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足摺七不思議~天狗の鼻〜ジオとハウ〜お四国参りお遍路さんの紙芝居~
月の指し示すもの
遥か彼方にある、時の流れが人の手で変えられることが常識とされる異世界。その世界の片隅に「機輪の国」と呼ばれる小さな王国があった。この国では、星々や月の動きが人々の生活に影響を与えるとされ、特に月は「未来の道標」として崇められていた。月の動きに応じた占い師たちが、王や庶民に未来を告げる日々が続いていた。
しかし、そんな「機輪の国」でも特異な力を持つ者たちがいた。その中の二人が、ジオとハウだった。
ジオは、生まれながらにして「時」の本質を見る力を持っていた。彼は過去の出来事を知り、現在の裏に隠された真実を見抜き、さらに未来の行く末を垣間見ることができた。しかし、すべてを知るということは、未来を変えようとする重荷でもあった。
一方、ハウは神に祈ることで、自身や他人の「肉体的な時間」を操ることができた。若さを与え、老いを退け、あるいは瞬間を凍結させる力。その力は彼女を村の巫女として人々に敬われる存在にしたが、同時に「時間を弄ぶ者」として恐れられてもいた。
二人はそれぞれの力の宿命に悩みながらも、共に旅をしていた。ジオが未来の啓示を読み取り、ハウがその啓示に基づき行動を支える。そうやって幾多の村や国を救ってきた彼らだったが、その旅の途中で出会った「指月の寓話」が、二人の心に大きな変化をもたらすことになる。
月を見失う旅
ある晩、彼らは森の中で一人の盲目の老人に出会った。老人は一見すると普通の木こりに見えたが、どこか不思議な気配をまとっていた。
「お前たちは、何を探してこの道を行く?」老人が問うた。
ジオは未来の啓示に基づき、人々の助けとなる答えを探していると答え、ハウは自分の力をどう使えば正しいのか、その意味を見つけたいと答えた。
すると老人は、木の枝で空を指しながら言った。
「お前たちは、今私が指しているものを見えるか?」
ジオは即座に答えた。「月です」
ハウも答えた。「その指先にある月明かりです」
しかし老人は首を振った。「違うな。私が指しているのは、この指そのものだ」
二人は困惑した。
「だが、人はその指先だけを見て月だと思い込む。お前たちも、月を求めるあまりに、本当に見るべきものを見失ってはいないか?」
老人の言葉は二人の心に深く刺さった。
未来への囚われと過去の束縛
その後、彼らは小さな村に辿り着いた。その村では、未来を占う「月の鏡」と呼ばれる聖物が信仰されていた。村人たちはその鏡を使い、災害や争いを避けるための未来を読み取ろうとしていた。
しかしジオがその鏡を覗くと、そこには無限に分岐した未来が映し出されていた。どれが真実で、どれが幻なのか区別がつかない。ジオは頭を抱えた。
「未来は、どうしてこんなにも曖昧なのか……」
その様子を見たハウは、鏡を砕こうとした。
「こんなものに惑わされる必要はない!私が時を操作すれば、全て解決する!」
だが、ハウが祈りを捧げると、時間は暴走し、村全体が凍りつくような静寂に包まれた。時間を止めた代償として、ハウの体には刻一刻と老いが刻まれ始めたのだ。
「誠」に帰る道
暴走する時の流れの中、再び盲目の老人の声が響いた。
「未来も過去も、すべては縁と理の中にある。大切なのは、その縁を紡ぐ『誠』だ」
ジオは啓示を得た。鏡に映る未来を操作するのではなく、今この瞬間に誠実に生きることこそが、未来を正しい形に導く唯一の方法なのだと。
ハウもまた、自分の力が時間そのものを変えるのではなく、人々の心の中にある「誠」を引き出すためにあると悟った。
ジオが村人たちに語りかけ、ハウが祈りを捧げると、鏡の未来は次第に消え、村の時間が正常に戻った。
月ではなく道を指し示す指
二人は旅を続ける中で、老人の言葉を繰り返し思い出した。
「大切なのは、月そのものではなく、それを指し示す道を見極めることだ」
ジオは、自分の啓示が人々を支配する道具ではなく、ただの「導き」であることを学んだ。ハウもまた、時間を操る力ではなく、その力をどう使うかが大切だと知った。
こうして二人は、見えない「月」を求めるのではなく、それを指し示す「誠」の道を歩み続けた。
そして、その道の先には、かつて老人が語った「本当の月」が輝いているのだろうと信じながら。
この寓話は、知識や力に囚われることの危険性を説き、人間が誠実に行動することの大切さを語っています。それは、ジオとハウが時と縁に向き合いながら学んだ成長の物語でもあります。