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自民と立憲の党首選から浮かび上がる「政治屋」の生態(2-1)

自由民主党の総裁と立憲民主党の代表が決まった。この結果と、この結果にいたるまでの経緯から、この国の政治のありようと政治屋(政治家の名に値しない)たちの生態が露(あら)わになった。

この政治屋たちの生態は、政治屋個々人の生態であるだけではない。彼らを政治家として選んだ私たち国民の生態をも映し出している。これを、私たちがこの国が変える機会として捉えてほしいと思う。(以下、敬称を省く)

性根の卑しさ

ジャーナリストの青木理(おさむ)が『安倍三代』で、安倍晋三の父方の系譜( 祖父・寛、父・晋太郎)を丹念に探り、関係者への取材を重ねながら三代目・晋三の人間像を描いている。祖父の寛は、戦時中に反戦を唱えた政治家であり、父の晋太郎は、その志を継いでリベラル保守の政治家として外相も務めた。

安倍晋三は、母方の祖父・岸信介を敬愛していたが、祖父・寛と父・晋太郎についてはほとんど語ることはなかった。だが、父方の系譜を辿(たど)っいくと、安倍晋三の思想の軽薄さが浮き彫りになってくる。「悲しいまでに凡庸」なのだ。

ではなぜ「悲しいまでに凡庸」な安倍晋三が「憲政史上最長」になるほど政権を長く続けることができたのだろうか。

この疑問について、思想家の内田樹は、安倍が人間の「性根の卑しさ」を熟知しているという点にある、と看破している。

「どれほど偉そうなことを言っている人間でも、ポストを約束し、金をつかませ、寿司を食わせれば尻尾を振ってくる。反抗的な人間も、恫喝を加えればたちまち腰砕けになる。人間は誰もが弱く、利己心に支配されている。口ではたいそうなことを言っている人間も、一皮剥けば「欲」と「恐怖」で動かせる。」(「安倍晋三が長期政権を維持できる理由」『コモンの再生』所収)

安倍の言動の背後には、このような人間「蔑視」と、人間の自尊心についての虚無的な考えがある。この人間観から、人間の欲心と弱さにフォーカスして政権運営をしてきた。

「この点では歴代首相の中でも比肩するものが見出し難い」ほど卓越している、と内田樹は述べている。

自民党の総裁選に9人も立候補した。その顔ぶれを見て思い浮かんだのが、この内田の記述だ。どの顔をみても、自民党には「性根の卑しい」人間しか残っていないと思えてくる。

安倍による自民党政治(アベ政治)は、この国の政治や経済から、文化やモラル、国民の暮らしまで多くのものを破壊し尽くしてきた。今回の総裁選が明らかにしたのは、皮肉にも、最も破壊されていたのが自民党そのものだったことだ。

アベ政治の終焉

自民党の総裁選は、自民党の昏迷がそのまま現れていた。1回目の投票で高市早苗がトップに立った。ところが決戦投票で石破茂が逆転したのだ。

なぜ高市が負けたのか。党内やウヨクの支持が高くても、安倍の亡霊を引きずるだけの高市では選挙は勝てない、あるいはアメリカが高市を嫌った、などが指摘されている。

高市に投票した議員たちの多くが安倍派や裏金、統一教会に関わりがある。次の選挙では姿を消すだろうし、そのことをよく知っているのは当の議員たちだ。崩壊しかかっている安倍派残党の最後の足掻きで高市にすがりついたわけだが、これもまた「性根の卑しさ」を如実に物語っている。

「性根の卑しさ」では安倍晋三と双璧をなす麻生太郎も、石破嫌いが昂じて、高市についた。その高市が負けたことで、麻生もまた自民党内での力を失ってしまった。

アベ政治を継いだ菅義偉も、小泉進次郎に肩入れしたことから、麻生同様に党内での影響力は落ちた。これでアベ政治はようやく終わりを迎えたことになる。

石破が総裁に選ばれたことで、自民党は壊滅の一歩手前で踏みとどまったようだ。だが、自民党がまともな政党に戻れるのかかどうかは、まだ不透明ではある。

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