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フラッシュ 11

巨星が爆発し、一時的に太陽がふたつになった。スーパー菊武三式は打ち合わせどおり、地球から六〇二光年離れた、通称ミニットマンが超新星爆発を起こしその影響が地球に届きつつあることを発表した。会見を見るまでも無く明け方はまだ金星ほどの大きさだったミニットマンは正午頃には満月並の大きさになり、眩しくすらあった。

テレビ各局は伝手のある天文学者のスケジュールを抑え、急拵えの特集を組んで超新星爆発のメカニズムを極彩色のCG映像を使って説明した。地球への影響は? というキャスターたちの質問に対して、専門家は未曾有の出来事で憶測でしか言えないが大事はないだろうという意見が大勢だった。

サイト上では人類滅亡の予兆として面白おかしく語られ始めていたが、イベント発生から時間が経っておらず、ハルマゲドンの教義を真骨頂とするカルト教団も、まだ情報収集が追いついておらず、破滅のシナリオを伝えられなかった。事はすべて光速でやってくるので、どんな準備も講ずることは不可能でナンセンスだった。

ラメルテ連邦が共同開発したガンマ線バースト観測衛星、『ツーシーム』は結果的に一部その役割を果たせたと言えるかもしれない。ミニットマンが断末魔的に放った激烈なガンマ線は、ツーシームが計測できる値を遥かに超えていて、ツーシームのガンマ線計測器が振り切れてしまっていた。

計測不能時間が約一三秒で、本来の役割を果たさないことで辛うじてガンマ線の照射時間だけは割り出すことができた。ラメルテ連邦のゴダード宇宙飛行センターの解析で魔の13秒が判明した。

そしてそのたった一三秒の間に、北半球の大半のオゾン層がガンマ線照射で電離し消滅した。地球の外層に届いた時点のガンマ線は一平方メートルあたり三〇キロジュールを超え、成人男性では一時間に三〇〇シーベルト以上被爆する線量に達していた。旧世に原爆が投下された爆心地の放射線量の約三倍の量だ。

この天文学的規模の災害は、フラッシュと呼ばれるようになった。悠久の宇宙の営みのなかで、無数にある星々のひとつが寿命を終え、文字どおり瞬いただけなのかもしれない。しかしフラッシュはその後の人類の有様を劇的に変えてしまった。

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