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「ジークフリート〜神々の黄昏」 物語の時間軸

「ジークフリートは何歳?」
「ブリュンヒルデは起きたら何歳になっている?」

ワグネリアンの間でよく話題に上る質問です。皆さんはどのようにお考えでしょうか?

「ジークフリート」3幕でジークフリートによって起こされたブリュンヒルデは「ワルキューレ」の最後からジークフリートが青年になるまで眠っていたのですから、少なくとも18年ほど経過しているでしょう。眠った時が20歳として現実的に年齢を割り出すと38歳!ということになります。
でもこうやって考えてしまったら青年とおばさんの恋⁉︎あまりときめきませんよね。眠ってる間は歳を取らない!って考えたほうが美しいかもしれません。そうすると年齢の近い若者カップルといえます。

「神々の黄昏」1幕3場でヴァルトラウテに再会するときに「あら、お姉さん老けたわね」とはならないわけですし、もしかすると神々の世界の時間軸は人間世界とは違うのかもしれません。

このように物語の時間軸と主人公の年齢を想像するのはなかなか楽しいことです!

さて、以下にご紹介するのは昔「わ」の会コンサートに向けたコラムですが、「ジークフリート」から「神々の黄昏」まででどのくらい時間が経っているのか、を考察した内容となっています。

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「わ」の会2017 コラム第3回  物語の時間軸

『神々の黄昏』の前の作品、『ジークフリート』の最後でジークフリートとブリュンヒルデは結ばれますが、そこから『神々の黄昏』開始までにはどのくらいの時間が経過しているでしょうか?初回のコラムでお話した二人のラブラブシーンの時までに、ブリュンヒルデはありったけの知恵を彼に授けたり、愛撫による秘薬を体に塗ったりしています。(ちなみにジークフリートは決して敵に背中を見せないという理由から、ブリュンヒルデは背中にだけは秘薬は塗りませんでした。そこを突かれてやられてしまうことになります。)。そうなると1日では足りないでしょう。一週間?一ヶ月?もしかしたら年単位で経過してると考える人もいるかもしれません。

では序幕から1幕への時間経過、つまりジークフリートが「ラインの旅」をしてギービヒの館にたどり着くまではどのくらい経っているでしょう?一日?一週間?一ヶ月?もしかしたらこちらも年単位で経過していると考えることもできるでしょう。

こうしたはっきりしない時間軸を考える上でヒントになるのは、1幕3場ヴァルトラウテがやってくるシーンのセリフです(残念ながら今回の「わ」の会では演奏しません!)。ヴァルトラウテがブリュンヒルデのもとにやってきた経緯を説明するのですが、このように語ります。

「最近になってさすらい人となって世界を巡っていたヴォータンがヴァルハルに戻ってきた。手には一人の勇士に砕かれた槍の破片を持っていた。ヴァルハルの勇士を森に行かせ世界樹を伐らせ薪にして積み上げるよう命じた。神々の会議を招集するも無言のまま。彼はあなた、ブリュンヒルデのことを考えていたの。『ラインの乙女たちに指環を返してくれたら』とささやいたの。そこで私は急いでここにやってきたのよ。」

そう、『ジークフリート』の3幕2場でヴォータンは自分の孫であるジークフリートと負け戦に臨んで槍を折られたのでした。その後折れた破片を持ってヴァルハラに帰ってきたのですから、多少放浪して帰ったとしても折られてから数日以内と考えるべきでしょう。その後薪を積ませ会議を開くまでやはり長くて数日といったとこでしょうか?そうなると槍が折られてからヴァルトラウテがブリュンヒルデのもとにやってくるまで約7〜8日間と算定します。

とすると、ジークフリートとブリュンヒルデが結ばれてからギービヒ家に到着するまでも同じ7〜8日間ということになります。ヴォータンの槍が折られたのとブリュンヒルデを起こしたのは同じ日ですし、ジークフリートがブリュンヒルデの岩屋に向かう日とヴァルトラウテが訪ねてきたのも同じ日ですから。

ちょっとここで、忘れ薬を飲んだ後のジークフリートのこのセリフを考えてみましょう。「女の怒りはすぐ収まるものだ」(2幕4場)「グートルーネに貞節を誓っていなかったら、ラインの乙女の一人くらい手なずけていたのになあ」(3幕1場)などというセリフを吐けるようになっているのはなぜでしょう?旅の途中でそれなりの女性経験を積んだか、あるいはハーゲンの忘れ薬が目の前の女に恋をし突然女の扱いに開眼する効果がある、のどちらかではないでしょうか?私は後者の意見です。忘れ薬を飲む前に、最初の一杯はブリュンヒルデとの愛に捧げると言いますが、これは偽りではないでしょう。そうすると飲んだ後に女性に対する感覚さえも変わってしまったと考えることができます。旅の途中に女性経験豊富になったと考える必要もないわけです。

グートルーネは「どんな行為でジークフリートは素晴らしい勇士と呼ばれるの?」とハーゲンに聞きますが、ハーゲンの答えはこうです。

「ナイトヘーレの洞窟の前でニーベルングの財宝を守っている大蛇がいた。ジークフリートは大蛇ののどを封じて必殺の剣で大蛇を殺した。この無類の行為から勇士の名声は生まれたのだ。」

つまり「大蛇殺し」でジークフリートの名は世間に轟いたということなんですね。別に他の部族との戦闘の武勲がある、といったわけではないようです。確かに!大蛇ファーファナーはジークフリートに倒される前に財宝を狙いに来た者を何人も絞め殺しており(『ジークフリート』1幕3場でミーメが語ります)、大蛇を倒す勇者が望まれていたのだと思います。そんな大蛇を倒したのでヒーローになったというわけです。

さて最初に提示した疑問「ジークフリートがギービヒの館にたどり着くまではどのくらい経っているか?」については、わりと早くにギービヒ家に到着したと考えてもよいと思います。ジークフリートはすでにブリュンヒルデから授けられた知恵の中に「ライン河沿いにギービヒ家という名家がある」という情報があったのでしょう。ブリュンヒルデのもとを離れて最初に向かったのがギービヒ家と考えてもおかしくありません。もしかすると1〜2日で到着してるかもしれません。

『ジークフリート』でミーメが殺されたときハーゲンの父親であるアルベリヒは嘲笑だけ残して指環を奪うでもなく立ち去ってしまいます。すでにここでアルベリヒは息子ハーゲンに指環奪還の命を下していたのかもしれません。実際に『ジークフリート』にハーゲンを登場させる演出もありますし、あずみ椋のコミックにもこのシーンにハーゲンが登場します。

ところでハーゲンってすごく老けているイメージをもってる方いませんか?確かに「早く年を取り顔色も悪く、楽しいことは何もない」(2幕1場)と語るハーゲンですからそう思われても仕方ないかもしれません。しかし!『ワルキューレ』2幕2場でヴォータンにより「アルベルヒに憎しみの種が宿った」とハーゲンの誕生が予告されますが、ジークフリートがジークリンデのお腹に宿るのも同じ頃、つまりジークフリートとハーゲンは同級生なんです!10代後半同士と思って間違いではないでしょう。

さて、今回の考察を踏まえて『ジークフリート』開始から『神々の黄昏」終わりまでのタイムラインを書いておきましょう!わかりやすいように今日(7/3)を基準に考えてみます。

7月3日
・ジークフリートがノートゥングを鍛え直す(Siegfried Akt1-3)

7月4日
・ジークフリートが大蛇を倒し指環と隠れ兜を手に入れる。(Siegfried Akt2-2)
・ミーメを殺害(Siegfried Akt2-3)
・ヴォータンと出会い槍を折る(Siegfried Akt3-2)
・ブリュンヒルデを起こし結ばれる(Siegfried Akt3-3)

7月7日
・ヴォータンがヴァルハルに帰る。トネリコを伐り薪を積み上げるよう命令

7月10日
・ジークフリートがブリュンヒルデのもとから旅立つ(Götterdämmerung Prolog)

7月11日
・神々の会議招集、ワルトラウテがブリュンヒルデのもとへ(Götterdämmerung Akt1-3)
・ジークフリートがギービヒ家に到着、忘れ薬を飲んでブリュンヒルデの岩屋へ(Götterdämmerung Akt1-2,3)

7月12日
・ジークフリートがギービヒ家に戻る(Götterdämmerung Akt2-2)

7月13日
・ハーゲン一行が狩りにでかける。(Götterdämmerung Akt3-2)
・ジークフリート殺される。(Götterdämmerung Akt3-2)

7月14日
・ジークフリートの遺体が館に戻ってくる(Götterdämmerung Akt3-3)
・ブリュンヒルデの自己犠牲(Götterdämmerung Akt3-3)
・ヴァルハル炎上(Götterdämmerung Akt3-3)

こうしてみると『ジークフリート』から『神々の黄昏』までは案外短期間の出来事であることがお分かりになると思います。

❇︎なおこれは城谷による私見で、別の意見もありうることをお断りしておきます。

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