映画版『湾岸警察ドリルメン!』の真実
『利き酒師マユミ』の記事で、読んでたのが二年前だと書きましたが、冷静に考えたら五年も前だ……。
いや、今年で37になるなんてちょっと信じられないんですよね。いや、信じたくないだけなんですが。
で、月刊バイソンの話をして、『湾岸警察ドリルメン!』の話をしないのもどうかしているだろうと思ったわけです。なんといっても映画化までしたんだから……。なんでも作者の伴恭児、そもそもアメリカ国籍で、なんか法律の関係でしばらく休載中ってことらしいですね。いまIDWで、コミック版の『アンネイムブルシャークス』とか描いてるらしい。実家でカートゥーンネットワーク繋いでたんで観てたけど、名状しがたきサメ達、カッコ良いよね……。
で、『湾岸警察ドリルメン!』しつこいようですが、映画化もしたんですよ?覚えてますか?お馴染みの潮干狩りのシーンも、ベテラン刑事手國狩矢のテクニカルチョップも、忍者兄さんの凶悪修行シーンも、名エピソード『活火山踊り食い編』で明らかになったハリガネ署長の過去も、サイモン神父の裏説教八連発も、『カマイタチ学園編』の人気ヒロイン泥団子の冴子も、五千羽のフラミンゴが警察署を襲うアレも、アーノルド弟の脳髄の皺の一本まで原作を再現した実写版が…………。
あそこまで原作愛に満ちていて、なぜ主人公がオリジナルキャラだったのか。
主人公ダン双六は、細面のナイーブな少年でオドオドしてるが口数は多く、ドリルを手にしたら狂気の殺戮マシーンとなるのが売りのキャラなのに、映画ではバーニング助六なる、寡黙なグラサンクールガイで、ドリルはマシーンについてる物以外は回さず、敵とは素手で戦う……。主演の樫丘陽太って普段はそれこそ細面でナイーブな役しかしてないじゃん!なんだよ、樫丘からキャラの変更が提案されて、原作者快諾って、嘘だろ!
と、多くの人が思い、原作ファンも樫丘ファンもそっぽを向き、“まさかの実写化!”の方の後は、誰も観ず騒がず忘れ去られた。
が、一部の映画ファンからは、高い評価は得られないまでも、愛されているのが本作である。その理由の一つには、間違いなく主人公が変更されたことも含まれている。
そもそも最初に実写化が報じられた際、主人公以外のキャスティングには「よくこんな似た役者見つけてきたなwww」と騒がれていたものだが、作者の伴はじめ、俳優陣をよく知る人からしてみれば、なにいってんだと言うものだったろう。そもそも伴は、キャスティングされた俳優たちをモデルに漫画を描いていたのだから。
手國狩矢を演じたのは和製シュワルツェネッガーに成り損ねた男、浅田円次郎。ハリガネ署長役は遅れてきたポストブルース・リー、山辺昌宏。忍者兄さんには和製ショー・コスギと言う矛盾した売り文句をつけられた丸尾浩二、サイモン神父にはVシネ黎明期に名バイプレイヤーと呼ばれたそうな芝居をすることで有名だったソドム喜多八。みんな原作の面々そのものだ。泥団子の冴子のモデルは明らかに九十年代イロモノとして話題に少しだけなった、近未来アイドルことメタリック・ヤエだろうが、実写版で冴子を演じたのは娘のSavyである。
『湾岸警察ドリルメン!』はそもそも、かつて本庁で将来を期待されていた若者達が、持ち前の不器用さから所轄に左遷され、実は法で裁けぬ悪を打つためドリルで武装すると言う話だが、伴はそのキャラクターを創造する際、かつて将来を期待されていた若手アクションスター、アイドルらを、その発想の種としていた……。
と、なるとそんな刑事達を束ねるキャラは、九十年代後半、ポスト松田優作、と呼ばれたらそう呼んだ相手を殴り飛ばした、そのエピソード自体が優作オマージュが過ぎると言われていた俳優、呉藤玲二しかいないのではないか。
実は今では閉鎖されている、伴恭児のホームページで発表されていた、ダン双六の没デザインは呉藤玲二にそっくりだった。デザインの変更は直前、呉藤が事故死したことに伴がショックを受けたからだと言う。バーニング助六と言う映画版主人公のネーミングだが、呉藤玲二といえば、はばら屋のいなり寿司のコマーシャルだ……。
ここまで書けば、そもそも『ドリルメン!』が伴が漫画で〈俺アベンジャーズ〉を結集させ、かつてのアクションスターの復権を目指したものであり、映画版は主人公の変更も含めそれへの粋な返答であることが分かるだろう。作者が快諾するのも頷ける。
樫丘が邦画アクションのファンであることは有名だが、なるほど自ら提言しただけあって、樫丘による呉藤玲二の再現は大したものだ。巻き舌しまくったラ行の発音、立ち回りの際に顎をしゃくりあげる様子、指でサングラスのレンズを直接さわる癖……。おかげで樫丘ファンはちっとも樫丘の芝居を楽しめない。呉藤玲二を知らない人からしたら、二時間知らない人の物真似を見せられるわけだから、人気が出なかったのは仕方がないのかもしれない。
だが、この心意気に心意気が答えた映画を、観る前から駄作と決めつけられたり、作者や俳優の自己満足と断じられるのは、個人的に、こう……、たまらないんだ。
多くの人には知られていなくても、確かに誰かが憧れたスターがいて、それを形にして、互いが互いをリスペクトしあった。その事実だけでも、どれだけ尊いだろう……。僕が、売れる売れないより大切な物があるはずだなんて思ってしまう、典型的なダメダメ表現オジサンだからそう思ってしまうんだろうけど……。
まあ、明らかに詰め込みすぎだし、実際しない映画だから、何がどうだったかなんてどうでも良いのかもしれないけど、でも、ね?
ああ、原作、再開されないかな……。
あ、原作も実在してなかった。そもそも雑誌も、アンネイムブルシャークスもだ。
僕がダメダメ表現オジサンなのは本当……。
くそ!負けないぞ!
(Fジャパンさんのリクエストにお応えしました)