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最後の1日

令和4年8月10日 午前2時2分に71才で父が他界した。

死期が近いのは分かつていたけど、突然すぎる終わりだった。
亡くなる8時間前、前日の午後6時に外で一人タバコを吸う父と声を交わしたから。そんな状態で数時間後にあっけなく死んでしまうなんて思うはずがない。

それでも、何かの虫の知らせか、偶然私は仕事を休んでいて、たまたま母の代わりに父の様子を見るために、実家で最後の1日を共に過ごした。
その時の父の願いは「タバコを買ってきてくれないか」
父は、一人で数100メートル先のコンビニすら行けない状態になっていた。
私はすぐに承諾し、購入数を聞くと「10」という返事と、現金1万2千円を差し出した。
この時、父もまだタバコを10箱は吸い終えるだろう体の余力を感じていたと思う。

そして、第2のたまたまが、泊まる予定ではなかったのに、私が実家に泊まることになった。
父の介護ベットの横に布団をひき、一緒の部屋で初めて寝た。といっても、一睡もできなかったのだが。

夜中に、薬で錯乱した父がうなされながら、起き上がろうとしているが、自力で出来ない。半分暴れるような状態の父を後ろから抱き抱え座らせる。「どうしたの?」と聞いても「わからん!」と怒っている。
怒った父など見たことがなかったので、抱き抱えたまま、赤ちゃんを落ち着かせるように、「大丈夫だよ」と、とんとんした。

くすりが効いてきたのか、落ち着いて来た父は、何かを話そうと懸命に声を出すが、もうすでに声を絞り出す気力は残っておらず、かすれた音が喉から漏れ出るのみだった。
「寝たらよくなるから、早く目をつぶって寝な」そういって、最後の言葉がなんだったのが聞くことはできなかった。
そのまま父はこの世を後にした。

生前の最後の1日を託され、さらに死後の肉体最後の日も葬儀場で共に過ごすことになった。

時が過ぎる度に変化していく父の顔を見続けた。祖母に似ていると思った一時間後には祖父に似ているように見える。この世で関わった人たちを父が思い出しているのかもしれない。

父と共に迎えた最後の朝。
本日、肉体としての父も消えてしまう。

早朝5時から鳴き始めた真夏のセミの声は、父の表情を昨日より和らげたように感じる。

お父さん、最後の日を一緒に過ごさせてくれてありがとう。

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