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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-142

もがけばもがくほど悪い状況になっていきます。とっくにこの状態を抜け出すことは不可能でした。根拠のない希望は全て幻で、その向こうには想像もできない地獄が潜んでいたのです。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。

たどり着いた場所

今までとは違い、少し近代的なビルの一室にある闇金。

そのためか少しだけ、得体のしれない恐怖は曖昧になっています。

出てきた男は、これまでと同じように”見るから”というような風貌でしたが今までのように怖さを感じませんでした。

お金を貸してくれるまでの流れも、他の闇金とさして変わりありません。

住所や名前、勤務先などを申込書に書いた後、それを手に持って一度、男が奥に向かう時、少しだけ緊張感がうずいてきます。

それは恐怖を感じたのではなくお金を「借りる」ことができるか?ということを不安に思うからでした。

男がパーテーションの奥に消えてからの時間は5分くらいでしたが、その時間は20分にも30分にも感じるのです。

そして、戻ってきた男の手に1万円札が見えた時、体中に安心感が巡ります。

空腹を満たすことができるのです。

この後、すぐに迫る支払いの苦しみなど、少しも考えることはありませんでした。

1万円札が3枚・・・。

この重さを感じることができません。

いままで何度も苦しみ、自分を締め付けて重くのしかかってきたお金の価値は借金する時は感じることが出来なくなるのです。

「じゃぁ、10日後」

低く野太い声で男がそう告げます。

私は、会釈だけして3万円をスーツのポケットにしまいこみ闇金の事務所を後にしました。

車に乗り込み軽く深呼吸をすると、自分の中には苦しみや恐怖などない気がしてきます。

お金の魔力。

たとえそれがどのような手段で手に入れたにせよ、現金には全てのネガティブを打ち消す力がありました。

しかし、その手段が自分にとって正当なものではなければないほど、何倍にもなったネガティブの塊となって自分に返ってくるのです。

私は何度もそれを経験してきましたが、”現金の魔力”に飲み込まれるだけです。

何かを満たすその劇薬を止めることができません。

車を走らせいつもの牛丼屋に駆け込みます。

まだ11時前ということもあり、店内はそれほど混雑していませんでした。

すぐに運ばれてきた牛丼をかきこみ会計を済ますと店を出ます。

車を走らせると、苦しみや恐怖など何もない気がしていました。

闇金を初めて借りた時に感じた、背筋に冷たいものが走るような気持ち悪さは、感じなくなっています。

私の思考や正常な感覚はこの頃、麻痺していました。

だけど、この感覚は幻だということも麻痺していることも気づくことはできません。

現金の魔力で久しぶりに仕事に集中していました。

ミィに家を追い出されたことも、闇金の支払いが目前に迫っていることも、自分の支払いが全く出来ないことも全て忘れています。

営業先で応対してくれた担当者とじっくり話をしました。

この頃、これまでアナログで業務を行っていた中小の企業でも、急速にデジタル化が進んでいたこともあり、担当者の悩みは多くあります。

その悩みを一つひとつじっくりと吸い上げ、最適なサービスを提案する。

これがビタッとはまった時はなんとも言えない気持ちよさがありました。

そして担当者の言葉を聞きながら、その気持ちよさを想像しながら相槌を打ち、いくつかの提案をすることが心地よくもあります。

その会社を出て、車に戻るとさらにワクワクしてきました。

今月は久しぶりに良い成績が残せるかもしれないという予感が、テンションを上げるのです。

私は、良い気分でした。

「よしっ!この調子でこの後も、営業していけば、まだ手ごたえある会社があるかも」

だけど、偽物のポジティブは、現実の前にもろくも崩れ去ります。

次の営業先に向かおうとした瞬間、携帯電話が激しく震えました。

気分の良かった私は、表示されている番号を確認せずに電話に出てしまいます。

「はい、もしもしっ!あべでーす!!」

次の瞬間、私は一気に現実に引き戻されました。

「おいゴルァ!なんで電話よこさネェんだっ!!」

「ハ、はい・・・す、すいません!」

明日、闇金の支払い日だということがすっかり頭から抜けていました。

男の怒号が耳に届いた瞬間から、これまでの気分が全て吹き飛び、一瞬のうちに全身が苦しみと恐怖に支配されます。

「オマエ、前日に電話よこせっていってるだろっ!!」

「は、はいっ、すいません・・・」

「で、明日は何時に来るんだ!」

「い、いや・・・ご、午前中にいけると思います」

「おう、わかった。約束守れよゴラっ!」

「はいっ!」

幸い財布には2万9千円が入っています。

ジャンプするなら1万5千円。

何とかなりそうです・・・。

しかしその瞬間、新たな恐怖に気付きます。

「ヤバイ・・・明日ジャンプできたとしても、次の日は5万借りたのが2社だからジャンプなら5万必要・・・」

危機感が針のように鋭く尖り全身の内側からざわめきだします。

私は、パニックになりました。

どう考えても詰んでいるのです。

先ほどまでの気分の良さは微塵も残っていませんでした。

その後の記憶はありません。

無意識に営業をこなし、無意識に終了業務を終え、タイムカードを押し駐車場に向かいます。

だけど恐怖感は相変わらず鋭利な先がある針のようになり、全身で内側からつついています。

この針にさされた痛みはすぐに苦しみに姿を変え、さらに全身を駆け巡りました。

私は早く苦しみを何とかしたい気持ちでいっぱいです。

ただ”逃れたい”。

それだけの気持ちでいっぱいになります。

しかし、逃れる術はもう残っていないのです。


一瞬、ミィの声が聞こえた気がします。

「まさくん・・・」

だけど、私はその声を無視しました。

もう、まともな感情などありません。

ただ、アクセルを踏み引き寄せられるように車を走らせます。

意識が朦朧としながらたどり着いた場所は、ネオンが光るノイズがうごめくいつもの場所でした。


142話終了です。


もうすぐ、終わります。

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