試合の最後までパフォーマンスをキープしたい人は見たほうがいいかも
◆ ピッチャーは途中交代が当たり前の時代
野球においてピッチャーは、他のポジションとは違うスポーツと言っていいほど特別なポジションです。DH制があるリーグで野球をしていたらなおさらでしょう。
なかでもピッチャーにしかない特徴といえば、唯一交代が前提のポジションであるというです。
ひと昔前までは、ピッチャーは完投が美徳とされていましたが、今ではクオリティスタート(6回以上3自責点以内に抑えること)という言葉も浸透して、ピッチャーの分業が当たり前になっています。
最近の球数制限の話題も手伝って、これからは大学・高校でもその形式は取り入れられていくのではないでしょうか?
しかし、そうは言っても、MLBでは200イニングが大台とされたり、先発ピッチャーが長いイニングを投げられると中継ぎへの負担も減って、結果としてチームにはいいことがあります。
サファテ投手の怒りも落ち着くことでしょう。
◆ パフォーマンスが落ちる原因
では,長いイニングを投げられない原因とは何なのでしょうか?
それは“疲労”です。
疲労がもたらす悪影響によってバッターを抑えらえなくなるため、マウンド上にはいられなくなるのです。
では、その悪影響とは、
・コントロールがつかなくなる
・変化球のキレが落ちる
・集中力がなくなってくる
いろいろあると思いますが、今回は
“球速”
について取り上げたいと思います。
序盤はストレートで抑えられていたのに、終盤に入って力のなくなったストレートを捉えられる、なんてことはよくあることだと思います。
「最後まで球速を落とさずに力のある球を投げ続けたい。」
そんな願いを叶えるためのヒントになりそうな研究があったので紹介します。
◆ 球速を下げない方法とは?
2016年の論文(リンクはこちら)で、大学生投手を対象にしてあることを検証しました。
それは、“イニング間”のアイシングです。
アイシングと言えば、ほとんどの人にとっては、登板後に肩肘にアイスバッグを当てて、バンドでぐるぐる巻きにしてじっくり行うのがふつうだと思います。
しかし、この実験では、イニングの“間”に行うのです。
詳しい内容をすこし説明します。
大学生投手8人に、イニング間のアイシングを「したとき」と「しないとき」で球速を比べました。
投球は
・ウォーミングアップ
・12球の投球(20秒に1球)
・アイシング(6分間)
これらを1イニングとして、キャッチボールなどの各自のウォーミングアップを済ませたあとに、5イニング分行いました。
ちなみにアイシングの場所は、肩(三角筋)と前腕と書いてありましたが、細かい場所は載っていませんでした。
気になる結果はこんなかんじです、
グレーの線がアイシングをした方で、黒い線がしていない方です、
見ての通り、
アイシングをしなかった方は少しずつ球速が落ちていったのに対して、
アイシングをした方はほとんど球速が落ちませんでした。
それだけではなく、疲労感もアイシングをした方が小さかったのです。
とは言え、よく見てみるとその差は、時速1.5キロほどです。
しかし、60球でこの差が出るということは、だいたい先発の仕事として100球ほどは実際投げることになるでしょうから、その場合は時速3キロくらいは落ちそうですね。
平均3キロも落ちたらバッターからの印象はだいぶ変わるのではないでしょうか?
◆ 疲労によって起こること
2019年の論文「Manifestations of muscle fatigue in baseball pitchers: a systematic review」で、疲労によってピッチャーに起こることがまとめられていました。
気になるところだけをかなりざっくりとまとめると
・リリース時の体幹屈曲角度が小さくなる(体幹が立つ)
・肩の最大外旋角度が小さくなる
・着地時の肩水平外転角度が小さくなる
・グラブから手が離れたときの股関節屈曲角度が大きくなる
(軸足が折れる)
などなど、いろいろな球速が落ちることに繋がりそうなフォームの変化があるみたいです。
もちろん球速が落ちるという結果も書いてありました。
ここからわかることは、球速が落ちる原因にはひとつではなく多くの要素があるということです。しかもそれには個人差があって、自分にすべてが当てはまるともかぎりません。
これだけたくさんの要素があるなかで、肩と前腕のアイシングだけで球速が落ちなくなるというは鵜呑みにできない結果ではありますが、
少なくとも今回の結果からはそういうことが言えそうですね。
◆ 球速が落ちないメリット
ピッチングは球速が速ければいいものではないですし、球速が速ければ速いほどケガをする可能性が高くなるという論文もあります。
しかし、球速を落とさずに済むということは、それだけ力を温存して長いイニングを投げられるということです。
また、球速が落ちることをカバーしようとして体に無駄な力が入って、フォームを崩した結果、ケガをしやすくなるなんてことも防げるかもしれません。
◆まとめ
ということで、イニング間にアイシングをすることで球速を落とさずに長いイニングを投げられる可能性が見られた論文を紹介しました。
あくまでも、8人の大学生を対象としたものですので、すべての選手に当てはまるとは言えません。
しかし、少なくともこの8人にはその効果が見られたということは、あなたに当てはまる可能性は十分にあるのです。
興味があれば、まずは自分で試してみてください。
できれば、自分の感覚だけでなく、球速やバッターの意見などの客観的なものを参考にして。
そして、最終的な選択を自分の感覚にゆだねてみてはどうでしょうか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?