「本のある暮らしーその10」中国短編文学賞について|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note
少年時代を過ごした団地の中の派出所に、大きなブルーシートで覆った「何か」があった。丸1日置かれていたように思うけれど、実際はほんの十分程度だったような気もする。
人は死ぬ瞬間に記憶の蓋がすべて開けられて、それまでの経験がひとつ残らず甦るという話もあるがそれを証明する術は私たちには永遠にない。でも、このブルーシートだけはリアルタイムで映像の記憶が随時再生される。
「第53回中国短編文学賞」(中国新聞社主催)の総評でもゆっくりと蘇ってきた。
~小説で扱う時にはどうか注意深く、死そのものから距離を置いて書いていただきたい~同賞選者である高樹のぶ子の言葉である。
ところで、この賞には数年前から「古本交差点文学部」という名称で挑戦してきた。と言っても部員4名が各自で応募するだけであるが、一つの作品を完成させることが割と高いハードルとなる。書くことに興味がある方は、一度は小説に挑戦するだろう。が、多くの方は書き上げられない。物語の始まりと終わりはほぼイメージしている。起承転結に沿ったストーリーも頭の中にしっかりある。小説に取り組み始めるハードルは案外低い。でも書きはじめると、あれ?もう終わってしまう、まだ原稿用紙5枚……。私も経験したけれどおそらくそのような感じだろう。だけど大抵そこから始まる。用事をこなしながら、仕事を続けながら、毎日数時間の執筆時間を懸命に捻出しながら頭の中にある物語を言葉にしていく。
この部活にいるメンバーは、もともと小説を書いてきた方々で、中にはすでに単行本を出している方もいるし、過去、中国短編文学賞の最終候補に残った方もおられるし、過去複数回最終候補に進んだ方もいる。他にも北日本文学賞で第3次通過したり、某文学賞佳作を獲ったりと、毎回誰かが何かの成果を残している。でも1位がない。賞の如何にかかわらず誰一人トップになったことがない。
とどのつまりそれだけの作品しか生み出せていないということであるけれど、対応策はただ一つ、作品を書き続けることしかない。今回の総評なども参考にしながら書く時間を設けて、仕上げていくことがとても大切だ。そして各文学賞に応募する。この繰り返ししかない。テクニック的なものは確かにあるだろうし、当落の運もあるかもしれない。でも、世に出るべき作品と作家は必ずそうなるものだ、と信じたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?