パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-132
8万円ほどの軍資金も底をつき、追い込まれた私がとった行動は、いくつかある選択肢のなかでも一番最悪なものです。自分が求めている未来から一番遠くなる場所へ一歩ずつ、その歩みを進めていました。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
塊
いつもの通りドアが開くと、欲望のノイズが体中を駆け巡っていきます。
たまらない瞬間でした。
さっきまで感じていた不安や苦しみが、あるはずのない未来を映し出してくれます。
おそらく、あっという間に過ぎる時間の向こうに、恍惚や安心、温もりが待っている気にさせてくれるのです。
しかし、それはいつも幻。
まっているのは、苦しみや恐怖。
そして後悔。
なんど繰り返しても、なんど後悔してもそれは変わりません。
時間の流れを感じなくなっていました。
気付いた時には、すでに閉店前にかかる曲が流れ、周りを見渡すと客は数えるほどしか残っていません。
駐車場を無心のまま歩きます。
ドアを閉め、エンジンキーを回した後に無意識に財布を確認しました。
入っているお金を見ると千円札が2枚と小銭少々。
全てが終わった気がします。
ここまで来ると、恐怖も苦しみも頭に浮かんできませんでした。
頭に浮かんだのは
「もう、パチンコもパチスロもやめよう・・・」
本当は大きなうねりとなって、様々なことが押し寄せて来ていました。
ミィのカードの返済。
数日後に待っている闇金の返済。
自身の消費者金融の返済。
携帯電話や駐車場の支払い。
そして、最後の砦ともいえるバイトは無断欠勤しています。
ここ数日、ウソをついて休んでいましたが、さすがに気が引けてきて電話できませんでした。
おそらくクビになるでしょう。
携帯電話の着信履歴を見ると3度ほどバイト先からの電話がはいっています。
私はすぐに罪悪感が押し寄せてくるのを感じました。
しかし、それは他の恐怖や苦しみと一緒にどこかに流れていきます。
もう終わり・・・。
はっきりと”終了”の2文字を感じます。
このまま時間が止まればいいのにと思いました。
だれかが言っていました。
唯一平等なのは「時間」だけである。
ぼんやりとその言葉が響き、なんともいえない気持ちになりました。
本来バイトが終わる時間より、少し早い時間に家につきます。
おそらくミィは寝ているでしょう。
少し位、早くても問題ない気がしました。
家に着くと案の定、彼女は深い眠りの中です。
おそらく私が帰ってきたことにも気付いていません。
シャワーを浴びた後に、ベッドに入ると仰向けだった彼女が寝返りをうち、背を向けました。
まぶたを閉じると遠くに不気味な感覚が近づいてくるのがわかりました。
もう、解決策はありません。
全てを受け入れるしかないのです。
今までもどうしようもないピンチはありましたが、頭のどこかでうっすらと「助かるかもしれない」という淡い期待はありました。
それに何としてでも、「助かろう」という気持ちがどこかにあったのです。
だけど今回はありません。
もう、ほんとに終わりの気持ちでした。
翌朝、目を覚ますといつもの通り、ミィがキッチンに立っています。
その姿を見た時になぜか涙が頬をつたいます。
感情と裏腹の現象に少し戸惑いながら、ベッドから出ました。
「まさくん・・・。おはよう・・・・」
「あ、うん、おはよう・・・」
「寝起きですぐに悪いけどカードの明細・・・」
「あ、ごめん・・・。じつは昨日も支払い出来てないんだ。今日中なら間に合うから、必ずするよ・・・」
「本当に!?。大丈夫なの?まさくん・・・?私が昼休みに支払いしてくるからお金とカードちょうだいよ。」
「何だよっ!?疑ってんのかよっ!!」
つい、大声で怒鳴ってしまいます。
「な、なによ・・・そんなつもりじゃないじゃない・・・」
「・・・」
もしかして、気付かれているのかもしれない・・・という気持ちになり、それを隠すために怒鳴ってしまいました。
そんな私を彼女は悲しい目をして見つめます。
悲しいけれど力強い視線に私は耐えられなくなりました。
「わたし、今日電車でいくから・・・」
「・・・」
そういうと彼女は着替えを済ませ、そそくさと部屋をでます。
自分の中に孤独の感情がはっきりと生まれてくるのを感じました。
2度と味わいたくなかった、車上生活で感じた孤独です。
気がつくと体中全てが恐怖と苦しみに包まれています。
そうすると私の中にいる細胞全てが、”抵抗”をはじめました。
「なんとかしてやるっ!!」
この苦しみと恐怖から抜け出すために思考を張り巡らせます。
そして、出した答えは・・・。
幻の希望に包まれた絶望の塊でした。
132話終了です。
あと、もう少し続きます。