奏心声音㉓
9月も終わろうとしている
僕はこの9月に何か自慢できることが出来ただろうか
人に誇れる何かを
そんなことを考える日曜の午後
隣では折り紙に夢中の少女がいる
『でかけないか?』
小雨の降る中 僕は少女に尋ねる
彼女が暇そうに見えたわけではない 笑顔にしたいと思ったわけでもない
ただ自分の気持ちが前に進まないことに苛立っただけだった
きっと僕は無表情で 声は曇っていたんだろうか
最高の笑顔で彼女は僕を見上げて
いじわるそうな顔をして一本のマジックペンを差し出してきたんだ
『ん?』
彼女は僕の腕を小さな手でつかみ
ちょっと不格好な テルテル坊主を描き始める
『あ・・・ いつものおまじない』
ぼくはいつの彼女がさみしいとき
ぼくはいつの彼女が泣いているとき
ぼくはいつも彼女が怒っているとき
【こころの曇りが晴れますように】
と言いながらテルテル坊主を手のひらに描いていた
でも
きょうは
ぼくの手のひらに にこにこ笑ったテルテル坊主がいる
せっかく二人で過ごす休日
笑って過ごそう
少女を抱きしめ 心の底から
『僕にも 折り紙を教えてよ』と耳元で語りかけた