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#5 今までありがとう、と言う

人が死に至るとき、
最後まで聴力は残るらしい。

だから大事な人が亡くなるとき、
泣いてばかりいるのではなく
「今までありがとう」と言おうと思った。

返事を聞くことのできない言葉。
でもちゃんと伝わっているわけで。

自分の大事な人が亡くなったときを思い出す。

自分は聴力が残ることを知らず、
ずーっと泣き続けていた。

けれど母は、その人へ駆け寄り、
「今までありがとう、ありがとう」と言っていた。

その人は亡くなっている。
なのに涙を流しているように見えた。

「ありがとう」というお礼を聞き、
安らかにあの世へと逝くタイミングなのだと思った。

嗚呼、人が亡くなるって辛い。
けれど、その人をまた愛せることでもある。

死ぬという表現ではなく、
あちらで生まれたと表現する。

そのほうが大事な人に対しても、
幸せが届きそうな気がするから。


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