皆さん、博多と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?ラーメン、そう、豚骨ラーメンが思い浮かぶはずです。 福岡といえばトンコツラーメン。白濁したスープにネギ、チャーシューとキクラゲを浮かべ、細麺とともに味わう一品です。豚の骨をじっくりと時間をかけて煮込み抽出したスープは濃厚で、その虜になる方々は多くあります。 ですが現在博多、いえ、福岡全域でラーメン市場に異変が生じていることをご存じでしょうか。 家系や二郎系の進出?醤油や塩、あるいは味噌の台頭?まぜそばや油そば、冷やし中華
福岡といえばラーメンだと人は言う。観光ついでに有名店に足を運び、麺の固さを選んで運ばれてくるまでの間に卓上の高菜を味わう。ラーメンが届けばゴマやコショウを振りかけつつ啜り、注文時とは異なる固さの替え玉を注文する。そういった楽しみ方がまあ一般的だろう。 ところで皆さんは裏メニューというものをご存じだろうか。一般的には、常連と認められた客だけに提供される特別なメニューのことだ。新たな味付けを試したり、ひと手間掛けたチャーシューが乗せられたり、新メニューの試作品だったりと信頼
私の本業は本屋だ。本屋と言っても大きい物ではなく、商店街の一角のスナック跡に本棚を運び入れ、自分で選んだ本を並べている程度のものだ。時折、近隣の住民が訪れたり、学生が課題図書の注文に来るほかは暇だった。 店番の傍ら、本の紹介と感想の中間のようなものををしたためたりしていた。自分で印刷して店先に掲げていたが、知人のつてで出版社のPR雑誌に掲載されたりした。そうやって不定期に掲載されていた記事の数が溜まり、ついに単行本として出してもらえる運びとなった。200ページほどの本の背
今年も逆噴射小説大賞お疲れ様でした。800文字の弾丸を5発撃ち尽くしたので、改めて投稿作を見返し、どういうつもりで書いていたのかなどを簡単にまとめたいと思います。 1作目「星雪祭の夜」 冬のある夜、雲一つない星空から雪が降ってくるのを見上げるというイベントをそれっぽく書きました。電車とか鉄道ではなく電鉄という単語を使ったり、帝国の宇宙移民船や電気虫現象というワードから「地球じゃないな」感を味わっていただければ幸いです。この後は、「私」が子供の頃にいかにして星雪祭が始ま
恐竜(きょうりゅう) 1:中生代に出現した大型爬虫類の総称 2:心霊を捕食する霊的存在の総称 ガキの頃、あの世や幽霊は存在するのか?とか考えた奴は少なくないだろう。大人になってもその疑問が忘れきれない奴もいるだろう。そんな連中の一部が、あの世の座標特定やあの世と交信する試みを繰り返した果てに、幽霊との対話に成功した。交信に応じた幽霊が最初に発したのは、自分が何者かだとか死後がどんな気分かだとかではなく、ただ『助けて』の一言だった。直後、交信相手は何者かに貪られ、消滅した。
姫騎士。姫殿下直轄の特務騎士団構成員の朝は早い。日が昇る前、未だ星々が輝きを宿している中、ベッドから彼女は身を起こした。平均よりもやや高めの身長で、うっすらと薄い脂肪を筋肉質の四肢に乗せた女であった。整った顔立ちだが、一文字に結ばれた口元と見開かれた目のせいで怒っているように見えるが、彼女は極めて冷静である。 「呼吸、脈拍…異常なし」 簡単に自身の体調を確かめ、身支度を整えると彼女は窓を開いた。遠く、朝もやに沈む町の向こうに王宮の影があった。女は王宮に向け敬礼しながら囁い
体毛のない女が好きだ。口に出すつもりはない。僕は、応接テーブルを挟んで座る依頼人の話を聞きながら、彼女の顔を見ていた。 「今回は商談の成立阻止を委託したいと考えています」 つるりとした、光沢さえ帯びるような滑らかな肌が開閉する唇を取り囲んでいる。細面の冷たいとも表現できる面立ちや、数分前に定規を当てて切りそろえたかのような前髪と相まって、非人間的な印象をもたらす。 「対象はプラント系企業とバイオ企業の二社です。両社とも一見関りが薄いようですが、今後わが社の脅威となり得ます
アイツは最高。しわくちゃミイラでも、乳首とへそが横に並んでも、俺はアイツを毎晩抱く。 俺がゾンビ街に転がり込んだのは偶然だった。貨物電鉄に乗り込み追っ手を巻いて、グースカ眠っていたら、電鉄の乗員に叩き出された。そのまま線路を辿った先が、ゾンビ街だった。 ゾンビ街ってのは正式な名前じゃねえ。立派な名前があるだろうが、磁鉄鉱山と電鉄が閉鎖になれば街としては死んでいるし、役場をヤバい連中に乗っ取られればゾンビと同じだ。だが、死体だろうがゾンビだろうが、ハエにとっては腐肉に違い
電鉄のストで仕事を早引けした日の夕方だった。 「今日は星雪祭なんだって!」 ただいまより先に玄関から届いたのは、息を弾ませた息子の声だった。もうそんな季節か。私は居間のソファに腰掛けたまま新聞を閉ざした。 「先生が言ってたよ!星と雪が一緒に降ってくるんだ!ねえ、行ってもいい?」 よし、と告げられれば飛び出していきそうな勢いが、息子の声に宿っていた。しかし妻は台所から、たっぷり厚着していきなさい、と言った。 「分かった!」 息子は階段を駆け上がり、自室に飛び込んだ。同時
博多の親不孝通りをご存じだろうか。青山のキラー通りに憧れた地方都市の若者達が、博多の街路に物騒な名前を付けて回った。殺人ストリートやピストル交差点といった名前が現れては消え、今となっては予備校が存在する親不孝通りだけが残った。単なる流行り廃りもあるだろうが、近隣住民の治安向上の努力と、不良一掃浄化作戦によるものだ。流された血は多かったが、名誉は守れた。 しかし今、博多の治安は危機に瀕している。親不孝通りのとある居酒屋前に、首のない男が倒れていた。頭が付いていれば身長19
私は首をひねっていた。ショートショートコンテストのとある作品に対し、納得がいっていないからだ。 ショートショートとしても短い400字までというくくりであるが、その作品は280字程度しかない。内容としても「九筒」という会社員の男が、イレイメなる女と何らかの仕事のため外国に行くという内容だ。ただ、文章が非常に読み辛い。登場人物も主人公の九筒と相棒のイレイメ、「彼」なる男とその孫まではカウントできたが、場所も人物像も、そもそも何が起こっているのか把握するのが困難なのだ。 中盤
地球から遠く離れた宇宙空間を、一隻の船が漂っている。全長数キロメートル、最大乗員数十万人に及ぶ大規模な恒星間移民船だ。しかし、内部は静まり返っており、人の気配はほとんどない。この船はコールドスリープ型移民船で、最低限の人員以外は深い冷凍睡眠に入っているからだ。 ほぼ貨物室のような殺風景な区画に冷凍睡眠ユニットが整然と並んでおり、内部の状態を示すパネルが静かに淡い光を放っている。中では、移民志願者の若い男女が静かに、新天地での目覚めを待っていた。 そして船の先端近くに、唯
ドアノブに力を込めると、扉は容易く開いた。扉の向こうはアパートの他の部屋と同じ六畳一間で、椅子のほかには何もない。椅子には男が腰掛け、足を投げ出して背もたれに体重を預けていた。おそらく死んでいる。胸に生まれつき頭が入るほどの大穴が開いているという、特殊な人間でもない限り。 俺の隣で、息をのむ音がした。隣室が臭うと訴えて俺の袖をつかみ、ここまで引っ張ってきた管理人気取りの婆だ。婆は扉から溢れる臭いをたっぷりと吸い込んだためか短くうめくと、口を押えて廊下を転がるように駆けてい