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動画をRAGで検索する時代が来る?「VideoRAG」の可能性

企業向けにRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムを提供するスタートアップ、株式会社ナレッジセンスのブログ記事(2025/01/14 公開)で紹介された「VideoRAG」が、いま注目を集めています。これはテキスト情報だけでなく、動画コンテンツもRAGのソースとして活用できる技術です。本記事では、このVideoRAGの全体像とポイントをかみ砕いて解説し、企業導入のヒントを探ります。


RAGのおさらい

RAGは、大規模言語モデル(LLM)と、外部の知識ソース(ドキュメントやデータベースなど)を組み合わせることで、高度な質問応答や要約を可能にする手法です。通常のRAGはテキスト中心ですが、近年はマルチモーダル(画像・音声など)の情報源を活用する「マルチモーダルRAG」への進化が進んでいます。VideoRAGは、この流れをさらに発展させ、動画を検索対象とする新しい手法です。


VideoRAGの概要

KAISTとDeepAuto.aiの研究者が提案したVideoRAG[1]は、動画そのものをRAGのソースに取り込めるように設計されています。既存のRAGと大きく異なる点は、動画を解析できる「LVLM(Large Video Language Models)」を利用していることです。テキストだけでなく、動画の内容や音声(字幕)をベクトル化し、ユーザーの質問との類似度を計算することで、回答に活用できます。

具体的な手順の例

  1. チャンク化
    動画を4秒ごとなど、短い単位で切り分けます。

  2. 字幕の生成
    Whisperのような音声認識モデルで音声を文字起こしし、動画とテキストの対応関係を作る。

  3. ベクトル化
    「InternVideo」のようなLVLMを用いて、チャンク化した動画と字幕を埋め込みベクトルに変換。

  4. 検索・回答生成
    ユーザーのクエリを同じくLVLMでベクトル化し、最も関連度が高い動画チャンクを上位k個取得。さらにLLaVA-Video-7Bなどのモデルを用いて、動画のコンテキストを踏まえた回答を生成する。


従来のRAGとの違いとメリット

1. 手順が重要な質問にも強い

文字情報だけでは伝えきれない、実際の動作や視覚的な流れが必要な質問に対して、VideoRAGはより的確な回答を生成できます。たとえば「車のダッシュボードでクッキーを焼く方法」のように、視覚的・動的情報が不可欠なケースにも対応可能です。

2. 動画データの利活用が促進

オンライン商談や、決算説明会の録画など、ビジネス現場では動画データが急増しています。VideoRAGはそれらの映像を直接検索対象に組み込むため、動画マニュアルやカンファレンス録画などの大量データを一元的に検索し、必要な情報を素早く抽出できます。

3. 字幕だけでなく映像面も活用

VideoRAG-T(字幕のみを使用)とVideoRAG-V(映像のみを使用)という形態があり、両方使うVideoRAG-VTではさらに精度が高まると報告されています[1]。背景には字幕精度の問題もあり、映像解析を用いることでより正確に文脈を拾える点が大きいでしょう。


実際に導入するための課題

現時点では、動画解析に対応した大規模言語モデル(LVLM)の数が限られています。研究段階で使われている「InternVideo」や「LLaVA-Video-7B」などはあるものの、まだ汎用的な商用モデルは少ないのが現状です。しかし、OpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiが今後動画入力に対応すれば、VideoRAGの汎用化や実用化が一気に進むと期待されています。


企業導入時のポイント

  1. 動画データの整理
    オンライン商談や研修動画などをチャンク化し、メタデータや字幕を整備しておくことが重要です。

  2. プライバシーとセキュリティ
    社内情報が含まれる動画を扱う場合は、権限管理や暗号化、オンプレミス環境での実装など検討事項が増えます。

  3. モデルの更新とメンテナンス
    現状のLVLMは開発途中のものが多いため、モデル更新やライブラリのアップデートが頻繁に起こり得ます。長期的視点で運用体制を考えましょう。


今後の展望

動画を検索可能にするRAGは、エンタープライズ領域のDX推進に大きく寄与しそうです。特に、営業や顧客サポートの現場では、過去のオンライン商談録画やFAQ動画などを活用でき、問い合わせ対応の効率化も期待できます。さらに、社内オンボーディングの研修動画や技術解説の映像資産など、さまざまな動画情報にアクセスが可能になるでしょう。

今後、GPTやGeminiなどの主要モデルが動画解析機能を取り込み始めると、VideoRAGは一気に注目度を増すと見込まれます。その際には、動画の要約や多言語対応など、より高度な機能も実装されるでしょう。


まとめ

VideoRAGは、従来テキスト中心だったRAGを、動画情報にまで拡張する強力なアプローチです。企業で増え続ける膨大な動画資産を活用し、業務効率化やナレッジ共有をさらに加速させる可能性があります。まだ研究段階の要素は多いですが、今後の技術進歩で実運用が現実的になれば、マニュアルやオンライン会議などの映像データをあたりまえに検索できる時代がやってくるでしょう。

もし、自社のRAGシステムに動画検索を加えたいと考える場合、現在のLVLMの利用可能範囲や、セキュリティ面の整備をしつつ、将来のモデルアップデートに備えることが大切です。


参考文献

[1] “VideoRAG: Retrieval-Augmented Generation over Video Corpus”, Jeong et al.
[2] LVLM(Large Video Language Models)とは、動画とテキストを解釈可能な大規模言語モデルであり、画像とテキストのみのVLM(Vision-Language Model)とは区別される。

(引用元:RAGで動画検索。「VideoRAG」の解説