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MMORPGの起源と進化、そしてメタバースと人を支えるプラットフォーム

これは、MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game すなわち、大規模多人数オンラインロールプレイングゲーム)に関する記事です。MMORPGの歴史やいくつかの側面を参照しながら、今後のオンラインゲームやメタバースの発展に想いを馳せます。


はじめに

去年、スクウェア・エニックスの三宅 陽一郎さんと対談しました。ゲーム業界における、メタバースに通じる3D空間でのAIの活用が、スマートシティの高度なAI開発に応用される話等を伺いました。


また、先日、10歳にして、気候変動対策、環境保護活動を実際にアクションとして実践している若き活動家、ジョージ・Y・ハリソンさんとAIと気候変動をテーマに対談をしまして、アースデイにあわせて、VOGUEさんサイトにて、掲載されました。
記事内では、オンラインゲームに代表されるメタバースを用いていくことが、今後の気候変動対策を行っていくうえでも大切であることを話しています。


三宅さん、ハリソンさん、それぞれの対談で、オンラインゲーム、特に、大規模、多人数のユーザーが参加する3D空間(すなわち、メタバース)が今後の技術進化や課題解決において鍵を握るプラットフォームであることを再確認した次第です。大規模で多人数のユーザーが参加する3D空間といえば、MMORPGのトレンドこそがその発展を支えてきた主役ともいえます。本記事では、そのMMORPGを掘っていきます。


MMORPG の概要

大規模多人数オンラインロールプレイングゲーム、英語で書くと、Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、略して、MMORPG。この興味深い世界に焦点を当てていきます。
MMORPGは、ロールプレイングビデオゲーム(RPG)の没入感のある世界と、大規模多人数オンラインゲーム(MMOゲーム)の広大で相互接続された環境を組み合わせたものです。この革命的なゲームは多人数でのオンライン接続ゲームという形態で考えると、1970年代後半のMUDにその起源を見ることはできますが、一般に広がるようになったのは1990年代からで、インターネットの急速な発展に乗ることで、何百万人ものプレイヤーがリアルタイムで交流し、協力して、競い合う広大なバーチャル世界を創造するに至りました。MMORPGはゲームコミュニティが他のプレイヤーとコミュニケーションし、探検して、クエストに挑むバーチャルワールドの世界観を体現することで急速に脚光を浴びます。これらのゲームは、プレイヤーが自分のキャラクターやゲーム世界に完全に没入することができ、現実とファンタジーの境界が曖昧になる独特のゲーム体験を提供したのです。
MMORPGは、その絶大な人気とユーザーが長く遊ぶことが可能な特性から、「Life-games」(生涯ゲーム)とも称されるようになりました 。従来のビデオゲームでは限られたシナリオにおけるエンディングの到達でゲームプレイが終了してしまうことが当たり前でした。ですが、MMOPRGでは、どんどん追加されるシナリオによって、あるいは、ユーザー自身がシナリオを考えることで無限にプレイできることが特徴となっています。多くのMMORPGが時と共に登場し、消えていきましたが、いくつかの顕著なタイトルはゲーム界に消えない痕跡を残しました。World of Warcraft、Final Fantasy XIV、The Elder Scrolls Online等のゲームは、世界中の何百万人ものプレイヤーを惹きつけ、国境を超える、活気に満ちたコミュニティを育てたのです。

MUD(マルチユーザーダンジョン)という起源

MMORPGの起源の一つとして、1970年代後半のテキストベースのMUD(マルチユーザーダンジョン)というオンラインゲームにさかのぼることができます。

1978年にイギリスのエセックス大学の学生だったRoy Trubshaw氏が、MACRO-10というアセンブリ言語で動く、複数ユーザーが参加可能なテキストアドベンチャーを開発しました。Trubshaw氏は、MITの学生がグループが作った、ダンジョン探索テキストアドベンチャーゲーム「Zork」の大ファンだったことから、内容をダンジョン探索に設定し、このテキストアドベンチャーを「Multi-User Dungeon (MUD1)」と名付けました。このMUD1が最初のMUDと呼ばれています。
MUD1はエセックス大学のネットワーク上でプレイされていましたが、1980年にエセックス大学のネットワークがARPANETと接続し、世界で最初にインターネットを介してプレイできるMORPGとなりました。そして、MUD1を真似たMUDゲームが多く作られました。
以下は、MMORPGの起源としてのMUDについて解説した動画ですが、3分39秒あたりからMUD1が登場します。


MUDは、テキストベースのロールプレイングゲームですが、現代のMMORPGにつながる、没入感のあるマルチユーザーオンラインゲームとしての基本的な枠組みを提供していました。それは、レベルアップ、探検、モンスターハンティングというゲームの基本構成であり、またバーチャル世界の共有、プレイヤー主導のストーリーテリング、そして、ユーザー同士を結び付けるインタラクションというユーザー体験の核をなすものでした。
MUDはテキストベースのシンプルなインタフェースであり、グラフィックはなく、一度に数人のユーザーが参加するだけでした。プレイヤーはコマンドや質問を入力し、ゲームは進行中のイベントをテキストで説明。その説明を読んでユーザーはゲームの世界のイメージに入り込んで、プレイを楽しみました。いわゆる、ダンジョンズ&ドラゴンズのようなテーブルトップゲームをオンラインで行うものとして人気を博し、現在でも根強いファンがいます。


MUDからMMORPGへの発展

技術が進化し、コンピューターグラフィックスが向上するにつれて、オンラインゲームの世界も、テキストからビジュアル志向のものへと変化していきました。その進化の過程の中で、MMOゲームの、インターネットを介して相互接続された世界と、RPGの豊かなストーリーテリングとキャラクター開発を組み合わせたMMORPGの基盤が築かれていくことになります。
MMORPGは、MUDが築いた枠組みをさらに発展させ、シンプルなテキストベースの環境を何百万人ものプレイヤーが共有できる広大で鮮やかな、没入感のある世界に拡大しました。MMORPGの登場は、ゲーム業界を変革し、ファンに新たなレベルでのインタラクションやエクスペリエンス、社会的なエンゲージメント、持続的な魅力を提供しました。


最初の現代的なMMORPGたる Habitat、Neverwinter Nights

1986年に、Lucasfilm GamesがCommodore 64でHabitatというMMOをリリースしました。Habitatは最大1万人のユーザーをサポートし、2Dグラフィックスで表現された仮想の街でユーザーが市民として生活するバーチャルワールドを実現していました。ユーザーが操作するプレイヤーはアバターと呼ばれ、ユーザー同士の交流や自由度の高いインタラクションも実装されており、それゆえ、Habitatをメタバースの原型とみなす人もいます。


その後、1991年、Quantum Computer Services(後のAOL)が、Neverwinter Nightsをリリースしました。これは最初の現代的なMMORPGと考えられています。このゲームには、戦闘、レベルアップ、ギルドを作成する機能等、ジャンルの定番となる機能が盛り込まれていました。1997年のサービス終了までの間に、Neverwinter Nightsは、11万5000人もの課金ユーザー(1時間あたり6ドルの課金)を集めました。


MMORPGをメインストリームに押し上げた Ultima Online

1997年にデビューしたUltima Onlineは、MMORPGをゲーム界のメインストリームに押し上げ、大規模なオーディエンスを獲得しました。1981年に始まった人気のあるUltimaからの既存のファンベースを持つこのゲームシリーズは、最初の年に10万人の加入者を達成し、2003年には25万人のアクティブアカウントで頂点を迎えます。Ultima Onlineの成功は、MMORPGジャンルの転換点となり、さらなるビジネスのポテンシャルも示しました。


金字塔たる、World of Warcraft

そして、MMORPGというジャンルのスタンダードを築いたWorld of Warcraft(WoW)の登場です。2004年にBlizzard EntertainmentによってリリースされたWoWは、これまでのMMORPGが作り上げてきた基本と伝統を踏襲し、プレイヤーにこれまでにない程に広大でビジュアル的にも優れたワールドを提供しました。惹き込まれるストーリーライン、堅牢なレベルアップシステム、そして魅力的なゲームプレイを持つWorld of Warcraftは、すぐに世界的な現象となり、何百万人ものユーザーを獲得し、文化的アイコンとしての地位を確立しました。


2010年には、登録ユーザ数が1000万人を突破し、「最多登録者数のMMORPG」としてギネスブックに登録されました。現在、WoWは、1億2,000万人のプレイヤーベースがあり、244の国と地域でプレイされ、230万人以上のデイリーアクティブプレイヤーがいると言われています。5億以上のキャラクターと900万のソーシャルギルドがプレイヤーによって作成され、まだ日々進化を続けています。


MMORPGの持つ社会的側面

ここで、MMORPGが持つ社会的側面についても触れておきたいと思います。MMORPGの魅力は、主に広大なゲーム世界と、終わりのないコンテンツの提供によるものと言えますが、その真の魅力は、プレイヤーの生活や様々な活動に密接につながる社会性に見出すことができます。
まずMMORPGは、プレイヤーが長く付き合える人間関係、例えば、同じ嗜好を持つ友人やあるいは交際相手を見つけることができる集いの場でもあります。ゲームの中で形成された他のプレイヤーとの間との関係や絆は、多くの場合、バーチャルな世界を超えて広がり、プレイヤーが現実空間での友人やパートナーとして付き合うことも何ら不思議ではありません。例えば、WoWではそのユーザー数の多さゆえに、ゲームを通じて出会い、結婚したカップルの数も多く、登録ユーザー数が1000万人を超えた際には、ニューヨークタイムズ等各種メディアで結婚にいたったカップルが取り上げられたことがあります。

また、MMORPGは、その自由度の高さや汎用性から、様々な活動のプラットフォームとしても活用されます。例えば、プレイヤーが、ゲーム空間の中で他のプレイヤーと協力して映画のシーンを撮影したり、YouTube やTikTok に投稿するための動画を撮影するということもよく行われています。古くは、「Machinima (マシニマ)」と呼ばれた、ゲーム空間の活用です。

他にも慈善活動への意識や資金を高めるプラットフォームとしての活用等もあります。ゲーム内のイベントや募金活動が、プレイヤーや開発者によって組織され、ゲームコミュニティの力を活用して現実世界にポジティブな影響を与えています。

MMORPGによって構築される経済圏

MMORPGが持つ社会的側面は、社会的交流や活動のためのプラットフォームというところに留まらず、ある種の経済圏を生みだすようにもなりました。例として、RMT(リアルマネートレード)が挙げられます。これは、オンラインゲーム内で手に入れることができるアイテムや、強化されたユーザーキャラクターのアカウントなどを現実世界の通貨で取引することを指します。アイテムやアカウントの販売者は、販売サイトを運営するか、ネットオークションなどを利用して販売を行います。しかし、多くのゲームの運営者はこのような行為を公式に認めておらず、ルール違反とみなしてアカウントの凍結などのペナルティを設けています。それにも関わらず、人気のあるゲームではこのような行為が増加している傾向があります。
RMTに及ばなくても、MMORPGの自由度の高さによって、様々な取引や経済活動が可能になっています。課金を通して流入してくるお金をベースとしながら、ゲームの仮想世界の中で実現されている疑似的な経済活動もあれば、実際のビジネスのプラットフォームとして機能している面もあります。2002年に経済学者であるEdward Castronova は、MMORPGの一つである Everquest が中国やインドよりも一人当たりGDPが高く、地球上で77番目に裕福な国であることを発見しており、全体として無視できない規模の経済が存在しているといえます。


独自の経済を実現している EVE Online

アイスランドのCCP Games が2003年にリリースした、EVE Onlineという宇宙を舞台にしたMMORPGがあります。世界200以上の国と地域でプレイされ、900万以上のプレイヤーベースがあります。EVE Onlineは、独特の経済圏を生み出しており、経済システムがどのように機能するかを観察することができる「バーチャル経済」としての評価があります。このSFスペースオペラは、2007年に、Eyjo Gudmundsson氏をチーフエコノミストとして採用し、EVE Online の仮想国家経済研究所、統計局、中央銀行を管理することを任せました。これは、経済学者にとって夢のような仕事であり、様々な経済的シミュレーションを試すことができる理想的な研究環境でもあります。

Gudmundsson氏は以下のインタビューで、EVE Onlineでの自分の仕事は、リアルな経済における経済学者のそれとまったく同じであり、ゲーム内の政府に様々な経済政策を提言していると答えています。


ゲーム内で購入可能な5,000以上のアイテムと、ゲーム内通貨であるInterstellar Kredits(ISK)を使用した毎日100万件以上の取引が行われていることから、EVE Onlineの経済は非常に複雑です。2014年には、ゲーム内におおよそ600兆ISKが存在しており、これは現実世界における約1,800万ドルに相当します。これらの財はプレイヤーが生成していた経済的価値であったため、ゲームの開発者側は新しい通貨を導入する等して経済を調整するような手段がとれませんでした。代わりに、Gudmundsson氏は、ブローカー手数料の導入やプレイヤーのスキルブックの販売、ゲーム内取引に対する消費税を課すことで、ハイパーインフレを防ぐような経済のバランスをとる、より微妙な政策を採用していきました。
また、Gudmundsson氏は、EVE Onlineをさまざまな通貨システムの研究に使用することができると述べており、ゲームの経済内で金本位制からビットコインのような暗号通貨に至るまでのシステムの機能性を大規模に調査しています。


MMORPGを越えて、あるいはMMORPGの進化とAI

今までで述べてきたようなMMORPGの社会的側面や実現されている経済圏は、近年展開されてきたWeb3での新しいサービスや、今後、メタバースの構築により実現される未来へのビジョンへと通じるものがあります。
経済圏というところでは、ブロックチェーンやそれに基づくNFTを用いて、ユーザーの購入や所得の証明をもたせることで、ユーザーの所有権を実世界と同じように保証し、世界としてのリアリティを高めるというWeb3の動きが進んできました。その中で、Move to Earn のコンセプトを体現したSTEPNや、Play to Earn で2021年にブレイクした「Axie Infinity」、2022年に様々な領域で展開されたNFTやDAOによる各種ビジネスは、まさにインターネット上にこれまでにないエコノミーを実現する可能性を見せています。メタバースも単なるエンターテイメントやマーケティングという手段をこえて、人々の行動変容を促し、社会課題解決へと進むプラットフォームとしての可能性を見出され始めています。本記事冒頭でのハリソンさんとの対談はまさにそのような内容でした。

しかし、MMORPGそのものもまだまだ進化しています。多様なゲームがリリースされており、異なるジャンルやテーマを好むプレイヤーには、Star Was: Old Republic や、Lord of the Ring Online、DC Universe Online、Guild Wars 2 や Final Fantasy Online 等、他にもたくさんの選択肢が出てきています。そして、その拡がりはさらに無限の世界へと到達しつつあります。2016年にリリースされた「No Man's Sky」は、1800京を越える惑星が存在する宇宙を冒険できる物語で、ゲーム史上、圧倒的な広さを誇るMMORPGと言われています。自動生成される無限の宇宙で探索と生存をテーマに、「探索・戦闘」というMUDが受け継いだ伝統と、「貿易」という経済活動をメインコンテンツとし、プレイヤーは未開の星を目指すのも、戦士となって海賊を倒し財宝を奪うのも自由です。


自動生成といえば、2022年、2023年の今日は、DALL-E2や、MidJourney、Stable Diffusionといった高度に絵を生成するAIや、ChatGPT、ChatSonice、Bardのような高度にテキストやコードを生成するAIである、生成AI(Generative AI)が世間の話題をさらっています。今後、MMORPGも生成AIと結びつき、より多様なニーズにダイナミックかつ自動的に応えていくことも可能となるかもしれません。


終わりに

MMORPGは、単なるゲームという姿を越え、人々をつなげ社会に持続的な影響を与えるプラットフォームへと進化し、メタバースの未来像へとつながりました。これら「Life-games (生涯ゲーム)」は、今後も何千万人ものプレイヤーをバーチャルな世界で結びつけ、文化や地理的な隔たりを越えた友情やコミュニティを育てていくことと思います。技術が進化し続ける中、3D空間がどのように進化し、ユーザーコミュニティの未来をどのように支えていくのかを見守るのは興味深いことでしょう。


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