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キャリア教育の3つの要諦②~Courage to be。

ここ数年,私がキャリア教育科目を担当するとき,伝えることが3つあります。「Being is Choosing」「Courage to be」「Enjoy &Survival」の3つです。今回は,「Courage to be」について考えてみましょう。

Courage to beは直訳すると「存在する勇気」となりますが,これも「生きる勇気」と捉えられることが多いと思います。これも國分康孝・久子両先生が座右の銘にしておられた言葉の一つで,康孝先生はご著書にサインをされるときはこの言葉を記しておられました。

この言葉は,パウル・ティリッヒの著作『Courage to be(大木英夫訳で『生きる勇気』という訳書があります)』に由来すると,康孝先生が自分の著書で述べています(國分久子監修・國分康孝著『カウンセリングとともに生きる 存在への勇気』図書文化社,2018年。ここでは「Courage to be」を「存在への勇気」と訳しています)。

康孝先生がどういう趣旨でこの「Courage to be」を座右の銘にしたのか,先生がなくなってしまった今は,先生の著書や残された講演・講義,直弟子の先生方の証言から推測していくしかありません。そこで,ここでいう「Courage to be」の意味は,これまでの國分先生や関係の先生方ともった接点や,エンカウンターに参加した体験からつかんだ私個人の捉え方,ということにならざるを得ません。

そこを前提に「Courage to be」の意味するところについて私の考えを述べるなら,それは「ここに自分の居場所があるという確信を持つこと」「ここで自分の居場所を得る(切り拓く)という勇気を持つこと」「必要に応じて,自分を打ち出す勇気を持つこと」です。これが,私がキャリア教育の中で学生に伝えているメッセージです。

「ここに自分の居場所があるという確信を持つこと」とは,いろんな要素が絡まり合って今ここにいる,という事実を受け止めることです。大学1年生の場合,本命の大学は別のところだったのに,そこに届かなかったためにこの大学に来た,という学生もいます。入学前に期待していたことと異なる学生生活の実態に,やる気を喪失する学生もいます。そうなった時,早々に見切りをつけ,進路変更して別の大学に入りなおすのも,中退して就職するのもその学生の自由(それこそ「Being is choosing」)です。

しかし,自分がこの大学に入学することになったという事実の背景には,何らかの自分の「選択」があったはずです。芸能界ならば,知らないうちに誰かが履歴書を送っていて…ということもあるやに聞きますが,通常ならば何らかの本人の決断がそこにあったはずです。大げさに言えば,「この大学に私の生きる場所がある」という期待を持ってこの大学に来たはずなのです。そこで,その期待を確信に変えるべく,自分のできることをやっていく。新しいステージに入っていくには,まずここが重要です。

何らかのご縁でこの大学に来ることになり,私(たち)と出会うことになったのだから,この「ご縁・出会い」を活かしてまずは頑張ってみてほしい,そのためにも「Courage to be=ここに自分の居場所があるという確信をもつ」の精神を身に付け,実践してほしいと思うのです。

この経験は,就職後のいわゆる「リアリティショック」への対応にもつながっていきます。新卒で入社した人が1日・2日でやめた・やめるという投稿がSNSに流れて物議を醸しています。それぞれの是非はケースバイケースですし,自分にとって「ブラック」な職場にいて心身を損なうこともない…とう言い分も分かります。ただ,一つの選択肢に飛びつくのではなく,いろんな選択肢を吟味し,自分の価値観や哲学に基づいて判断してほしい,そのためにもこのCourage to beという言葉を思い出してみてほしいとも思います。

ここで大切なのは「自分の価値観や哲学に基づいた判断」です。アイデンティティという言い方もできるかもしれません。入社した会社に残ってもう少し頑張ってみるのか,早々に見切りをつけてやめるのか,最後は自分自身の判断です。その際に拠り所になるのは,「自分はどのように生きたいのか」「自分は仕事で何を成し遂げたいのか」についての自分なりの回答です。

先日,大学を1年休学してアフリカへ渡った学生の話を聞く機会がありました。現地で犯罪に巻き込まれたり,現地の人と確執が起こったりして,心を痛め,もうここにはいたくないと思ったこともあるそうです。しかし結果として,その学生は1年間の海外研修をやり遂げて戻ってきました。これも一つのCollege to beの一つの在り方だろうと思うのです。

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