GDPだけで経済のすべてが分かるとは思うなよ?(GDPとは何か、その6)
【「GDPとは何か」】前回までの記事
・「お金を使うと景気は良くなる」は本当か
・国の借金は景気を良くすることにつながるのか
・「借金システム」がちゃんとしてないと、経済は回らない
・投資なら国の力でどんどん伸ばせるのか?
・GDPで景気の良し悪しがわかるのは、なぜ?
GDPとは「労働によって生まれた経済価値」
GDPは景気を大まか、かつ、ある程度正確に捉えるには、便利で信用度の高い指標です。そのことは、前回もお話しました。
そうはいっても、GDPがすべての経済活動を反映したものではない、ということには、十分注意しなければなりません。
GDPという概念は、様々な理論や考え方を集約して作られたものです。そその根底にあるおおもとの考えは、「人間の労働が価値をもたらす」というものです(難しい言葉でいうと「労働価値説」といいます)。
この考えは、近代初めのイギリスで生まれたといわれます。その後、経済学者の唱える経済が資本主義であるか、あるいは社会主義であるか、ということを問わず、ほとんどの経済学に通じる根本的な考え方として、広まっていきました。
GDPも、この延長線上にある考えから生まれたものです。
国内の様々な人々が働いてモノ(形のないモノ=サービスふくめて)を生産することによって、新しい価値=付加価値が生まれます。この付加価値の合計がGDPということを前回お話したのですが、この流れで言い直すと、付加価値というのは、ざっくりいうと、みんなが働いて生み出した経済的価値のことなのですね。
前回は、こうしたことを、すごく雑に「儲け」と表現していたわけです。
……しかし、ということは、付加価値にならない「儲け」があるのではないか、ということ、
あるいは、
「儲け」のようにみえて、付加価値にならないもの、などがそれぞれあるといえるわけです。
株による儲けが増えてもGDPは増えない
付加価値にならない「儲け」の代表例が、株式を売って得た利益です(難しい言葉で「キャピタル・ゲイン」といいます。
株式が値上がりして儲けた人は(当たり前ですが)経済的利益を得ます。しかし、この「儲け」は、付加価値になりません。
いろいろな説明ができるのですが、すごくシンプルに説明すると「労働によって生まれた利益ではないから」です。
とはいえ、「株で儲けるために必死に研究した、これは労働ではないのか、という人もいるでしょう。納得できない人も多いと思います。
◯[先に身も蓋もないことを言っておくと、GDP指標は、アメリカが第二次世界大戦や冷戦で優勢に立つために、国力比較のため、わりと急いで作成されたものなのですね。このあとも、こうして急ごしらえされた経緯から、なんか納得いかない話がでてきます。ではあるものの、他に優秀な数値がないまま、現代に至っているのですね。]
さて、株での儲けが付加価値にならないということは、
・株で儲けた人がたくさんいるのにGDPでみると不況→だから不況対策が行われますます投資家が儲ける→格差拡大
・株で損した人がたくさんいるのにGDPでみると好況→だから増税実施→投資家がさらに苦境に立ち、金融活動が停滞
ということになる可能性などが予想されます。そう考えると、GDPだけで経済政策の判断をすることが危険であるということがわかると思います(金融活動の停滞が経済にとってよくない、ということについては、こちらの回を見てください)。
経済的利益を生まない仕事はGDPに含まれない
一方、GDPに含まれない労働の代表が、家事労働やボランティアです。
もうおわかりかもしれませんが、GDPは金銭換算できないものはカウントしません。というかできません。
そのため、労働であり、何らの価値を産むものであっても、「売買されていないサービス(難しい言葉でいうと「市場を経由していないサービス」)は、GDPにカウントされる付加価値を生むことができません。
家事労働やボランティアなどが、まさにその代表です。労働なのにお金が支払われないので「アンペイド・ワーク」と言ったりします。
ここで、そんなこと「当たり前だ」と思うか、それとも「???」と思うか、です。
家族のだれかが掃除をしても、アンペイド・ワークです。一方、同じことを、家事代行サービス業者さんが行うと、普通の付加価値を生む労働になります。
このことは、ボランティアの人との清掃業者の関係などにも、いえますね。
それでは、家事労働やボランティアを、すべて付加価値を生む経済活動に置
き換えればよいのでしょうか?
それは違う、と思う人は多いでしょう。男女ともに家事や育児を行うことで(特に男性は!)、あるいは、ボランティアに参加することで、なにか気づきがあり、それが目に見えない形で、自らの労働だけでなく、生活、人とのコミュニケーションなどに大きな影響を与えているはずです。
また、家事労働やボランティアの成果は「儲け」とは異なるものなのでしょうか?
また、献身的な女性の家事労働によって楽な生活をしている男性は「儲け」てないのでしょうか?
あるいは、ボランティアによってきれいな町並みを獲得している一般市民は「儲け」ていないのでしょうか?
こうしたことの是非はともかくとして、
こうしたことをドライに切り捨てているのがGDPだ、ということを理解した上で、この指標を利用するということを忘れてはならないでしょう。
GDPにカウントされる「謎の数値」
一方、「売買はされない」ものの、GDPにカウントされるものがあります。
1つは、「農家の自家消費」です。
農家が作った野菜などを、その農家自身が食べると、それは「自分が自分に野菜代を払った」とみなして、それを推計で計算してGDPにカウントします。
ただ、これは、農家の労働成果をすべてGDPに含めるために、ある程度必要なのかもしれません。
もう1つ、特に多くの人から疑問に思われるものが、「持家の帰属家賃」です。
これは、「家を持っている人はすべて大家さん」と考えたうえで、マイホームを持っている人は全員、自分が自分に家賃を払っていると考えます。これが帰属家賃であり、推計されてGDPにカウントされます。
人の住む家にはすべてに「人を住まわせるという労働・サービスの提供がある」、あるいは、「家賃を払わないぶんだけ所得にプラス効果があるのだから、そのプラス効果を、自分が自分に払った家賃ということにする」とか、様々説明できます。
「????」と思われるかもしれませんが、国際的なルールのもと、毎年推計されています。
推計、というところが案外ポイントで、複雑な計算式のもと、だいたいこれくらいだろう、という形で算出されるので、100%正しい保障はどこにもありません。
しかし、GDPの約8%を占めているので、無視できない重要な数値です。
上に、ここ数年のGDP成長率と、帰属家賃の推移をグラフにしたものを掲載しています。この関係もまた、あるようなないような、よくわからないものになっています。
ここをこれ以上突っ込むことまでは、このブログではしません。気をつけておきたいのは、こうしたテクニカルなことを用いて、「なかば強引に」計算されているのがGDPということです。
もちろん、これ以上、情報量のつまったよい指標もない、というのも現状です。発表されるGDPの細かな動きだけで一喜一憂したり、政府を称賛または批判するようなことは、慎むべき、ということを理解できれば、よいと思います。