「本のある暮らしーその8」新刊書店の流通
本を創るお金は主に、校正校閲を含む編集費、取材費、デザイン費、印刷ができるデータをつくる「組版」と呼ばれるDTP費、その他営業費などの雑費がある。仮にこれらをA郡としよう。一方、B郡には印刷費、製本費、輸送費などが含まれる。物にかかる金額は大抵の場合、扱う物量が多ければ多いほど価格が下がっていく。「スケールメリット」と呼ばれるが、出版物の場合B郡がそれに該当する。中で最もスケールメリットが顕著な例である印刷費などは、1000部の印刷代金と1500部の印刷代金は、特殊な印刷を除き大差はあまりない。よって1部当たりの単価でみれば部数が多ければ多いほど、下がっていく。一方A郡は、わかりやすく言えば、1部と10万部とでかかる金額に差は出ない。
特例を除いて新刊書店で扱う本は、出版社で制作された本が、取次と呼ばれる問屋を経由し、委託を受けて販売されている。
出版流通の考え方を分かりやすく言うと、新刊書籍の場合、出版社と取次は
「この度新刊を出しました。読者の目にとまらないことには売れるわけがないので、まずは多いかもしれないですが、店頭、できれば目立つ場所へ大きく陳列をお願いできませんか?売れ残れば引き取りますので」
こうして新刊タワーが出来上がる。また、定期発売の雑誌であれば、「発売から数日が勝負ですので、どうか目立つ場所へ置いてください。次号が出た段階で売れ残っていれば引き取りますから」となる。
これが、新刊書店と出版社、取次の考え方である。よって確実に売れるだろうという予測冊数より多めの本を創るようになってきたのは自然の成り行きである。同時に、店頭品切れによる販売機会損失を防ぐことと、先のスケールメリットの考え方が入ってくると、どうしても「返品ありき」「売れ残りありき」になる。ここは他業種の仕入れとは全く性質が異なる。むろん、食品のように見切り販売はないし、棚入れ替えの為の値引きもない。
これらを根底に考えれば本の値段についての答えはこうなる。
「売れれば売れるほど本の値段は高いと言えるし、その逆はとても安い」。
増刷を重ねる度に制作単価は低くなるわけなので、それに応じて本の定価を下げられるという理屈が成り立つが、それはできない。仮に、再販制度を度外視しても、じわじわ売れて来た本によってようやく出た利潤を下げていては、出版社も新刊書店も問屋も営利企業として全く成り立たないのである。
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