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千年の旅路:第一章(1)

暗闇をひとりの獣人―名をラルクという―が歩いていた。

ラルク
「千年の呪いがどういうものなのか。
 愚かな俺にはわかりようもない。

 だが、以前わずかな間だけ会えた
 我が姉、シエラによると
 俺は今後、様々な次元において
 贖罪の旅と闘いを強いられるのだそうだ。

 様々な次元での闘い……

 いいだろう。
 それでこの身の呪いが解けるのであれば。
 闘って、闘って、闘い続けるだけだ。

 しかし……

突如として暗闇が晴れる。
ラルクはいつの間にか森の中にいた。

そして、少女がラルクに向かって弓を構えていた。

少女
「何者だ。

ラルク、ハッと気付き、自分の背後を振り返る。
弓を向けて立っている少女の姿には隙がなく
金縛りにあったように動けない。

ラルク
「いつの間に……?

少女は、冷たい目をラルクに向けたまま
微動だにしない。

少女
「獣人か。

ラルク
「……

少女
「ここの者ではないな。
 名乗れ。

ラルク、しばらく黙っているが
逆らっても意味がないことを悟り
ふう、とひとつため息をつく。

ラルク
「……ラルク。

少女はラルクの名前を聞き、軽く首を傾げる。

少女
「ラルク?
 ……いや、聞いたことはないな。

ラルク、少女の様子に目を細める。
彼女の魂の中に、自分が知る白き竜の影をみつける。

ラルク
「この感じは……
 貴様、ヴァディスか!?

眉をひそめ、明らかに警戒心を強めた様子の少女。

少女
「ヴァディス?
 なんだ、それは?

ラルク、訝しげな表情を見せて独り言ちる。

ラルク
「……転生前?
 それとも転生後か?
 次元がねじれているな……
 どういうことだ?

少女は、弓を構えなおしてラルクに狙いを定め
ゆっくりと弓を絞る。

少女
「何をブツブツ言っている。
 怪しい奴だ。死ね。

身構えるラルク。

ラルク
「弓か……
 こちらが不利だな。

そのまましばらく時間が流れる。
ラルクの額には汗が流れ、表情には焦りが見られた。
突如、弓を下ろす少女。

少女
「……不思議だ。
 何故か貴様を殺す気にならん。

ラルク
「む?

少女
「ラルク……ヴァディス……
 聞いたことがないはずなのに
 とても懐かしく感じる。

ラルク
「まあ……
 それはそうかもしれんな。

弓をしまう少女。

少女
「気が削がれた。
 貴様を殺すのは止めておこう。
 ……今はな。

ラルク、やれやれと首を振る。

ラルク
「それは助かる。
 無用な闘いはしたくないのでな。

少女は、ラルクをしばらく見つめる。
何かを決めたように独りうなずく。

少女
「そのかわり、私を手伝え。

驚くラルク。

ラルク
「なに?

少女
「私は、主を助けるために
 とある場所へ向かっている。
 が、そこに何がいるかわからんのでな。
 用心のために、一緒に来てもらおう。

ラルク、姿勢を正し、ふむ……と考える。

ラルク
「なるほど……
 それが、この次元での闘いか?

首を傾げる少女。

少女
「なんだ?

ラルク
「いや、何でもない。
 俺でよければ協力しよう。

少女は、あまりに素直なラルクを一瞬訝しむが
すぐにフッと微笑む。

少女
「……助かる。
 我が名はクロエ。
 よろしくな。

うなずくラルク。

ラルク
「ああ。よろしくな。
 ヴァデ……クロエ。

こうしてラルクは、クロエと名乗る少女と
旅をすることになった。

この旅で、彼は自分自身の因縁と
対峙することになる……

(続く)

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