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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-139

自分の思いとは反対のもう、後戻りできない場所にたどり着いてしまいました。どんなにもがいてもあの頃にはもどれません。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

不安と予感

少しベタ付くシャツを不快に思いながら、営業の準備をしています。

昨日と同じシャツやシャワーを浴びていない体の臭いに気付かれているような気がしてとても窮屈な気持ちです。

ほとんどの社員は私を気になどしていませんが、自意識過剰な思いが私をさらに不快にさせました。

一番最初に準備を終わらせ、急いで営業に出かけます。

駐車場までの距離を歩いていると久しぶりに車で寝たこともあり、首や腰などが傷みさらに気持ちを落ち込ませます。

営業を回りながら昨日の出来事がグルグルと頭の中を駆け巡りました。

その場は気付きませんでしたが、いつもとは違うミィの鬼気迫る様子を思い出すたびに私を不安に追い詰めていきます。

その不安をかき消すために根拠のない想像を張り巡らせました。

「きっと許してくれるだろう・・・」

今までもたくさんのケンカをしてきました。

ケンカの原因は日常の些細なこと・・・。

彼女の不満や不安が頂点に達した時その時が訪れ、ヒステリックになった彼女の話をじっくり聞くことで収まります。

女性の心理は男性には理解できないものだと直感的に感じていた私は、そうなった時には時間と共感が唯一の方法だと思っていました。

事実今までケンカをした時は、一旦あやまってじっくりと彼女の話を聞き体を合わせればそれで仲直りです。

今回もきっとそう・・・。

一日経てば彼女も落ち着くでしょう。

確かに今回ばかりは、全面的に私に非があります。

これまでのケンカとは違い大きなことですが、ゆっくりと時間をかければまた今までと同じ日々が過ごせるはずです。

今までとは違う大きな予感めいた不安と胸騒ぎが気になりましたが、「大丈夫」と自分に言い聞かせ、何とか自分を保っていました。

昼になりいつもの通りコンビニに立ち寄ります。

財布に入っている小銭を数えると936円。

とりあえずおにぎりと菓子パンをレジに出し、会計を済ますと車に乗り込みました。

フロントガラスを見つめながら、おにぎりと菓子パンを頬張るとまた恐怖と不安に飲み込まれそうになります。

小さな雪の結晶がフロントガラスに落ちると一瞬でそれが溶け、水滴に変わり視界をふさぐ範囲が広くなるのに比例して不安が大きくなりました。

私は急に怖さが頂点に達して、いてもたってもいられなくなります。

無意識に携帯電話を開きミィにメールを打ちます。

「昨日は本当にすまない。反省している。今考えていることきちんと話がしたいんだ」

いつもならすぐに返信があるはずですが、何も反応がありません。

きっと仕事が忙しくまだ昼休憩に入れていないだろうと考えますが、さらに私の不安は大きくなりました。

想像は”不安や恐怖”をさらに増幅させます。

体中の力が抜けていきました。

「わからない」という状態は冷静な判断力を奪い思考を鈍らせます。

さっきまで気楽に考えていた今回のことが、もう自分では修復できない重大なことのように感じました。

5分おきに携帯電話を確認しながら時間をやり過ごします。

13時になり営業を開始した後も訪問しながら携帯電話が気になり、隙さえあれば確認していました。

結局、返信は・・・。

来ません。

あらためてメールを打ちます。

「忙しいところすまないが、せめて返信ぐらいほしい」

「無視しているのか?返信ほしい」

「すぐに許してもらえるとは思っていないから。だけど話がしたいんだ。わかってほしい」

しかし返信はありませんでした。

大きくなる不安や恐怖と何とか折り合いをつけながら急いで仕事を終わらせます。

車に乗り込んだ後、電話してみました。

”プーップーッ・・・”

「あれっ?話中・・・」

30秒おきに何度も電話します。

しかし、受話器から聞こえてくるのはプーップーッという音だけです。

「もしかして・・・着信拒否・・・」

胸の奥からザワザワとする予感に全身が包み込まれます。

急いでミィの職場があるビル前に車を走らせました。

こうなったら出てきたところをつかまえるしかありません。

ビルの出口から人が出るたびに確認します。

だけど彼女は現れませんでした。

もしかすると、待っていることを見越して裏口から出たのかもしれません。

時計を見ると20時を指しています。

私は無意識に部屋に向かって車を走らせました。

ネガティブな感情が体中を駆け巡り、気力を奪っていきます。

駐車場に着くと止める場所にある番号の書かれた札に張り紙があることに気付きます。

”安陪様 ご連絡下さい。”

今月はまだ駐車場代も払っていないのです。

支払いの催促のためのものでしょう。

しかし、気にしている場合ではありませんでした。

とにかくミィと話しをして、この恐怖と不安をどうにかしたい気持ちでいっぱいです。

張り紙を無造作に剥ぎ取り、鞄にいれるとすぐに部屋に向かって歩き出します。

アパートの外観が見え部屋の窓に明かりが点いていないことに気付くと、不安な気持ちがマックスになりました。

部屋に近づくにつれ恐怖が全身を支配します。

そしてその恐怖は得体のしれない”嫌な予感”に姿を変えましたが、一歩ずつ進む歩みを止めることはできません。

階段を一段ずつ登るたびに頭の中が真っ白になりました。

そして気付かずにいた象徴めいた救いの影が、いつの間にか消えたことを感じます。

部屋の前に着き、目の前に広がる光景を見た時、全てが終わったことを悟りました。


139話終了です。


あと、もう少しで終わります。

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