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河林満「渇水」
河林満の「渇水」が6月に映画化されることになり、それにあわせて小説もようやく文庫化された。この文庫版に付した「解説」で佐久間文子はこう書いている。
「古風」と言われた河林の小説をいま読むと、今日的なテーマだと感じら
れることにおどろく。貧困が社会問題化し、見過ごせない段階まで来てい
ることも大きい。
はたして「渇水」という小説は「狂乱経済」のさなかに三十年後を予見していたがゆえに再発見に値すると見なされたのか。
あるいは、小説がある世相や思潮を映しているとする評価は小説に対する評価として適切なのか、そしてそもそも小説には、世相や思潮などといった「意味」が込められているのだろうか。
2023.5.29
<追記>
私は生前の河林満と二度ほど話したことがある。書きつづけることができる場所をまさに渇望し、同時にひどく焦燥に追い立てられている様子だった。
新しく雑誌を立ち上げてみたいという構想も話してくれたが、はっきりとした返答ができなかった記憶がある。しかし、「渇水」が芥川賞にふさわしい作品だという確信だけは、最初に「文學界」で読んだときも三十年以上たった現在も、まったく変わることがない。