JA・市場は食料システムを支えるために作られた最も優れたインフラだ!
農林漁業分野で活動しているとよく「JAが悪い!」「市場はいらない!」という声を聞くことも少なくない。でも本当にそうなのだろうか?
今回は日本の歴史を振り返りながら「農協・市場」の存在意義について私見を述べたい。
農林漁業は歴史と切っても切り離せない関係
歴史から見ても日本において農林漁業は人々の生活と切っては切り離せない。特に稲作(米)は縄文時代に中国から伝わり、飛鳥時代に米を税として納め始めて以降、その制度は江戸時代まで続いた。稲作および米は日本人の主食としてはもちろん、年貢として納めるなど日本の社会システムに組み込まれていた。
明治維新後に日本の人口は爆発的に増加
でば次に日本の人口の推移を見てみる。鎌倉時代(1192年)757万人だった人口は室町時代(1338年)に818万人、江戸時代初期(1603年)1,227万人と増加を続けていた。そして、江戸時代の間に人口は約3倍に増えて、明治維新(1868年)時の3,330万人にまで増えた。
さらに、明治維新後から人口増加は加速度的に増加した。第二次世界大戦の終戦(1945年)に7,199万人と約2倍に増え、さらに戦後の復興から高度経済成長期を経て2004年12月には1億2,784万人まで増加した。鎌倉時代と比較すると約20倍、明治維新からでも約4倍に増加したのである。
※日本の人口は2008年1億2,808万人がピーク
JA・市場は日本人の胃袋を支えるために作られた
急激な人口増加に対して課題となったのが食料の供給である。1914年に第一次世界大戦が勃発したことにより物価の高騰と共に米の価格も高騰したことで庶民の生活がひっ迫した結果、1918年に富山湾沿岸一帯で米の県外移出禁止や米の安売りを求める運動「米騒動」が始まり全国に広がった。
米騒動を重く見た当時の政府は1923年に「中央卸売市場法」を制定し、東京には中央卸売市場を、全国に小売市場を開設し、その供給体制が現在にまで続いている 。第二次世界大戦後の1947年には農業協同組合法が制定され、「農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もって国民経済の発展に寄与すること」を目的として、全国で農業協同組合(JA)が設立された。
「質」よりも「量」が必要だった戦時・戦後
昭和時代に起こった戦争も食料システムに大きな影響を及ぼしている。特に、第二次世界大戦中の1942年に制定された「食糧管理法」によって、主食であった米や麦をはじめとした主要穀物が政府によって一元管理された。
また、国民には米穀配給通帳が配布され、食糧庁が生産者から米を買い入れ、消費者に配給するという仕組みが構築された。その結果、農家が生産した米はJAを通して集められ、生産者や産地関係なく「政府米」として消費者に配給することよって需給と供給の安定を図った。
JA・市場は昔も今もなくてはならない存在
これまで述べてきたように、明治維新から高度経済成長期の間、日本の農林漁業は日本人の胃袋を満たすためにひたすら量を作ることが求められ、その流通を支える手段としてJAや市場が必要不可欠であった。「JA・市場」を語る上では、まずその点をしっかりと認識しておいてほしい。
そして見逃してはならないのが、その仕組みは今でも日本の食を支えているということである。仮に今すぐJAや市場を廃止してしまった場合、現実的な話としてスーパーや八百屋に生鮮食品がならばなくなる。多くの小規模飲食店が食材を仕入れることができずにお店を開けなくなる。その結果、困るのは消費者に他ならない。
また、「JAや市場を省いた方が中間手数料が安くなる」と安易に考える人が多いが、実際に省いてみると送料の方が高くついてしまったというのはよくある話である。つまるところ、農林水産物を「集める・配る」という一点において、JA・市場が構築してきた流通網ほど修練された仕組みはないのである。
「黒」か「白」だけが選択肢ではない
このように書くと「仲野はどっちの味方なんだ!」「6次産業化や生産者の直接販売を支援してるのにJAや市場の見方をしている!」と言う人がでてくる。
実際、「農林漁業が衰退している」「生産者が儲からない」という話になると、必ずJAや市場を「悪者(黒)」にしたがる人が多い。
しかし、私の主張として最後にこれだけはに言っておきたい。
食のインフラを支えるためにはJAや市場は必要!
ただ急激な時代の変化に対応できていないのも事実!!
体制・流通構造を少しずつでも変えていくことが必要!!!
ゼロから新しい仕組みを構築するには時間もお金もかかるし、今から取り組み始めても間に合わない可能性が高い。それよりも農林水産物を「集める・配る」ために修練されたこのインフラを活用するためにJA・市場を巻き込んで「一緒に」変革していく方が早いのではなかろうか。
実際に、筆者が付き合っているJAや市場の仲卸には、「現在のままで生き残れない」という強い危機感を抱いてコロナ禍でもチャレンジし続けており、どうにか一緒に乗り越えていきたい。
綺麗ごとだと思われるかもしれない。しかし筆者は「黒」か「白」かという極論ありきではなく、現在の状況をきちんと分析したうえで、ステークホルダーを巻き込むことで「グレー」な解決策を目指していきたい。