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細胞性粘菌から学んだムーブメントの本質(デジファシ構想5)

デジタルファシリテーション構想を連載しています。

「人生で大切なことはすべて〇〇で学んだ」系の書籍が多数ありますが、もし、私は、このようなタイトルの本を書くとしたら、

「人生で大切なことはすべて粘菌で学んだ」となるでしょう。

粘菌には、真性粘菌、細胞性粘菌などの種類があり、南方熊楠が研究していたのは、主に真性粘菌であり、私が研究していたのは細胞性粘菌です。

私は、真性粘菌から生命が持つネットワーク型の知性の本質を学び、細胞性粘菌からムーブメントの本質を学びました。

真性粘菌とはこのようなものです。

細胞性粘菌はこちら

細胞性粘菌は、次のようなライフサイクルを持ちます。

胞子から孵った単細胞アメーバは、バクテリアを食べて生活しますが、飢餓状態に陥って単細胞フェーズが終わりを告げると、cAMPという化学物質を使って相互にコミュニケーションをとりあって渦を発生させ、渦の中心に集まってきて合体して移動体というナメクジ状の多細胞体になります。移動体は光のあたっている方向へ移動し、その間に、胞子になる細胞と柄になる細胞に4:1の比率で分化します。その後、形態形成期に入って子実体を作って胞子を飛び散らせます。(詳しくは、動画をご覧ください)

私が学生時代に疑問を持ったのは、相互コミュニケーションから渦が発生するメカニズムです。そこで、重要な発見をし、学会で発表したものの、論文にする前に博士課程を中退しました。

1997年9月日本物理学会講演概要集

粘菌アメーバは、自律的にcAMPを発信できず、外部から閾値以上のcAMPの刺激を受け取ると興奮してcAMPを発信するのです。このような性質を「興奮性」と言います。神経細胞も同様の性質を持ちます。生命的な情報処理の本質は、興奮性を持つ素子のネットワークであるということです。

興奮性を持つ素子とは、このようなものです。

私が発見したのは、1匹だけでは自律的に発信できないが興奮性を持つアメーバを集めると、集団で自律的に発信できるようになる(興奮性⇒振動へと分岐する)ということです。

アメーバの密度を高めていくと、ある密度以上で、アメーバと場とが共振共鳴して、アメーバ集団が自律的な周期的発信するようになります。

さらに密度を高めていくと周期的発信の周期が短くなって(振動数が高くなって)いきます。

cAMPの波は、振動数の高いところから低いところへと移動していくので、アメーバ細胞の密度が高いところから低いところへと波が伝わっていきます。

アメーバ細胞は、cAMPの波の上流へと移動していく走化性という性質を持っているので、他のアメーバも、cAMPの渦を受け取って自分自身も発信しながら、アメーバ細胞の密度が高いところへ集まっていきます。アメーバ細胞の密度が高いところから渦が広がっていき、そこにアメーバ細胞が集まってくるので、さらに密度が高くなりという「密度の正のフィードバック」がかかり、バラバラに分散していた粘菌アメーバは集合するのです。

1997年にこの現象を発見したとき、私は、このメカニズムこそ、ムーブメントの本質だと思ったのです。

2013年に「反転授業の研究」を立ち上げたとき、粘菌を手本にしてオンラインコミュニティ運営を行いました。2016年までの3年間で5千人を巻き込んだ渦が回り、そのムーブメントを共にした仲間が、全国に散らばって、コロナ渦(うず)の中で、オンライン教育の渦を広げる重要な役割を果たしています。

コロナによって、私たちはオンラインで繋がり始めました。ウィルス感染を避けるために「三密を避けた」結果、コミュニケーションの密度が高まっているのです。

コミュニケーションの密度が閾値を超えたとき、最初は小さなグループからの発信が始まり、そこに共振した人たちが巻き込まれて渦が発生し、巻き込まれた人たちの活動によって渦が力強く回り始めます。

社会全体がオンライで繋がり続けるようになり、コミュニケーション密度が高まるアフターコロナの時代は、ムーブメントが頻繁に起こり続ける動的平衡の時代になるはずです。

ムーブメントを仕掛けて大衆操作をするのではなく、一人一人の意志から「私たちの社会」を作り上げていくために必要となるのが、デジタルファシリテーションです。

Zoom、SNS、note、など、様々なメディアをどのように組み合わせると、現在のコミュニケーション環境の中で渦が回りやすくなるのか?

渦が発生しやすくなる関わり方とは、どんなものなのか?

ムーブメントのプロセスが健全に進んでいくとは、どのようなことなのか?

このような問いを掲げながら、デジタルファシリテーション構想を立ち上げていきます。

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