最近のトゥーン調F2Pゲームのルック雑感
原神(スマホ他、2020年9月28日リリース)を嚆矢に一線を画してきたトゥーン調Free-to-Playゲームの数々に最近ようやく触れたので、ルックについて雑感を共有しておきたい。基本的にPC版における最高画質設定でのルックを基準とする。
加えて、個人的に拘泥している要素としてゲーム内のテキストについても触れる。
ゲーム性やストーリーの内容については触れないが、記事の性質上ネタバレを多く含むため注意。
ウマ娘プリティーダービー
開発:Cygames
リリース日:2021年2月24日
遊んだのは同年9月15日~2024年5月14日。
ルック
トゥーン調のルック。以前noteで触れた。その記事ではフォントを間違えて認識しているので注意。
こんにちで特筆したい点は制服のスカートが胴体のキャストシャドウを再現しているところ。輪郭がジャギっているのでテクスチャで制御しているとみられる。
ゲーム内のライブ映像は高い品質で、ゲーム作品に限定されず一級品だと思う。特に『Ms. VICTORIA』(下記動画参照)はカメラワーク、舞台装置、観客のレスポンスも含めて推したい。
テキスト
上記noteで触れている。テキストボックスは縦長画面時で21字3行、横長画面時で28字程度2行。あれからアップデートでルビに対応した。
キャラクターによってはかなり自由なルビを振る。また、システム上の目標が白紙になるなど表現の幅が広がっている。
中国語の繁体字で話すキャラクターも現れた。ウェイトが細い。
幻塔
開発:Hotta Studio
リリース日:2021年12月16日
国内リリースは2022年8月11日。当日にキャラの作成だけしたので載せておく。特徴はリムライトの多さか。
BLUE PROTOCOL
開発:バンナムオンラインとバンナムスタジオの共同チーム
リリース日:2023年6月14日
遊んだのは同年4月のβテストならびに6月15日~9月末あたり。
画像はβテスト時とリリース後の両方が混ざっているため注意。
ルック
発表当時(2019年くらい)はアニメ調RPGの白眉という印象だった。しかし沈黙の開発期間に原神・崩壊シリーズ・幻塔など(これらはアニメ調を意識していないとは思うが)が登場し、リリース時にはわりと見慣れた印象になった。
ただそれでも全体の要素はシンプルにまとめられていてとても良い。リムライト、ライティングによる影、テクスチャによる固定影、それぞれがちゃんとマッチしている。
シームレスな時間変化に従って環境光がキレイに変化していくし、それがフィールドとキャラに美しく反映される。
アニメ的なガーン顔や赤面顔も用意されている。
顔・髪型・装備(5部位)ごとにグラフィックが用意されているのでキャラクタークリエイトを楽しめる。
また、フォトモードによるスクリーンショット機能も充実している。自由なアングルや調整可能な被写界深度、ジェスチャー、顔や目線のカメラ追従などがあるので、スクリーンショットを味付けしやすい。
ただしオンラインゲームなので撮影中もゲーム内時間は止まらず、特にフィールド上ではモンスターから攻撃されることもありプレイヤーの腕が試される。
テキスト
日本発だけあって安定している。全体的に分かりやすい言い回しや名付けがされており、プレイヤーは各キャラから適した名前で呼ばれるのも好印象。
横長の画面だが1行あたり23字程度に抑えられていて読みやすい。行数はセリフあたり2行。ムービーパートと会話パートでテキストの仕様は異なるが文字数は同じっぽい。
ルビとそのぶんの字間空けにも対応している。
崩壊:スターレイル
開発:COGNOSPHERE(中国miHoYoの子会社)
リリース日:2023年4月26日
遊んだのは2024年5月3日~5月12日。
今思うと期間が短すぎた。戦闘時のスクショも撮っていない。
ルック
顔の法線制御やリムライトの処理、テクスチャによる固定影など、今のトゥーン調に求められる要素が揃っている。あるいはmiHoYoがこの分野を席巻しているため、このクオリティが基準になりつつあると言ったほうが正確かもしれない。
顔の陰影は球面に近く、加えて鼻横や目下に記号的な陰影が入るようになっている。
幻像の演出として、頂点にディスプレイスメントをかける処理が見られる。おそらく画面に対して水平にディスプレイスするため、どこから見てもギザギザになる。
主人公の主観視点で撮影できるフォトモードがあったが自由度が低そうで早々に見切った。しかし、どうやら第三者視点でポーズや表情をいじって撮影できるモードもあるらしくもったいないことをした。
テキスト
横長の画面を大きく使い、1行あたり50字以上を誇る。さすがに改行の位置は望むべくもない。また、「!」と「?」のあとにアキは入らない。
中国らしい洒落た言い回しや比喩がいくらか目立つ。また、本編に関わらない部分で読み物が多く、コレクション要素の文書や、他人(人に限らずモノもある)の記憶を垣間見るコンテンツなどで長文が用意されている。
ダッシュは2つだが、三点リーダは1つも2つも使われる。1文で両方使われる例もあり、数で沈黙の長短を表現していると思われる。
有名な作品にまつわるセリフがいくつかある。ことわざに喩えたり詩を詠んだりするのはこのような引用やパロディと同じ感覚なんだろうか。
学園アイドルマスター
開発:バンナムエンターテイメントとQualiArtsの共同開発
リリース日:2024年5月16日
遊んだのは同日~6月21日。
遊んでいたころは品質を標準(もしかしたら簡易かも)に設定していたのでスクショもその品質での表示になっている。明確に最高品質に設定したと分かるスクショはその旨を明記している。
なお、品質は最高>高>標準>簡易の4段階が用意され、加えて項目ごとにカスタムできる。
ルック
今回共有するなかでは唯一のイラスト再現のルック。鼻の線が顔の向きで消えるのが話題になった。
陰影はわずかにグラデーションがある。特に服はシワを立体で作り込んでいるので複雑な陰影を発生させている。ハイライトは光源方向にリムライトのようなかたちで入る。さらに髪は固定で2色のハイライトが入る。
陰影の境目が顔のなかにできるのを嫌っているらしく、たいてい顔にキャストシャドウ以外の陰影がない。
ライブ中でも同様の状態が多く、あるいは逆光で顔全体が陰になっている状態かのほぼ2択。振り向く瞬間や照明演出で顔の陰影のありなしをまたぐ場合は1~4コマでクイックにまたいでいる。
またぐときに、目の下に逆三角のノーマル部分が表れるおなじみの処理が見られる。陰影の制御はできるらしいので、このあたりはアイドルをいかに美しく見せるかという思想にあるんだと思う。
公式によるライブ映像の再生リストで見てみてほしい。
アイドル作品のライブ映像はともすればライブ感のないMVになりやすいが、学マスはカメラへのアピールやコーレス、アドリブ的なセリフ、観客越しのショットが多く入っていてナマのライブ映像らしさを感じられる。莉波のライブがすごく楽しそう。
また、顔全体が陰でも瞳のハイライトは明るく輝いているのが素敵。
ライブ後半に汗をかいたり乱れ髪が張り付いたりもする。同シリーズアニメ『アイドルマスターシャイニーカラーズ』(同名のゲーム版あり)でも張り付いた髪が使われていた。
目を閉じるとまつげの上にハイライトが現れるようになっていてキレイ。
まばたきしたときにも現れるが、瞳のハイライトの残像に見えるというか、ハイライトがまつげを貫通したように感じるので目パチと目閉じで処理を変えるのもありかもしれない。
まつげの上のハイライトはポリゴンなので、顔を下に向けていると涙に見えることもある。
キャストシャドウが多いのが特徴。手や髪の影などのセルフシャドウだけではなく、マイクの影がキャラに落ちていたりもする。キャラのライティング方向とキャストシャドウ方向が異なっているためキレイな影が多い印象。
同シリーズの『スターリットシーズン』(Steam他、2021年10月14日発売)は往年のトゥーン絵再現だが、そちらもキャストシャドウが多かったのでアイマスの伝統なのかも。スターリットシーズンは腕の影がよく落ちていた気がする(うろ覚え)が、学マスは影があまり大きく出ないようにしている印象がある。
服の光沢表現に力が入っている。ホログラム感やラメ感が再現されていてアイドル衣装らしさを強く感じられる。
しかしながらというべきか、当然ながらというべきか、スマホゲーらしからぬ見た目のおかげでスマホがちんちこちんになる。よくライブシーンで数fpsのカクカク動作になって物理演算が荒ぶった。学マスのPC版(あるいはGoogle Play Games版)をリリースしてほしいが望み薄か。
品質を調整する設定はあるが、モデルのレンダリング解像度も調整されるらしく簡易品質だとモデルがボケボケになる。
ゲーム中のライブ映像もキレイなのだが、ゲーム内で保存できるスクショはジャギ感が目立つというかなぜかあまりキレイに映らない気がする。スクショのサイズが自分の環境では1415x796ピクセルになるが、実際にこのサイズでレンダリングされているのか保存時に縮小されているのかは不明。
テキスト
セリフのテキストボックスは18字2行。入る文字数が少ないので、改行やセリフ送りも多めに感じる。プロデューサー(=プレイヤー)が固い話し言葉で文字数を多くしがちなのも一因か。
セリフ送りの▼マークの左および上のスペースには文字が入らないため、文字が多いときでも常に左上に寄った余白になる。
改行は文節に合わせている。ただ副助詞や助動詞を次の行に送る特徴があったり、各行の長さを揃えようとしたりしなかったりする。
ダッシュや三点リーダは偶数個で使われるが、1行でめいっぱい使う表現も多用される。これはアイマスの伝統っぽい。
また、三点リーダを3つ使う珍しい例もある。これは大谷崎。
誤字はほとんどなく、修正も随時行われている。
鳴潮
開発:KURO GAMES(中国)
リリース日:2024年5月23日
遊んだのは同日~6月22日。
ルック
おおむね崩壊スターレイルと同様だが、フィールドも含めて高い品質を誇っている。特にキャラの造形や見た目の美しさは一番な気がする。アップショットでも顔だけで画が持つ。
特徴は髪の毛の陰影。単なる球の法線転写ではなく、陰影が房ごとにギザギザに入るようになっている。ハイライトや固定影も細かく描かれている。
また、肌の陰影はグラデーション部分にディザリングのような処理が見られる。
立体映像の演出としてスターレイルと同様に頂点のディスプレイスメントが使われている。動く頂点は事前に決められているっぽい。また、ポスト処理的に走査線が描写される。
最近発表されたVer1.2のPVもキレイ。キャラの美しさはピカイチ。
テキスト
通常は32字2行。3行まで入れることもあるが、ルビを振る場合はそのぶん行間を広くとるのでルビありで3行入るかは不明。
文節以外で改行される。3点リーダは2つで統一されている。「!」と「?」のあとに空白は入らない。
難解な言葉は少ないが、迂遠な言い回しと翻訳然とした文章が続く。
例えばゲームを始めて最初、記憶喪失のプレイヤーが秧秧に現在地を訊いたときの返答が「雲陵谷という瑝瓏領地内の今州城外の場所です」。
英語版は「We are in the Gorges of Spirits. It's on the outskirts of Jinzhou, Huanglong.」(ここは雲陵谷です――瑝瓏の今州郊外にあります)となっており地名の包含関係が分かるが、日本語版は文章が硬直していて分かりづらくなっている。ストーリーを理解するには、こうした文章を読み解いていく必要がある。
ゼンレスゾーンゼロ
開発:COGNOSPHERE(中国miHoYoの子会社)
リリース日:2024年7月4日
遊んだのは同日~現在。
ルック
作品として全方位に高く統一された品質を誇っているためか、ルックは調和を意識しているように思う。トゥーン調ではあるものの陰影は薄く、光源の方向を感じられる程度に抑えられている。リムライトもかなり弱くて、さきの『崩壊:スターレイル』や『鳴潮』をハイ・ファンタジーなルックとすれば、ゼンゼロは地に足がついたロー・ファンタジーなルックに見える。
そのぶん、ムービーパートではカートゥーンの薫陶を受けたハイレベルなアニメーションと作画エフェクトの組み合わせが際立って気持ちがいい。
コミックパートも画力が高いので見せ方やライティングなどの勉強になる。
モブのクオリティが高い。素体の組み合わせで構成されているがその素体の出来がいいので、街中を走っていると目を引くモブとたくさんすれ違う。
惜しむらくはフォトモードの自由度の低さ。主人公の一人称視点に限定され、水平移動とチルト/パン、焦点距離の調整だけ可能。ロールができないのはともかく、ポジション(高さ)を調整できないのがもどかしい。
v1.1で自撮りモードの追加が予告されたので今後に期待。
テキスト
翻訳はかなり自然。難解な言葉もなく、砕けた言葉遣いやネットミームが違和感なく盛り込まれている。急に詩的になったりことわざに喩えたりしたがる中国らしさの残り香もあるが。
標準で36字程度2行。4行まで入れることもある。常に読みやすい改行が意識されている。
一方でわずかに字が小さいパターンがあり、このときは39字になる。このパターンでは文節以外で改行されるため、整形済みの文章かどうかで表示を変えているのかもしれない。
文ごとの左右中央揃えではなく、段落で左右中央揃えしているのは好印象。また、上下も中央揃えされる。
選択肢のテキストは文字数が入り切らない場合に字を小さくして2行にする。
コミック中の狭いテキストでも文節での改行を意識していてすごい。稀に文字が入り切らない場合は小さくせずにスクロールバーで対処している。
三点リーダは1つで統一されている。ダッシュは2つだが、字のトラッキングを広めにとっているのかダッシュ同士はつながらない。
主人公がビデオ屋経営をしており、映画好きのキャラもいるため映画系のパロディがとても多い。miHoYoの伝統かも。
今後注視したいゲーム
リリース前で、ルック的に注視したいゲーム。F2Pかどうかは不問。
Project Mugen
開発:NAKED RAIN、NetEase Games
ルックはスタレに近いが、ゼンゼロと同じ作画エフェクトが見られる。
髪のハイライトは全体的にわずかに明るい状態だが、光源方向に近い部分では大きく明るい状態になる。つまり、髪自体の影部分/ノーマル部分の境界と、ハイライトのわずかに明るい部分/大きく明るい部分の境界が異なっている。髪のハイライトは会社ごと・作品ごとに特徴が表れやすいので興味深い。
同じNetEase開発の『機動都市X』に比べると全体的にかなり洗練された印象なので、どこまで仕上げてくるのか期待したい。
Neverness to Everness
開発:Hotta Studio
こちらもルックはスタレに近く、また作画エフェクトが見られる。
明確にコマを落としてアニメーションしているショットや、キャラ自体を作画しているっぽいショットもあり、ゼンゼロのカートゥーンチックなアニメーションとは異なる方向性のアニメーションを楽しめるかもしれない。
つばの広い帽子の落ち影も実装している。同じ開発元の幻塔は触らずじまいだったのでHottaの思想にも触れてみたい。
Unending Dawn
開発:Parcae's Fate Studio
見た目はCODE VEIN、システムはSEKIRO。
金髪の操作キャラが走っているときの、長い髪(?)がなびく表現に興味をひかれたので他にも何かひかれるものがあるかもしれない。
1年前のFirst PVでは遠景の建物がイラストチックな描写になっているショットもあった(6:09あたり以降)。ルックもやや変化した印象があり、どこに着地するのか楽しみ。
ドールズフロントライン2:エクシリウム
開発:サンボーン
(これはドルフロシリーズのファンとして書くので話半分で読んでほしい)
『ドールズフロントライン』シリーズの最新作。中国版は2023年12月にリリース済み。日本版は2024年リリース予定。
実際のゲーム中のルックは例えばGame*Sparkの記事を参照のこと。
ノンフォトリアルな顔と、フォトリアルな体を組み合わせたルックになっている。MMDer的に言うとray-mmdでよく見る感じのやつかも。特に服はノーマルマップと思われる陰影で繊維感を表現したり、短いファーのもこもこ感、半透明の素材やテカリ感のある素材も再現したりしている。
ところで、このゲームのジャンルはXCOM系のストラテジーであり、キャラクターは当然靴を履いているが、休憩室(鑑賞モード的なやつ)では足裏と足の指に関して他の追随を許さないほど作り込んでいる。ストッキングの場合は補強のトゥを縫製まで再現している。
鳴潮もゼンゼロもタイツは繊維感まで表現する時代にきているが、ドルフロ2はさらに一足先を行く。
日本版ドルフロ2のプレスリリース(ファミ通Appの記事など)でも「黒いストッキングや長い脚、微妙な表情まで戦術人形たちの魅力を360度堪能できる設計です。」とあり、魅力の例示のうち2/3が脚に偏っている。実際、中国版リリース後にこの足の作り込みが界隈で話題になったとおり、裏付けされた自信がうかがえる。
最後に
今回挙げたなかでどれか触ってみるならゼンゼロか鳴潮がいいと思う。
原神ライクなゲームは一見どれも似たようなルックに見えるが、実際に触れるとそれぞれに思想の違いが見られた。昨今のルックはもはやトゥーン調の一言では表せないほど分化しているので好きなルックを探索する楽しみもある。
Free-to-Playなのでとっとと触ってみるのが大事……なのだが、それでも億劫になってしまうのはSteamで買ったゲームを積んじゃうのと似ている気がする。
余談:テキストについて
区切り約物のあとのアキ
すなわち「!」と「?」のあとに全角空白を入れるかどうかは、W3Cによる『日本語組版処理の要件』でウェブ向けに示されたに過ぎない。ゲームのテキストでは文字数を制約されるので空白を入れるほうがいいとは限らない。
例えばウマ娘は場面で使い分けていて、通常のセリフでは空白を入れているが、文字数の限られる「トレーナー(=プレイヤー)の選択肢」や「ホーム画面でのセリフ」では空白を入れていない。
三点リーダの数
三点リーダをいくつ使うべきかは明確な規定がなく、くぎり符号の使ひ方.PDF(2002年10月16日、原文は1946年3月、文部省教科書局調査課国語調査室)には1つと2つの両方の例示がある。また、下記に引用するとおり柔軟さを求めている。