「本のある暮らしーその3」中国新聞セレクト「本のある暮らし」を追記修正しました。 よろしければお読みください。
ほぼ全ての本は編集者がついて編集されている。では本の編集とは何をするのか?もともとこの連載は「本のある暮らしがより興味深くなるようにわかりやすく書いてみませんか」というご依頼があり、ありがたくお受けした。幸いにも原稿執筆時現在では大きな手直しはないが、もしあればその指示やアドバイスもくる。新聞掲載時には写真やイラストなども入るだろうし、連載初回には私が何者なのかも紹介されたはずだ。これらも編集の仕事の一環である。
媒体の種類やその目的などにより違いはでてくるが、題材となり得る話題を見つけ、書き手を探すのが編集者の出発点となる。本分社を設立する前、多くの実用書を編集してきたが、著者には常に「一人の読者」を想定してくださいとお伝えしてきた。より多くの人に読んでもらいたいというのは人情だが、ともすれば誰の感情の琴線にも触れられない文章になることが多くある。
本の初版は近年では3000部~5000部の範囲が多く、想定したたった一人の読者の後ろにはこれぐらいの数がいるはずだからあまり心配ない。実用書の場合、端的に言えば「どこを掘り下げ、何をカットするのか」が鍵となる。
近年ネットで文章や動画など誰でも自らの創作物を世に出せるようになってきたが、ネットの場合基本的には文字数、ページ数制限がない。だからこそより一層編集者の視点が重要となる。読み手側は、本をより楽しんでもらいたいと編集されている作品と、ある方向へと誘導する恣意的なそれとの区別も意識したほうが読書を深く楽しめる。
本に限らず、編集されていないものは、自然以外この世にはほとんどない、と考えていたほうがいいであろう。おそらく多くの書き手は売れることを最大の目的にして作品を創っているわけではなく、伝えたいことを創造の世界で訴えかけてくる。そこへ最初の読者となる編集者の熱量が加わる。時には意見も食い違うが、著者は編集を伴走者として、また、編集は著者を表現者として互いに尊重しながら本を創っていく。
その過程で様々な人間がかかりながら本への愛着が深くなっていく。著者と編集者を中心に、校正校閲、営業、印刷所、書店員など全てが惑星の様に無軌道にぐるぐる回っているようでしっかり連結している。これらがまっすぐ並んだ時、より読まれる本が誕生する。そこになくてはならない惑星が読者なのだ。
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