痩せるためなら息子も巻き込む
レコーディングダイエットを始め、自分の体と真剣に向き合うことになった夫。
幼稚園児の息子とこんな約束をしていた。
「お父さんのダイエットに協力して。それで痩せたら何か欲しいものを買ってあげる。」
パッと見は教育上良くない雰囲気が漂う台詞である。
しかしこれは報酬であって、父の延命に貢献したとなればそれなりの対価を受け取る権利は十分にあるのだ。
協力する内容は以下の通り。
・お父さんのジョギングの伴走をする(自転車も可)
・お父さんとサッカーをする
要するにお父さんと遊んであげればいいのである。
休日に2人が遊ぶのはお馴染みの光景なのだが、息子はどちらかというと黙々と砂を掘るのが好きなタイプなので、サッカーは5分と続かない。
しかしご褒美がぶら下がっていると話が別で、息子は積極的に外へ出るようになった。
特にジョギングはコーチのように自転車で先導する。
坂道をグイグイ上がり、夫が「休憩かな…」と息を切らしているのと反対に「いくよー!」とオモチャの笛を吹いて走り続けるというのだ。
いくら自転車でも、ギアも電動アシスト機能も付いていない子ども自転車である。ペダルを漕いだ分しか進まない坂道で、登りきっても息切れひとつせず走り続ける息子。
どんどん体力がついていく子に対して、衰える一方の父。
この鬼コーチのジョギングで少しでも失った体力を取り戻すことができれば、お互いに幸いである。
外遊びだけでなく、室内では相撲の相手にもなる。
ずいぶん小さい頃から父と戦ってきたが、息子はそう簡単には倒れなくなってきたようだ。
戦いが長引くので、一戦交えるだけでかなり体力を消耗する。
疲れるのはお互い様だが、大人と違って疲れても楽しい遊びは全力で続けたいのが子供である。
子供と遊ぶダイエットは侮れない。
しかも息子は父の食生活も見張っている。
何かお菓子を食べようとすると、「おとうさん、ふとっちゃうよ」とか「ダイエットちゅうでしょ」と注意してくれるのだ。
私より口うるさい。
夫はぐぬぬと言いながら食べるのをやめる。
子供に言われるとより堪えるのかもしれない。
かくして夫の体重は目標値をクリアし、息子は無事に報酬を得ることとなった。
「1,000円以内ね!」という条件を提示され、選んだのはプラレールの特殊な線路(980円)。
それでいいの?と思ったが、息子は早速その線路を使ってプラレール遊びを楽しんでいた。
息子は欲しいものを買ってもらえたし、夫は目標を達成、めでたしめでたし。
と言いたいところだが、この目標はあくまでも一時的に大きく増えてしまった分を戻す程度の数字であり、夫はまだメタボのままである。
ダイエットはここからが本番なのだ。
しかし息子は特殊な線路を手にして満足したのか、コーチの熱は冷めてしまったようだ。
そこはまだ未就学児ゆえ仕方がない。
ジョギングに付き合いはしないが、夫が何かを食べようとする度に「たべていいの?ふとっちゃうよ」と注意してくれる機能は存続しているのでまあ良しとしよう。
それから約2ヶ月経ったが、夫のダイエットは停滞気味。
息子も間食に口出ししなくなってしまい、気づくと「え…ダイエットの要素なくない…?」といった生活習慣である。
在宅勤務で仕事が忙しくなると、運動量が著しく低下するのだ。
まずほとんど仕事部屋から出てこなくなるし、疲れているので昼休みは食べたら昼寝。
余裕があれば娘(0歳児)を抱っこして近所を散歩するのだが、それもなければ1日100歩も移動しない生活になる。
17時を過ぎてもまだ外が明るいこの時期、定時で終われば息子とサッカーが出来るのだが、それもままならない日が続く。
頼みの綱は週末しかない。
ここは今一度息子と契約を交わし、父の尻を叩いてもらうしかないようだ。
息子はこの春年長さんに進級し、自分でできることも増えて物事に対する理解度も高まっている。
そんな息子がある日父について、
「ふとってると、きらわれちゃうよねぇ」
と言った。
私はしばし考え、
「嫌われなくても、病気にはなりやすいかな」
と返した。
太った容姿を好む人もいるし、息子もお父さんが太ったから急に嫌いとはならないでしょ?
お母さんはそれよりも、太っていることでこれから病気になってしまうかもしれない、それが心配。
そう伝えたその日のうちに、息子は父に
「ふとってると、びょうきになっちゃうよ!」
とプンスカ注意をしていた。
夫は「そうだね…」と苦笑い。
糖尿病や腎臓病になれば食生活は一変する。
家で焼肉とか息子とラーメン屋とか、そういう楽しみが奪われることになる。
心臓に異変があれば、可愛い子供たちの将来を見られなくなるのだ。
防げる病気は防ぎたいではないか。
私はこれから息子にメタボのリスクを吹き込んでいこうと思う。
息子はお父さんが大好きなのだ。
お父さんが病気にならないよう、是非またジョギングに引っ張っていって欲しい。
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