見出し画像

「本のある暮らしーその5」委託制度と伴う返品問題。このシステムを念頭に置かずして、新刊書店の行く末を論ずることがあってはならない。

地方都市の地場新刊書店チェーン店、大手新刊書店チェーンのFC店などの店内の活気、空気、今しっかりと見ておかなければ損をすると思わせるような、明日来たらすっかり変わっているかもしれない緊張感のある店内。それが今、各地の新刊書店で始まってきているのではないか。
 
一方、新刊書店の未来に触れる時、避けてはならないことがある。出版制度の核の1つである委託販売、またそれに伴う返品問題である。このコラムでも折に触れてきたが、新刊書店を論ずる際の根底にこの二つを置いておかねば従来の型通りの話からは一歩も出られない。委託制度と伴う返品問題。このシステムを念頭に置かずして、新刊書店の行く末を論ずることがあってはならない。
 
その返品率が最近またよくない数字を出していると聞く。ともすれば4割前後が返品となる時もあるという。そこで、最近大手書店グループである蔦谷書店がこう発表した。「返品を2割未満に収める」。目新しさこそ全くないが、大手が声に出した意義は大きい。小売業として元来あるべき考え方である「売れる分だけ仕入れる」や「販売予測の上に立つ仕入」の概念がなかなか新刊書店には定着しにくい。委託品であること、値引できないこと、そして、売れる実数にある程度の数を加味して並べないと、売れるべき冊数も売れない、という点などがその理由である。
 
返品率を下げられるとかかわる業界全体の利益が向上するのは明らかである。ただし、売り上げを下げないでそれを実践するのはとても困難であるのも事実だ。具体的に考えてみる。返品率20%以内というのは、10冊仕入れて返品が2冊。しかし、現場書店担当者は例えば残数が3冊になった時に3~5冊追加で仕入れる。もっと売上を上げたいと考える書店員であるほどそうする。結果4冊残って返品した場合、仕入れ15冊返品4冊で返品率は26%となり目標は達成できない。返品3冊でちょうど2割の返品率となる。業界で見るともはや完売の感覚である。このように実現はかなり困難であるが、方法がないでもない。本を徹底的にデータ管理することである。しかしこれはどの新刊書店も同じ本を売り出していることを指す金太郎飴書店と揶揄されていた時代に戻ってしまう危険性が伴う。
 
では、どうすればいいのか?どのような希望があるのか?徳島県の老舗新刊書店を取材したので次回、ご紹介する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?