくらい渋られたが顧問がいるならと許可をもらった。部員探しは学校中にポスターを貼って募集した。そうすると私よりも星や天体のことが好きな子たちが集まった。

そうして天文学同好会として活動をスタートした。

正直屋上の小屋に入ってみたかったところが大きくて活動自体はあまり力を入れられておらず、部員たちには会うたびに
「先輩、活動しましょうよー」
と言われていた。数少ない活動として学校の屋上での天体観測、近くの天文台への合宿などなかなか楽しかったことを覚えている。そして屋上の小屋は私の期待していたとおり、古くてほこりっぽくて、秘密基地のようで居るだけで楽しかった。

最近、学校のホームページを見たときに「天文学同好会」は続いているだろうかと思っておそるおそる部活動のページを開いた。無事に続いているようだった。

私のいた学校はとても田舎で、とても星がきれいに見える。
星を好きになる子も多いだろう。そんな子が天文学同好会に入って、あの屋上でいまでも星を見てるかと思うと、あの頃コミュ障すぎて屋上でお昼ごはんを食べていた私もすこし嬉しくなるのだ。

おわり

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