フラッシュ 03
明日の食事会の店が決まり明石は参加者に電話で場所を伝えるために、席を外した。中央制御室を出たすぐの所で話していて、会話の内容が聞こえていた。今度女の子の前で波動関数や不確定性原理について語ったら殺すぞと冗談とも本気ともとれる語気で話していて、ユーハンは呆れて笑っていた。
明石の話に聞き耳を立てながら職業的習慣で光電子増倍管から伝わってきた情報を解析して、映像化させた素粒子の分布図を見ていた。いつもどおり、モニタは穏やかだった。頻度として非常に少ないが、太陽から降り注いだり、大気中のニュートリノを観測することがある。
現在の研究施設の主な成果はこの素粒子を解析することから得られている。明石が言うように飛んでくるかこないかわからない素粒子を、待ち続けることがこの仕事の大部分だ。ユーハンはマグカップのコーヒーが無くなったので給湯室へ立ちかけた。
そのとき視界のモニタに、一瞬だが違和感を覚えた。実際にその素粒子が検出される瞬間を経験していたら、もしかしたらこの違和感にすぐに反応できたかもしれない。しかし自然界からやってくるニュートリノが検出される瞬間に立ち会ったことがまだない。マグカップからモニタに視線を移し変化がなかったので、ユーハンはそのまま給湯室に向かった。
通販で購入している珈琲をひとり分立てているとき、やはり先ほどの違和感が気になった。ユーハンは珈琲メーカーからカップに液体が落ちている途中に、中央制御室に取って返した。
遠目から映るモニタは、明らかに普段とは違う光を放っていた。検知可能なほとんどの光電子増倍管が反応していて、モニタは真っ赤だ。こんな状態のモニタを見たことがない。一定以上の該当素粒子が検出されたと思われるときは、部門長、チームリーダーに召集をかける。
次いで部門長の了承を経て、世界中の提携研究機関、そして該当素粒子が放出されている場所に照準を合わせるために、各国の天文台に緊急連絡を入れなければならない。一定以上はとっくに突破していて、ホットコールはすでに各所に伝えられている。その一定以上のニュートリノが検出されるケースは、ひとつしかない。
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