見出し画像

実家がなくなった日

1年前、母が認知症と診断された。
ヘルパーさんに来てもらっても無理だった。とにかく診断が欲しいと弟は医者に行き、認定された。

それからは物事が進むのが異様に早かった。弟は自分が面倒を見きるかどうか悩んだ挙句、高齢者住宅に母を入れることに決めた。

実家を出るのだ、母が。

それは仕方のないことである。が、私にとっても元々自分の家だったところだ。

父と暮らしたところでもある。今22歳の息子が、小さい頃おじいちゃんおばあちゃんと言ってよく遊んでもらったところでもある。とにかく思い出が多すぎた。

その家の中のものをとにかく片付ける(あまりにもものが多い家だった)から、私の卒アルとかをそっちに送ると言われた。後日本当に送られてきた。

いやいや、ちょっと待って。
心の整理がつかないよ。

私は病気がひどかったのと、ちょうどその時頚椎を痛めていてあまり遠出はしたくなかった。だから弟に全てを任せていた。

もちろん私も良くなかったのだが、とうとうその日が来た。弟は母を迎えに行き、そして翌日の入居に備えてホテルに一泊すると言う。

家を出る時、母は大泣きしたらしい。私も母はあの家で一生を終えると思っていた。まさかだったのだ。私もその日は泣いた。

ごめんね、お母さん。
私は私自身のために泣いてしまったのだ。
あんなに嫌いだった両親と暮らしていた家をなくすのか悲しいなんて。

その家は既に他の方のものになっている。もう他人の家である。私は最後立ち会うこともなかった。

今では、今住んでいる家が自分の家だ。でもきっといつかはここも出る。その時はまた同じ気持ちになるんだろうか。

家とは、思い出のかたまりだと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?