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【合成生物学】生命・物質・人類の未来をつくり変える

合成生物学は、近年著しく成長している科学技術分野であり、様々な環境問題やエネルギー問題、再生医療などの分野で幅広く活用できると大きな期待が寄せられています。

合成生物学という一種のテクノロジーは、何をどのように変化させ、また、そこにはどのような巨大なビジネスが芽生えるのかを分析していきたいと思います。

1.合成生物学とは?

合成生物学(Synthetic Biology)は、組織、細胞、遺伝子といった生物の構成要素を部品と見なし、それらを組み合わせて生命機能を人工的に設計したり、人工の生物システムを構築したりする学問分野のことです。

従来の分子生物学との違い

従来の分子生物学では、生物を個体から組織、細胞、分子、遺伝子へと細分化し、その機能を理解しようという解析的なアプローチが取られてきました。
それに対し合成生物学では、分子生物学などで蓄積された知見を生かしながら遺伝子を設計し、目的物質を生産するための代謝経路を構築し、それが機能する細胞や生物システムを作り出すという、構成的なアプローチを取りました。それによって、本来交配できない生物種の遺伝子たちを一つの細胞内で働かせ、その組み合わせによって無限にアウトプットができ、種の壁を超えることができるようになります。

簡単に言ってしまうと・・・

従来の手法だとコストや技術的な制約から、「ばらばらに分解して調べる」ということをしていましたが、近年の技術革命により合成生物学を用いることで、「様々な物質を組み合わせて調べる」ということが可能になったということです。

マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、「DNAを合成して生物を作り出すことは、機械言語でプログラミングするのと同じようなものだ。次の10年を見据えたときに、世界が直面する最も大きな問題に人類が立ち向かうためのテクノロジーた。」と述べており、ビル・ゲイツ氏を中心としてテック業界の大物らは多額の資金を合成生物学の企業に投資しています。

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この後は、ビル・ゲイツ氏が絶賛する合成生物学を技術的な面と投資家目線の双方において書き上げていきます。

2.合成生物学によるイノベーションの加速

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合成生物学は、エネルギーの生成、食料の生産、産業処理の最適化、疾病の診断、予防、治療といった分野において従来の方法に変革をもたらす革命的なイノベーションだと思っています。

一例として、合成生物学は、機能性物質の生産などへの応用が進められています。従来、機能性物質の多くは、植物などから抽出されるか、化学合成されてきました。ただ、植物からの抽出では、抽出できる量が微量であるために生産効率が低くかったり、天候など自然的要因の影響を受けたりします。
また、化学合成では、石油を利用するため、環境に対する負荷が高く合成可能な天然由来成分の種類も限られるという課題がありますが、合成生物学を応用し、遺伝子などを人工的に設計した微生物や細胞などで機能性物質を生産すれば、これらの課題が解決できると期待されています。

既に、細胞をプログラムして治療薬として利用したり(遺伝子治療や細胞治療)、生物をプログラムして治療薬として利用したり(生物医薬品)、植物や動物などの生物をプログラムしたり(遺伝子組み換え植物、遺伝子組み換えサケなど)しています。将来的には、低分子合成、DNAデータストレージ(DNAにデジタル情報を保存すること)、バイオレメディエーション(微生物を使って環境汚染物質を消費・分解すること)、バイオプリンティングなど、合成生物学の領域が拡大していくことが予想されます。
また、合成生物学の発展によって、肉を使用しないでも作れる、大豆や植物由来の原料で作った「インポッシブルバーガー」や二日酔いの症状を軽減する「プロバイオティックス商品」などが登場しました。

↓普通に美味しそう・・・

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また、合成生物学は遺伝子組み換え技術でも解決できない問題も解決することができます。

3.遺伝子組み換え技術の弱点を克服する合成生物学

遺伝子組み換え技術は万能ではなく、遺伝子組換え技術は、単一もしくはごく少数の遺伝子により制御されている生物機能の改変に有効な手法であるが多くの遺伝子が関わっている生物機能を改変するときには膨大なコストと時間がかかってしまいます。

例えば、工業的に有用とされる微生物には多くの遺伝子が関わっており、この微生物らを遺伝子組み換え技術によって創り出そうとしたとき、いくつの遺伝含まれているいるか調べ、その上、1つ1つ遺伝子を改変するととてつもない時間がかかってしまいます。
ここで、合成生物学を使えば、遺伝子組み換え技術では難しい改変微生物を人工的にデザインすることができます。

4.米国のバイオベンチャー「Amyris」の成功

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元々、合成生物学は、制限酵素の発見と分子生物学への応用から始まりました。(1987年)

しかし、その後は従来の研究自体が困難だったために、中々表立った功績は挙げられてきませんでした。

ではなぜ、近年、合成生物学への関心が高まってきたのでしょうか?

それは、米国のバイオベンチャー「Amyris」による植物由来抗マラリア薬、アルテミシニンの生産方法の確立です。
植物によるアルテミシニン生産は成長までに時間がかかり、天候の影響を大きく受けます。そこで植物の遺伝子を導入した酵母を作製し、安価に安定して生産することが試みられていましたが、生産性の高い実用レベルの酵母を作製するには大量の試行錯誤が必要であり、膨大な労力やコストがかかることが課題となっていました。

この課題解決のために、Amyrisは酵母の半自動作製システムを構築しました。試作酵母の大量生産によりコストを大幅に下げ、得られた大量のデータを解析して次の試作品の設計に繋げるという戦略をとり、見事生産に成功したのです。その原動力となったのが、DBTLサイクルと呼ばれる、Design(設計)、Build(構築)、Test(評価)、Learn(学習)の4プロセスからなる研究サイクルの徹底的な効率化です。この成功により、合成生物学の可能性は広く認識され、研究開発も活発化していきました。

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ここまでは、主に技術面の話をしてきたので、次に投資家目線での話をしていきたいと思います!

5.合成生物学によって誕生する巨大な市場

世界の合成生物学の市場規模は、2021年の95億米ドルからCAGR(年平均成長率)26.5%で成長し、2026年には307億米ドルに達すると予測されています。合成生物学の幅広い応用分野、研究開発費の増加と取り組みの活発化、DNAの塩基配列や合成にかかるコストの低下、市場への投資の増加などの要因が、この市場の成長を後押ししています。しかし、合成生物学に関連するバイオセーフティー、バイオセキュリティ、倫理的な懸念がこの市場の成長を妨げる要因となっています。

ツール別では、オリゴヌクレオチドおよび合成DNAの部門が予測期間中最大の成長を示すと予測されています。医薬品、栄養補助食品、パーソナルケア、フレーバー&フレグランス、プロバイオティクス、グリーンケミカル、工業用酵素などの用途における合成DNA、合成RNA、合成遺伝子への需要の高まりなどの要因が同部門の成長を牽引する見通しです。

<2020年の合成生物学市場に占める分野別の割合>

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最も多いのが医療分野への活用で44.7%となっています。
次に多いのが工業分野への活用で35.2%となっています。
その次に多いのが食料や農業分野への活用で13.5%となっています。
そして、最も少ないのが環境(問題)への活用で6.6%となっています。

6.合成生物学のエコシステムの構図

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企業が合成生物学の力を活用しようと考える場合、研究開発を可能にする技術のポートフォリオを社内で構築することに意味があるのか、それともGinkgo Bioworksのような企業に微生物の外注をした方がより効率的なのかを判断する必要があります。(Ginkgo Bioworksについては後述します)

7.注目の合成生物学の企業3社

1.zymergen($ZY)

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この企業は、最近IPOした若い銘柄です。時価総額も38億ドルとあまり大きい会社ではないです。
何と言っても、ソフトバンクビジョンファンドが投資しているので個人的にとても注目している企業です。
この企業は、バイオベースの製品・新素材の設計、開発、製造を手掛けています。さらに、開発工程でAIやロボットを使っているという点でかなり画期的な企業だと思います。
具体的には、まずAIを使って実験を自動化します。ロボットを組み合わせて実験を自動化し、遺伝子の組み換えをし、その後、微生物を設計しています。

zymergenの開発工程はこのURLから動画を見るとイメージが湧いてくると思います。

https://youtu.be/GLb45_mS7HU

ゲノミクス、機械学習、自動化の進歩に基づいて構築されたZymergenの特許取得済みのバイオファクトリングプラットフォームによって、1つの新素材を作るのに、開発コストが300億円くらいかかっていたのが、10分の1のコストでできます。さらに新素材の開発はにかかっていた時間を10年から5年の半分に短縮することが可能になりました。
実際に、同社は電子製品向けの高性能の光学フィルム(「Hyaline」)、プリント基板、タッチセンサーをカバーするフィルムや曲がるディスプレイなどを開発してきました。

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<業績>

通期業績推移

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四半期業績推移

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<CF推移>

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2.amyris($AMRS)

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amyrisは、合成生物学が世間からの注目を集めた火付け役となった企業です。同社は、持続可能な原料で作られた環境に優しい製品を提供しています。特に、化粧品、香味料、香料、溶剤、洗剤、ポリマー、潤滑油、ヘルスケア製品、燃料などの消費者向け製品を提供しています。
また、遺伝子改変した酵母を材料にて、大量生産によりコストを大幅に下げ、得られた大量のデータを解析して次の試作品の設計に繋げるという戦略をとり、見事に低コストでの大量製作を可能にしました。

<製作の流れ>
①(顧客と)合成したい標的化合物の構造を決める。
②原料の糖から、標的化合物を合成する経路を考える。
③酵母のDNAの設計・編集・組換をする。
④DNA編集した酵母を使って標的化合物が合成できるか試験する。
⑤たら量産のためにさらにDNAなどを最適化する。
⑥量産設備で量産する。
<セグメント>
①共同開発:顧客からお金をもらって顧客要望の化合物の合成を行う。
②企業向け製品:共同開発が成功したらアミリスが化合物を製造して顧客に販売する。
③ライセンス&ロイヤルティ:共同研究が成功して顧客が化合物を製造する場合はライセンス料をもらう。
④最終消費者向け製品:開発してきた化合物を使用して自社ブランド商品として販売する。

<業績>

通期業績推移

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四半期業績推移

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<CF推移>

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2021年の1Qは、かなり好調でした。


3.Ginkgo Bioworks

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この会社は、未だ上場していませんが5月11日、総額175億ドルのSPAC(特別買収目的会社)との合併取引によって上場すると発表しました。(上場して株が買えるようになるのが楽しみです!)
合成生物学のパイオニアとして知られ、他の合成生物学の会社に比べてかなり大きな規模の会社です。
同社は、細胞工学のためのプラットフォームを提供しており、企業が合成生物学を活用して製品を開発する際に同社のプラットフォームを利用することで製品開発のための垂直統合をする必要がなくなります。
つまり、合成生物学のプロセスで利用可能な技術の購入、構築、最適化を社内で行う必要がなくなるのです。
また、zymergenと同じようにAIやロボット、ソフトウェアを活用した開発工程を確立しておりいるため、zymergenとは競合企業です。

垂直統合とは・・・
垂直統合とは、ある企業が、自社の製品やサービスを市場に供給するためのサプライチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を企業グループ内で連携して、時にはM&Aなどを通じて経営資源を補いながら特定事業ドメインの上流から下流までを統合して競争力を強めるビジネスモデルのことをいう。(Wikipedia参照)

また、同社はモデルナとコロナのワクチンの製造工程において提携を行っており、ワクチン開発を支援しています。

<業績>
ギンコ社の2020年の売上は7700万ドルに達し、2019年の5400万ドルから41%増加したとされ、さらに、2021年の売上は前年の約2倍の1億5000万ドルに達し、2025年には10億ドルを超える見通しです。

すごい成長率ですね。流石、合成生物学のパイオニア❕

8.最後に

今回は、次世代のビッグテーマになるであろう合成生物学について調べました。

合成生物学を応用し、遺伝子などを人工的に設計した微生物や細胞などで工業製品や化学製品、医薬品を開発・製造すれば、安価で早く、そして環境に負荷をかけずに製品の開発・製造を行うことができます。

そして、そのビジネスチャンスを逃すまいとアメリカを中心に多くのベンチャー企業が誕生し、そこにビル・ゲイツなどのテックカンパニーの創業者らが多額の資金を投資しており、ビジネスは指数関数的に拡大しています。

安価で早く、そして地球に優しく、製品を作ることができる合成生物学という技術に目が離せないですね!

<有料noteを購読して頂いた皆様へ>
初めての有料noteだったですが、どうだったでしょうか。
個人的にかなり自信のあるnoteに仕上がったなと思っています・・・
これからは、定期的に有料noteを作っていこうと思うので、その時は再度購読してもらえれば光栄です!

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