コンピュータの時代からデジタルとAIの時代へ。20年の時をつなぐプラクティス
二つの書籍を紹介しつつ、20年の時をつないでみたいと思います。
「Hackers and Painters」
一冊目は、「Hackers and Painters」 (原書は2004。日本語版は2005)
プログラマー、アントレプレナーであり、スタートアップアクセラレーターであるY Combinator のファウンダーでもある ポール・グレアム氏が、2000年初頭にインターネット上で書いていたエッセイ集です。
2000年頭のベンチャー、スタートアップに挑んでいたプログラマーやアントレプレナーのアプローチに触れることができ、この20年イノベーションをもたらしてきたスタートアップの原型を見ることができます。
特に、タイトルにもなっている「ハッカーと画家」というエッセイは、ハッカー(優れたプログラマー)がその働き方や創造プロセス、スタイルが、クリエイティブな職業としての画家に似ていることを説明したもので、プログラマー(ITエンジニア)は、固定化された要件や設計書に従ってただプログラムを組む職ではなく、クリエーター・デザイナーと同じ、様々な創意工夫・発明を必要とするクリエイティビティをもった仕事であることを理解することができます。
現代においても通用する、インターネットビジネス黎明期からのスタートアップの行動原理や、クリエーター・デザイナーとの共通点、良いデザインとは何か、ビジネス競争の本質、いかにユーザー(顧客)を獲得するか、いかに優秀なタレントを採用するか・育てるかなどの基本的な考え方を知ることで、
今日のIT/デジタル/AI の活用やDX・新規事業・イノベーションへの挑戦についても洞察を深めることができる、timeless な良書だと思っています。
(途中、メールソフトのスパムフィルタ構築の話が登場しますが、ここの部分は、現在の生成AI・大規模言語モデル(LLM)にも通ずる「言葉の確率」について触れているのも重要だと個人的には思っています。)
「REWIRED」
二冊目は、「REWIRED」 (原書は2023。日本語版は2024)
グローバルコンサルティングファームであるマッキンゼーが200社のクライアント企業と推進してきた経験・実績から、企業変革へと結びつくDX実践・AI活用における組織体制・人材戦略、プロジェクトの進め方や管理等、各種方法論およびそれを導入・実践していてる様々な企業事例を解説したものです。
特定のビジネスドメイン・業界に依存しない形で、非常に汎用的にまとめあげられており、クラウド・UI/UX・アジャイル・クロスファンクショナルチーム・タレントマネジメント・採用戦略・OKR・プロダクトマネジメント・データマネジメント・MLOps などなどを的確に盛り込み、現代での IT・DX・AI活用、および、スタートアップやアントレプレナー、イノベーションにおける不可欠なプラクティスがとても綺麗に整理されています。
時をつないで
この2冊を眺めていると、気づかれると思うのですが、一冊目「Hackers and Painters」でポール・グレアムが書いた様々な行動原理・精神・アプローチが、20年の時とともに確固たる方法論群として発展・確立してきたということを、二冊目「Rewired」を読むことで知ることができ、またそれらを学ぶことができます。
逆も然りです。「Rewired」では、「デジタル人材の考え方を理解し、彼らが何を求めているかを知る必要がある」と説いています。その答えのヒント・源流は「Hackers and Painters」に見つけることができます。例えば、第16章における「最後の開拓地」の節は、まるで今のデジタル人材が求める働き方や環境について書かれてあるように読めるのです。
私も前職時代に様々な企業・産業のエクゼクティブの方々のご相談に乗り、ディスカッションしながら認識を深めていきましたが、今やインターネット企業・スタートアップだけでなく、世界の主要な企業はこれらの極意を普通に導入・実装し、日々の事業開発・展開を行ってきています。
普通のやつらの上を行け ー この20年でインターネットを中心とした世界において培われてきた各種方法論と人材・組織の真髄をどう用いていけるのかこそが、今のAI・生成AIの自社やビジネスでの活用においてもクリティカルなポイントだと思っています。
ちなみに、一冊目の原題には、”from the Computer Age” とあり、二冊目の原題には、”in the Age of Digital and AI” とあります。確かにこの20年は、コンピューターの時代からデジタルとAIの時代への変遷でした。そして、我々はさらに進んでいくのだと想いを新たにしました。