支配人不在のフレンドパーク


イリーガルな物がまかり通っていた時代を振り返って「昔は良かった」とか言うのは嫌いなんだ。洒落にならないこといっぱい放置されてたのは確かなんだから。

実際20代半ばの頃は、ヤバイ物が結構その辺に転がってたなと、1983年生まれの僕はビクビク思い出す。大学の近くには成人雑誌の自販機があったし、個人経営とおぼしき謎のビデオショップが、よく見りゃ国道沿いにアチコチあったりした。

今回紹介するビデオは更に強烈なところで見つけた。大学五回生当時、恋愛関係にあった人が大阪、十三に住んでいた。その人の実家へ伺うのに駅から商店街を通っていると、閉まったシャッターの前に雑貨や古本等をグチャグチャに広げている人が居るではないの。

20代の演劇青年、サブカル・アングラな雰囲気に、軽率に憧れていたことを白状・懺悔します。

何本かVHS(タイトルが手書きの物もあった)と、なんか見たこと無いようなデザインのロボットとかを、安いとは言わないが高いと言って逃げるほどではない値段を払って購入し、「高かった!高かったぞ!」と後悔したりしたが、そんなビデオの一本が『東京フレンドパーク』である。

『東京フレンドパーク』である。

断っておくがこのパークには関口支配人も渡辺副支配人もいない。トランポリンを飛んで壁に貼り付かないし、お笑いコンビが着ぐるみを着てゲストとエアホッケーもしない。めちゃくちゃ走らされたりは、する。

ラベルは印刷されてたし、注意書を見るとレンタル落ちのビデオだったらしいから海賊版のそれではなさそうだが、漢字の字幕が終始ついた、日本が舞台で、出演者も日本語で喋っているが、便宜上台湾の映画だと言う……。(詳細は後述)

肝試しか逢い引きか。三年前事故で廃園になった遊園地とやらに、若い男女が入り込んでいる場面から映画は始まる。オバケ屋敷跡に入って怖いの怖くないのキャッキャキャッキャする二人。ホラー映画なら真っ先に餌食にだがなるほど真っ先。壁を突き破ってきたジープに轢かれてしまう。ジープに乗っていたのは気弱そうな白髪混じりの壮年男性(宏じゃない)。「なに!?なんで!?誰!?」とあたふたしてると、いかにもヤヤヤのヤな人たちが現れ「お、人殺しになっちゃったねぇ。」「人殺しは殺さないとねぇ」みたいなことを言いながら、男性の急所を巧み外しつつ拳銃で撃っていく……。最後の銃声が闇夜に響く中、黒塗りのベンツから顔を出しほくそ笑むオヤブンさんの目線の先には『東京フレンドパーク』の看板……。ちなみに『ド』が左右反対になっている……。

以後、ヤヤヤな人達が廃墟で行うイリーガルな暴力の宴が無軌道に二時間たっぷり描かれる。冒頭の人間狩り、💊の売買、獲物もハンターも💊を服用して更にテンションが上がる人間狩り……の繰り返し。メリーゴーランドの馬で逃げようとする太ったおじさんが、なんかかわいかったです。

兎に角、筋なんか無いに等しい。暴力に次ぐ暴力。上記の馬のくだりはじめ、ユーモアを交えたかったようだけど大体スベっている。途中から狂言回しとしてフレンドパークを取材に来たフリーライターが登場するが、『やべぇ、やべぇよ』しか台詞はない。数えたら百六回言ってました。彼がヤに見つかり、なんらかのトラブルで人間狩りの的になった男と、お互いを狩れ!と強要されるのがクライマックスである。痩せギスなメガネおじさんが、💊を決めてシッチャカメッチャカ。ガガガッと目を見開き息をフーフー。フリーライターが身を隠したドラム缶を担ぎ上げながらジェットコースターのレールの上(どう登ったかは不明)に運び……、転がされたフリーライター入りの缶➡途切れたレールから落ちたそれは地面に激突➡ひしゃげる血が出る➡何故か中年男性もその上に飛び降りる➡ヤ達の拍手で終幕、と言う心温まるエンディング……。なんだこれ?こんなもの交際相手と観てしまったらどうなるか考えてみてくれ……。(一方的に僕が悪いな)

公開は90年。一応こちらの方がテレビ番組の『東京フレンドパーク』より先らしいが、ビデオの発売は95年。もうルームランナー走らなきゃ答えられないクイズは誰もが知ってた頃だし原題はまるで違う。完全な便乗である。

筋の無い暴力の連鎖は見ていて辛かったが、スタント技術の高さは素人目にも明らかで、クライマックスのドラム缶には実際人が入っていたようだし、火だるまになりながらコーヒーカップを回すシーンなんか圧巻だった。これでユーモアがユーモアとして成立していたら、高かったとは言え、まあ……となったかもだが……。

で、これ、あの“三池崇史になり損ねた男”木暮ゆうじの監督作品なんですね。木暮監督が日本の映画会に受け入れられ無かった頃、どういう伝があったのかアジア各国の映画会社の製作したB級アクションを撮っていたことは映画秘宝の別冊でチラっと書かれてたけど、するとこの作品でも現地スタッフに偉そうにしてたんだろうな。パッケージ化されてるところを見ると、クビにはならなかったようだが、わざわざ外国で日本が舞台の日本人が出てくる映画を撮ってた辺り、ウ~ン、と思う。もうお亡くなりになった人のことをとやかく言うのもなんだけど、一時とはいえこの人の将来を嘱望したモノズキや、持ち上げたサブカル界隈の人はそれなりに反省が必要だと思う。

ちなみにこの作品、『血と遊ぶ人々』と言う似ても似つかない原題に即したタイトルで、DVD化されていたけど、今では絶版らしい。別に惜しくもないし、そもそもこんな映画も、それを撮った監督も実在しない!良かった!なんかここまで書いて、実在しない事実が心からよかったと思ったよ!

合田団地さんのリクエストで書き記したコレですが、なんか暗くなっちゃったな……。今回本当のことは、十三の商店街で、シャッターの前に本やVHSを広げてる人見かけたことがあることだけです。


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