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13年前に書いた小説をプロ目線で添削し、漫画原作用の構成を考えてみた

小説家・漫画原作者の今井真椎です。
前回書いた「漫画原作の仕事の流れについて」という記事にて、小説をコミカライズする際は漫画用にストーリーの再構成が必要であるとお伝えしました。

  • 小説を漫画にする際、具体的にストーリーのどこを直すのか?

  • 漫画に向かない表現とは何なのか?

という点を、私が13年前に書いた小説を実際に用いて解説していきたいと思います。
なぜ13年前に書いた小説を選んだかと言うと、ほどよく下手くそで直しがいがあるからです。

★「雷神とナマズ姫 ~ナマズ姫の婚活~

こちらは私が小説家としてデビューする2年前に書いたもので、第17回電撃小説大賞で1次選考通過(2次選考落ち)した作品です。
1次選考通過は応募総数4,842作品中551作品だったので、「壊滅的に下手なわけではないけど、デビューするには足りない部分が多い」といった状況でしょうか。
現在似たような状況で悩まれている方の参考にもなればと思い、恥を忍んで本作を公開し、添削してみることにしました。

コミカライズを目指すかどうか?

まず前提として、コミカライズを目的とせずに小説を書いている方は、本記事を参考にしないでください。
小説には小説独自の表現があり、漫画とはテンポ感や情報の出し方が違います。キャラの感情を直接地の文に書き、読者に没入感を抱かせるテクニックなどは、小説ならではのものです。小説一本でやっていきたいなら、本記事の内容は無視してください。
逆に、最初からコミカライズを目指して小説を書きたい方や、漫画原作そのものを書きたい方には参考になる記事かと思います。

それでは実際に「雷神とナマズ姫 ~ナマズ姫の婚活~」を添削していきましょう。
漫画化することを前提に読んでいきます。どれどれ……

①プロローグは不要

まず最初に声を大にして言いたいのは、「プロローグはいらない」ということですね。
思わせぶりなプロローグ……書き手はみんな好きですよね。つい入れたくなる気持ちよくわかります。

でもいらないです。
プロローグがあるせいで、読者の9割がここで読むのをやめます。

雷神とナマズ姫 ~ナマズ姫の婚活~」でも何やらプロローグで儀式(?)のようなことをしているのですが、5W1Hが一向にわからないので、読者にとっては非常にストレスです。
全体的に漢字が多いのも読みにくいんですが、知らない固有名詞や専門用語がバンバン出てきて、ブチ切れそうになりました。

このプロローグを読んだだけで、この作者は素人だな(読者のことを考えてないな……)と私は思ってしまいます。
よっぽど上手い作家さんや、必ず続きを読んでもらえるとわかっている状況(単行本で出版しているなど)でない限り、プロローグは削って次のシーンから始めましょう。
漫画は特に第1話の掴みが大事、かつページ数も限られているので、意味不明なプロローグを挟む余地はありません。

②視覚情報・人物の動きを的確に描写する

プロローグは削るとして、「雷神とナマズ姫 ~ナマズ姫の婚活~」の第1話を読んでみます。
以下、1話冒頭を引用。

「号外! 号外! 江戸でまた大火だよ!」

 買い物客で賑わう鹿島の城下町。西の外れの辰の市。昼下がりの眠気を振り払うような読売の声を耳の遠くで聞いたのは、少年が今まさに敵にとどめの一撃を加えんとするときだった。
 腰を低く落とし敵を大きく跨いだ状態で、幾度目とも分からぬ深い息を吸う。額にびっしりとかいた脂汗は頬を伝い、いまや少年の着物の襟までも濡らしていた。

(ちくしょう……あと少し……あと少しなのに、なんで)

 少年は固く目を瞑り、奥歯を噛み締めた。己の限界に挑み続けること小四半刻。ぶるぶると震える足を叱咤し、少年は一畳にも満たぬ薄暗い部屋で孤独な戦いを続けていた。

このへんまで読んで、私はイライラしてきました。
主人公が今どこにいるのかがわからないからです!

もう少し先まで読めば、主人公が厠(トイレ)にいることが文脈から読み取れましたが、脚本だと柱を2つ立てるべきシーンをごっちゃにして書いているので、状況がわかりずらいです。
あと「読売」って何?というのも苛立ちポイントですね。

○鹿島の国・城下町
市場が開かれ、人でごった返している。
新聞売り「(ビラを撒きながら)号外! 号外! 江戸でまた大火だよ!」

○同・厠
ジンが和式トイレを跨ぎ、便意と格闘している。

脚本だったらこれで十分です。
視覚情報や人物の動きは簡潔かつ的確に描写しましょう。

あと主人公のジンはいったい何才なんでしょうね……。
続きを読んでいくと、縁結び屋をやっている少年らしいことがわかるんですが、基本情報(年齢・職業・見た目・簡単な性格など)がなかなか提示されないので、読んでて不安になります。

③主人公>脇キャラの順で描写する

さて、トイレで便意と格闘しているジンですが、ここから相棒・ヤマジとの会話がだらだら続きます。
私(書き手)は相当このヤマジというキャラがお気に入りのようですね……。好きなのはわかりますが、1話で脇キャラを主人公より目立たせてはいけません。先に主人公の設定描写をすべきです。

小説の1話後半~2話前半はヤマジ(脇キャラ)を立たせるエピソードが続くので、ここは全カットでいいです。
代わりに主人公ジンの性格がわかるエピソードを入れ、彼がどんな経緯・スタンスで縁結び屋をやっているのか、彼の目的は何なのか、までを冒頭で読者に簡単に提示したいところです。

世界観も、ガチの時代物なのか、なんちゃって江戸時代風なのかがちょっとわかりにくいので、もう少し描写が欲しいです。
(漫画原作だったら世界観設定資料を別途提出するので、わざわざト書きに書く必要はないのですが、小説をそのまま原作にするなら地の文に全部描写が必要です)

④ヒロインの登場を早める

冒頭を組み替えたら、第1話に入れるべき要素を逆算して考えていきましょう。
小説を読んでいくと、第4話でやっとヒロインのナマズ姫が登場します。
遅すぎます。
本作はラブコメなのですから、ヒロインはさっさと登場させるべきです。

ナマズ姫の登場シーンはなかなかインパクトがあっていいと思います。
この物語は、縁結び屋の主人公が、これから彼女の婚活を助けていく(そして彼女と恋に落ちる)流れなのだな、と読者に理解させるまでを漫画では1話に入れたいです。
漫画であれ小説であれ、どこを楽しむ作品なのかを1話で提示するのがとても大事です。

⑤漫画のページ数に合わせて構成を考える

今回の例で言うと、小説5話分が漫画1話分になるイメージですね。
5話分で小説は約1万5千字あるので、そのまま漫画化すると100ページ越えの大作になってしまいます。
漫画の1話は約24ページ、第1話だと長くても40~50ページでしょうか。
セリフを切り詰めるだけでは到底収まるボリュームではないので、小説を漫画化する際は小説の構成自体を変える必要がある、という点をご理解いただけるかと思います。

もし私が本作を漫画用にリライトするなら、第1話は次のように構成を組みます。

<全24ページ>
~6p:世界観・主人公ジンの設定説明(掴み)
~12p:縁結び屋の仕事描写・主人公の目的提示
~18p:ヒロインとの衝撃の出会い
~24p:主人公、ヒロインの婚活を手伝うことに。ヒロインとの恋の予感(引き)

漫画にする上ではとにかくテンポよく、展開を早めないといけないので、

  • キャラ同士がただ会話しているシーン

  • 同じ場所にいるシーン(絵変わりしないシーン)

  • 長いモノローグ(心情描写)

などはガンガン削っていきます。
コミカライズを前提として小説を書くのでしたら、最初から上記を避けて構成を組むといいかもしれませんね。
小説→漫画への再構成は本当大変なので……漫画家さんの負担も減って喜ばれると思います。


以上です!
ほかにも思いついたらまた追記します!

本記事を作成する上でめちゃくちゃ酷評した「雷神とナマズ姫 ~ナマズ姫の婚活~」ですが、当時は自分なりに一生懸命書いていて、何よりまず1本書き上げたのが偉いなと思います。
この作品を書いた数ヶ月後には小さな賞をいただけるようになって、2年後には小説家としてデビューしていますので、今同じようなレベルで投稿をがんばっている方がもしいらっしゃったら、気を落とさず(?)、ぜひがんばっていただきたいです。

私もまだまだ勉強中の身なので、見当違いな部分などありましたらご指摘いただけると嬉しいです。
ご質問等ありましたら、お気軽にtwitterのほうにお寄せください。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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