妻の愛は押しつけだったのか
夫のメタボとの戦いについては、是非私のこれまでの奮闘ぶりを知っていただきたい。
あれやこれやと食事作りを工夫したのにことごとく無下にされた悲しさを、ここで成仏させたいと思う。
夫の食生活を観察していると、糖質と脂質にまみれていることがわかる。
和菓子より洋菓子派で、「最近ケーキを食べてないなぁ」というのが口癖。給料少なめで質素な一人暮らしだった私はケーキなんてそもそも自腹で食べる習慣がなかったので、このセリフは雲の上の人間のものだった。
ちなみにパウンドケーキはケーキに含まれず、生クリームが必須。
飲酒は主に甘い缶チューハイ、ワインも飲むし日本酒大好き。
缶チューハイに『糖類0』と表示があっても、お酒を飲むと食欲が爆発するタイプなので残念。
飲むと食べなくなる方だったら良かったのに。
お肉が大好きで、脂身も積極的に食べる。
牛ステーキなんて食卓に滅多に出ないけど、私は脂身が苦手なので切り取って夫にあげると喜んで食べてくれる。
これについては私も共犯であることは否定できない。
かといって、そればかり食べているわけではなく、夫はきちんと野菜も魚も食べるので、偏食ではない。
ただ、選択するという場面になると、より甘く・より脂っぽいものを手に取りがちなのだ。
せっかく食べられるのなら健康的なものではなく、ただただ美味しいものが食べたい。
つまり、食べることに関しては自分の欲望に忠実なのである。
このような夫なので、食事制限など受け付けないことはわかっている。
そんな人がダイエットするには、太りやすい食材を健康的な何かで代用した食品を食べる、というのが不満の出にくい方法なのではないかと思う。
そこで私はまず、おからスイーツの生産に着手した。
Googleでもクックパッドでも、レシピの検索は容易い。
ホットケーキミックスと生おからでできるクッキーを焼いてみた。
クッキーといっても、ものすごくしっとりしている。
砂糖は少なめだが、ベースはホットケーキミックスなのでほんのり甘い。
おからのおかげで、ピンポン球ほどの大きさでも1つ食べれば満足できる。
夫に食べてみてと勧め、「ふーん」と1つ口に入れて出た感想は「甘くないね」だけだった。
以降、2つ目を食べることはなかった。
夫にとって、甘さ控えめのスイーツは食べてもスイーツとしての意味がないようだ。
代用品として用意しても、何も変わらず他の市販品をモグモグ食べているのでは、ダイエットとしても全く意味をなさない。
夫にとっては「妻が妙なものを作った」というちょっとした事変に終わっただけだった。
尚、残りのおからクッキーは私と息子で美味しくいただいたのでご心配なく。
次に私は、普段の食事から糖質をゆるくカットすることに取り組んだ。
あくまでも『ゆるく』である。
完全にカットすると主食がなくなって、ブーイングの嵐が吹き荒れるに違いない。
クックパッドで見つけたのは、『大根の皮餃子』。
その名の通り、餃子の皮を大根で代用したものだ。
大根を薄くスライスし、塩をふってしんなりさせ、タネを包んで粉を振りかけて焼く。包むといってもひだは作れないので、タネを乗せてパタンとたたむ。
当然、市販の皮を使うより断然手間が掛かる。
しかし、食べてみると大根の水分と混ざり合ってすごくジューシーで美味しい。
だがしかし、夫の反応は可もなく不可もなくといった感じの
「大根なの?へー」
という一言。それどころか、
「それなら普通の餃子が食べたかった」
とまで。不可ではないか。
大根を薄くスライスする作業はなかなか大変だったのだ。キレイに丸く均等な厚さにするのはけっこうな技術がいるのだよ!
こちらの労力と夫のリアクションが見合っていないやるせなさで、それから大根の皮餃子は1度も作っていない。
またある日、私が作ってみたのは『高野豆腐サンド』。
なんと高野豆腐をパンの代わりにしてサンドイッチにするという、普通に暮らしていたら気づきもしないアイディアだ。
実は私自身は高野豆腐が苦手で、1度も買ったことがない。
しかし、水で戻した高野豆腐をバターで焼くという工程がなんだかそそる。
具材はウィンナーとレタスにして、いざ夫の前へ。
夫は何も言わずに全部食べた。
食べたが、終始複雑な表情だった。
食パンに比べて明らかに高くつく。
高くついた上に喜ばれない。
こうして高野豆腐サンドも封印された。
ちなみに私は食べてみて、いける!と思った。
もしこの先医師の指導でパンを控えよとなったら、迷いなく代用できる。
しかし、夫にはこのような代用の仕方は迷惑なようだった。
そうはいっても、私とてこのような大胆なメニューを繰り出してばかりいたわけではなく、基本的にはいつもの我が家の定番料理に工夫を凝らしていた。
野菜でカサ増しするとかおからパウダーを混ぜるなど、気づかれないような細工である。もちろん全体の栄養バランスはよく考えた上で。
ところが夫はこちらの考え抜いた献立などお構いなしで、仕事帰りにスーパーに寄っては「値引きしてたから、つい」とお惣菜を買ってくるのだ。しかも揚げ物。
ダイエットなどクソ食らえ。
ドーナツを買ってきた日も、明日の朝ごはんにするならまあいいか…と思った翌朝、袋を開けると昨夜のうちに2個食べた後だったりする。
『お土産買って帰る。何がいい?』と連絡があり、先手を打ったつもりで『おいしい果物』と返信するも、確かに私にはカットパインを買ってきてくれたが、自分にはエクレアを買っていたことも。
そんなことが続き、こちらの努力に逆らうように夫はさらに一回り大きくなった。
夏休みの間の外食が響いたらしい。
半年近く頑張ったが、私の心は折れ、敗北を認めざるを得なくなった。
もうやめよう。十分頑張った。
悲しいが、夫に対する怒りは口にしてはならない。
何故なら、食事は私が勝手に考えて作っていたことで、夫に頼まれたわけではないからだ。
あなたの為に、あなたの体を思って、などと言われても、そんなものは気持ちの押し付け以外の何ものでもない。
私が頑張った軌跡はTwitterの『#夫のメタボ対策』でズラッと出てくるので、ご興味のある方は是非。
こうして私のダイエットメニュー作戦は静かに終わりを迎えた。
しかしこれはあくまでもシーズン1のお話である。
時を経て再び夫のダイエットチャンスが訪れるのだけど、それはまた次回。
全て吐き出すまで、私の悲しみや虚しさは浄化されない。
余談だが、夫が好む日本酒は糖質が多めなので、焼酎を導入したこともあった。
「飲むなら焼酎にしなよ」などと直接ぶつけると反発されること必至。
そこで私は自分が飲むお酒を焼酎に変えた。
目の前で飲むことにより、徐々に浸透させていくという算段だ。
焼酎を飲み始めた私を見て、夫は焼酎の飲み比べセットをネットで注文してくれた。
しかし私がいくら目の前で飲んでいても、夫は一滴も飲むことはなく、1年経っても全く焼酎は浸透せず、私が2人目を妊娠して禁酒になることで焼酎作戦も終わりを迎えてしまった。
虚しいの一言に尽きるが、焼酎好きの義父と飲めるようになったのは収穫である。
下の子が卒乳したあかつきには、美味しい焼酎を探して義父と楽しもうと思う。
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