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足摺七不思議~天狗の鼻〜ジオSaide〜お四国参りお遍路さんの紙芝居〜

ジオの視点:月を見失う旅

森の中、ふと立ち止まった俺たちの前に、ひとりの盲目の老人が立っていた。彼の声には静かな力があり、その一言一言がまるで時の底から響いてくるようだった。

「お前たちは、何を探してこの道を行く?」

何を探しているのか――それは俺自身にもわかりきっていた。「未来の答え」だ。人々を苦しみから救うため、啓示を頼りに進む。それが俺の役目であり、力の宿命だと信じていた。だから、迷いなくそう答えた。

隣でハウも自分の力の意味を探していると話したが、その言葉の奥に焦りを感じた。彼女は、自分の力が恐れられ、利用される存在であることに苦しんでいる。そんな彼女を、俺は助けるべきだと思っていた――いや、そう思い込もうとしていたのかもしれない。

すると老人は木の枝で空を指し示し、問いを投げかけた。

「お前たちは、今私が指しているものを見えるか?」

俺は即答した。「月だ」と。

ハウもまた、「月明かり」と答えたが、その目には戸惑いが浮かんでいた。そして、老人は静かに首を振った。

「違うな。私が指しているのは、この指そのものだ」

一瞬、言葉の意味がわからなかった。指が月を示している――それだけのことではないのか?

「だが、人はその指先だけを見て月だと思い込む。お前たちも、月を求めるあまりに、本当に見るべきものを見失ってはいないか?」

俺は、何かを突きつけられたような気がした。未来を求めるあまり、俺が見失っているもの……それは一体何だ?

ジオの視点:月の鏡

村に着いた俺たちは、「月の鏡」という聖物に出会った。それを覗き込んだ瞬間、未来が無数に枝分かれし、終わりのない道筋が目の前に広がった。どれが真実で、どれが幻なのか、俺の力をもってしても判別がつかなかった。

「未来は、どうしてこんなにも曖昧なのか……」

胸が締めつけられるようだった。自分の力を信じてここまで来たのに、それが何の役にも立たない。この鏡が示す未来は、ただ人々を惑わし、希望を奪うだけのものだ。

隣でハウが鏡を睨みつけた。そして、決意のこもった声で言った。

「こんなものに惑わされる必要はない!私が時を操作すれば、全て解決する!」

その瞬間、彼女は祈りを捧げた。そして、時間が歪む音がした。

村全体が凍りついたような静寂に包まれた。だが、同時にハウの体に異変が起こり始めた。肌が衰え、目の輝きが鈍くなっていく――彼女が時間を操るたびに、その代償が彼女自身に降りかかっているのだ。

「ハウ……やめろ!」

俺の声も届かない。彼女は必死だった。自分の力で未来をねじ伏せることで、意味を見出そうとしている。だが、それが間違いだということは明らかだった。

ジオの視点:誠に帰る道

そのとき、再びあの老人の声が響いた。

「未来も過去も、すべては縁と理の中にある。大切なのは、その縁を紡ぐ『誠』だ」

ハウも、俺も、その言葉に動きを止めた。

「誠……?」

俺は考えた。未来を覗き込み、そこに答えを見出そうとしてきた自分。その行為こそが、道を見失わせていたのではないか。大切なのは、未来をどうするかではなく、今この瞬間をどう生きるか――誠実に行動することなのだと。

俺はハウに手を伸ばし、静かに言った。

「ハウ、もう大丈夫だ。この鏡が示す未来なんて、僕たちには必要ない。君も、鏡も、間違ってなんかいない。ただ僕たちが、今を見失っていただけなんだ。」

彼女は震える手で俺の手を掴み、うなずいた。祈りが収まり、村に平穏が戻るのを感じた。

ジオの視点:道を見極める旅

旅を続けながら、俺はあの老人の言葉を何度も思い返した。

「月そのものではなく、それを指し示す道を見極めろ」

未来を変えるために力を使うのではなく、未来に向けて誠実に歩む。それが俺たちの役目なのだ。

「ジオ、これからどうするの?」

ハウが静かに問いかけた。

「まだわからない。でも、たぶん僕たちはもう、鏡も月も必要ない。ただ、今をちゃんと生きていれば、いつか本当の答えが見つかるはずだ。」

ハウは笑ってうなずいた。その笑顔を見て、俺は確信した。

道を見失わなければ、俺たちはきっと未来をつくれる――その指し示す先に「本当の月」があることを信じて。

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