もう一度

夜は神秘的な香りがする
星のシャワーを避けながら　クラリネットを片手に彼女は
夜空を飛び回り散歩する

止まり木のってっぺんで
つかの間の休憩
持ってきたクラリネットを見ながら大きく息を吸う

その心地よい音色に　木々はざわめき
星たちは踊る

穏やかで口数の少ない彼女は　会話することが苦手
でもたくさんの友達が欲しくてクラリネットを始めた
音色は人を表すとは言うけれど
彼女に音色は優しく　穏やかで　ときどき悲しげ
その音色にたくさんの人が涙を流し　最後に笑顔を見せる
不思議だった

そんな彼女と出会ったのは　京都のとある教会のクリスマス
それぞれの出し物を披露する予定だった
好きで引いていたピアノを私が披露した後に
彼女が小さなクラリネットを手に舞台に上がってくる

その彼女に目にはたくさんのきらきら輝くものが
　　　　　涙・・・・

緊張で泣き出した彼女　舞台の上で　一人　すすり泣くその声が
楽器では出せない切ないメロディーに聞こえ
思わず私は　舞台に戻りピアノを奏でる

ほかの仲間も　思い思いの楽器で　彼女のすすり泣きのメロディーに伴奏をつけだした

そうこれが私と彼女の出会い

家が近いこと　歳が同じこともありすぐに仲良くなり
二人でいつか二人だけのコンサートをしたいねと約束したのは小学生の時

お互い別の道を歩きながらも　成人式の日　はじめてその夢をかなえたね
たくさんの友人の協力で初めての二人のコンサート
あの日のことを今でも思い出す

あの日から5年
毎年　二人だけのコンサートは欠かすことのない私たちのイベントになっていた

令和６年　前半で体調を崩してしまった私のことを心配して
そのコンサートをクリスマスの日に設定したんだよね　そう私の誕生日

体調が戻り　仕事終わりに短時間の音合わせ
曲決め　パンフレットつくりや　挿絵　・・・そして招待状つくり

７月　　めまいがすると彼女からの電話　『疲れてるんだよ』
軽くそんなふうに返した自分がいた

8月        なんか食事が喉を通らないんだよ『夏バテか         な？水分取りなよ』

そんな会話で電話を切った

8月24日   1週間ほど連絡がつかなくなった彼女が心配で 妹さんに連絡をして  彼女が事故を起こしたことを聞く

頭痛と栄養不足からのめまいで仕事を早退して病院に行く途中での事故
そこからの記憶障害　一時的なものだと思っていたのに
いつまでたっても私のことを思い出さない彼女に悲しさしかなかった

でも　　そこから始まる
あの日　　はじめて出会ったあの日のように　
また友達のやり直しを

二人で京都の町をうろうろしたね　和菓子を買って　湯豆腐のお店にも行ったし　お寺巡りも　一日に５つのお寺を回って罰が当たるんじゃないかって笑ってた
貸衣装屋で着物を借りて　撮影会したり　観光客相手に英会話レッスンしたり　　

いろんな楽器の演奏者とコラボでインスタライブしたり　
でもお互いのラグがありすぎて演奏がぐちゃぐちゃなの　大笑いしてたね

海に出かけておぼれかけた時もあったね
大きな波を潜ってみるなんて競争をしてタイミング悪く波にたたきつけられて・・・　　知らない人に助けてもらったときは　さすがに怖かったな～
生きててよかったねって二人で泣いたね

お互いの誕生日の日は必ず深夜に夜景を見に行った
その場所に１年間大切に持ち歩いたハンドメイドのお守りを土に埋めて
プレゼントにまた新しいお守りを渡す　これ何年続いたかな？
何個お守り作ったかな　　15こぐらい？おぼえてる？

風邪をひくたびに毎日家に来てくれたし
入院中は毎日日常の風景の写真をくれた
悲しいときは会いに来てくれて
楽しいときは電話でよく大笑いして

お互いの趣味を押し付けあって喧嘩したことが一度だけあったね
でも

喧嘩ってその一度だけだった

知らないうちに彼女は　誰とでも話せてたくさんの友達を作ってて
きらきら輝きだして　でもいつも近くにいてくれた

事故の知らせを聞いてから２か月

記憶障害で自分のことも今置かれている状態もわからなくなってしまい
入院してリハビリを頑張っている彼女に

思い出の写真を集めてアルバムも作った
みんなで演奏して　みんなの奏でた音を届けた
イラストの得意な友達は　出会った頃の思い出を絵本にしてもらった
手紙もたくさん書いた

でも　文字も忘れてしまった彼女
電話の存在も忘れてしまって　既読もつかなくなったline

いつか
いつか必ず　　と願っていたのに

心肺停止の連絡が来る　　夕方
仕事終わりに　　一時心肺停止になり持ち直したけれど人工呼吸器で
ICUにいます　とても危険な状態だと

夢の中でも　また友達になってくれますか？
夢の中でわたしに微笑んでくれますか

わたしの夢の中に　遊びに来てくれますか

記憶が戻って　目覚めたとき　私の名前を一番に呼んでほしい