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ものさしの外に触れた旅

2週間前のこと。友人を訪ねて、山形県酒田市へ旅行にいってきた。

2日間の滞在でいろいろと感情が動かされるできごとがあったので旅行記を書いておきたい。

庄内空港へ向かう機内からの写真

羽田から朝一の庄内空港行きの便に乗り、約50分。宮城出身の自分は東北へ飛行機で旅行にいくという感覚がなかったので、新幹線の行先山形でも秋田寄りの地域になると飛行機という選択もあるのかと新鮮だった。

ちなみに4月はどうにも仕事が慌ただしく、前日も仕事を終えたのが22時前。本当に山形へ行けるのかと不安を抱えながら平日を乗り切った。この忙しさから解放されたい、と祈るように始発の京急に乗り羽田へ向かった。

宮城出身の自分はこれまで隣県である山形に何度も行ったことがあるものの、日本海に面した庄内にいくのは今回がはじめて。自然が豊か、最上川の河口というくらいのイメージだった。

庄内空港に着き、1日目の午前中から良い意味でイメージを覆されることとなる。まず友人たちに連れられて、見たのが、寺に祀られている『即身仏』。

前日LINEでなかなか見ることができないものを見られるからと連絡が来たときは、寺に祀られている何かの像なのかと思っていた。しかし実際に寺の方の説明を聞くと「400〜200年前ほどの僧侶が、1,000日に渡る木食修行ののち土の中へ入りミイラ化したものを周囲の弟子などが引き上げたもの」が今日まで現存しているのだという。

飢饉や病の苦しみや悩みを代行して救うために修行に挑み、自らの体を捧げて仏となられた方を即身仏といいます。即身仏への修行を途中で投げ出すことは許されず、修行に耐え抜いた者のみが即身仏になることができました。

山形県観光公式サイト

上記の山形県観光公式サイトには「近年では村上春樹の『騎士団長殺し』などの小説にも掲載」されたと記されている。

もちろん、現代の感覚から見ればそれは自死行為や安楽死であり、周囲の弟子が行う行為も自殺幇助となる。明治時代以降は法律ができたことにより、そのようなことはできなくなっている。実際海外からツアーで来た観光客から「自死ではないか」と糾弾されたこともあるのだとその寺の方はおっしゃっていた。

1,000日つづける厳しい修行といえば、険しい山道を1,000日間歩き続ける「大峯千日回峰行」を聞いたことはあるが、酒田で目の前にした即身仏はその修行の価値観をはるかに超えるもの。

直接的に表現すれば、修行の先にあるのは自らの死をもって仏となることである。現代に生きる自分の感覚から見れば、それはあまりに厳しく、常軌を逸しているとも言える。説明を受けた寺で見学した2体の即身仏と対峙して、いったいどのような世の中だったのかと想いを馳せた。

いや、想いを馳せたというより、混沌とした感情に包まれたというほうが正しいかもしれない。

そもそも即身仏が山形県内で多いのは、江戸時代に庄内地方で起こった飢饉や疫病で苦しむ人々を救いたいというところから起こっているのだという。

さらに、酒田は元来港町で関西や北陸方面の地域との交易で栄えた街。見学をさせてもらった寺の近くには遊郭だった場所もあり、そこで働くひとびとも寺へ足を運んだのかもしれないという。

生きることによる性への情動(エロス)が蠢く場と、タナトスと言ってはお門違いかもしれないが自ら死へ近づくことをもって修行してこの世の救いをもとめる場が隣り合わせとなっている。それは表裏一体であり、多様なものが受け入れられる場ともいえる。

説明を聞いていくと「南無阿弥陀仏」を唱えれば救われると考える浄土宗(細かいところはわかりませんが)とは異なり、そもそもこの世自体が苦しい場なのだと考えられていたのだとか。

現代を生きる人間である自分が死をもってそのようになりたいとは考えたこともなかったが、ある種、人間の業の深さ(もちろん自然災害もあるので業とまとめるのは雑であるが)というものを受け入れることは非常に苦しい修行なのかもしれない。

自分たちだって、目の前にはさまざまな苦しみが山積している。SNSの言論空間自体が非常に息苦しいし、政治や経済のニュースを見ていても不安がますばかり。自分の人生どうしたらいいのかと迷うことなど毎日だ。

悩みが晴れてすべて解決されるなどということはないが、400年前に自分の価値観の物差しでは測れない修行をした先人がいるのだと思うと、どの時代もそのときどきの苦しみというものが存在するのだと気付かされる。

即身仏と対峙することによって想いを馳せ、山と海に囲まれた庄内の自然や食を楽しんだ2日間だった。

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