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夢見モグラは空を待ち侘びて 18日目

モグラの目の前で涙していた生き物は、
その洪水のような涙を交互に細い指で堰き止めると、
ゆっくりと立ち上がり、ゴソゴソとポケットから何かを取り出し、
小さくて四角くて薄いものを大事そうに手渡した。
食べるには少し硬いし、
引っ張っても伸びないし、
いい匂いもしなかったので、
モグラはちっとも嬉しくなかった。

「私こう言うものです。もし良かったら何かお礼をさせてください。」
そう言い残してその生き物は急いで走り去っていった。
モグラは自分の根城に持ち帰り、もうしばらく考えてみたけれど、
その”メイシ"とやらの使い方はいまいちよくわからなかった。

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名刺の話。

初めてライブ終わりの楽屋で名刺を渡された時、
密かに興奮したのを覚えている。
当時まだ学生だった自分にとって名刺は”大人”や”社会”の象徴であったし、
自分のやっていることが”仕事”として評価されたことは素直に嬉しかった。
ちょっとニヤニヤもした。
天井の光に透かして、
なんの変哲もない紙切れが宝物のように見えた瞬間でもあった。
同時に騙されないぞ、と警戒もしたけれど。

いまだに受け取り方の作法もいまいち正確ではないだろうし、
家に持ち帰った後の処遇もここ、と落ち着く場所が定まらない始末。

それから数年が経って、
ミュージシャンにとって名刺の代わりは常に自身のCDなのである。
なんだかんだカバンに一枚その時々の最新作を持ち歩いていて、
挨拶をする機会があれば、こう言う者です、相手に渡した。
アーティスト同士であれば交換することもあった。
そのやりとりは、なんかちょっといいな、と思っていた。
(サッカーで言うユニフォーム交換のニュアンスが近いね。)
どんな自己紹介をするよりその方が早いし、その方が正確でもある。
ジャケットのデザインひとつ見れば、
なんとなくその人の嗜好性や性格なんてものも透けて見えてくるものなので。
(いつもCDを手に取ってお金を払って買ってくれるみんな、ありがとうね。)

そして、時は巡って、スマホ、配信全盛期、
なかなか家に置くものを減らしたいと言う気持ちはわかる、大いに賛同。
相手方に荷物を増やすのも迷惑か?という配慮もある。
結果、見事にくるりと一周回って?
今はマネージャーが作ってくれたQRコードの書いてある名刺サイズの紙を持ち歩いている。
お前それ、名刺やんけ。
それではまた、明日。

本日の表紙はamilk0720さんの画像を使用させていただております。

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余談の余談

なかなか続く緊急事態宣言の日々(本当に一ヶ月で終わるのかこれ)。
なんとなくエンディングは決めているのですが、
その道すがら書きたいことや書くべきことが枯渇する前に、
お題をひっそりと募集させてください。次回以降のコメント欄に、〇〇の話、とか、書いてくれるとわかりやすくて好きです。(見る人が互いに不快にならないような最低限のモラルはある感じでしくよろです。)
採用された方にはエアーで投げキッスを地球の片隅からお届けしておきます(どんだけ)。


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