【白の手帖】2頁「ただ広くて、とても狭い夢」
この人が私を殺そうとしていることは、会話の最中で察知した。
砂のようで無機質な何かが敷き詰められた、
外なのに室内のような場所を二人で歩きながら、その人は気づかれないように慎重に私に間合いを詰めていた。
しかし私は怖れと同時に、その思考ごと呑み込んでしまおうと煙に巻く支度を始めていた。
会話で時間を稼いだ。
「空と海の境界が
だんだん無くなっていくんです」
「聞こえますか?この音」
水が揺蕩う
「ダムの音か」
「いや、これは
飛行機」
「くだらない」
「そう くだらない話で今日一日は終わるんです」
あのホームルームの棟が
広さを持て余しすぎではないかとか
この給食配膳室は僅かな黴臭い匂いがして
大丈夫かなとか
あなたには守るべきもの
愛してくれるものがあって良いですね。
逃げられないって思っているんでしょう?
夢は
夢と自覚する瞬間に目が醒める
その人に言いました。
「さよなら」