パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-131
闇金以外の支払いを全てせずに、出た勝負。8万円という普段ではありえないほどの軍資金は、気付いた時には数千円でした。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
アイデンティティ
真っ白な雪道とは裏腹に、私の体は真っ黒な闇に支配されていました。
「支払いどうしよ・・・」
「携帯とまっちゃう・・・」
「ミィのカードの支払い、明日までだ・・・」
頭の中は、出来ていない支払いでいっぱいになり、そしてその後の恐怖に支配されています。
「ミィに闇金のことバレたら・・・」
「増額した分、勝手に引き出したことがバレたら・・・」
漆黒の闇の奥から、小さな光の粒が現れ、過去の記憶がよみがえってきます。
流れの川下に立つ、存在に安心感を感じながら、やっとの思いで釣り上げたキラキラ光る、ニジマスを釣り上げた時に感じた快楽にも似た高揚感。
そして、”注目を浴びたい”とヨコシマな気持ちで手にしたギターをかき鳴らした時に感じた、全身を振るわせるようなパッション。
学生生活が終わり、少しずつ仲間と連絡を取らなくなり、硬くなった左手の指先が柔らかくなるころ、どこからともなく生まれた漠然とした不安と苦しみ。
それを埋めるために、自然とたどり着いたパチンコ・パチスロ。
そこからの全ては、私の気持ちを安心させるわけでもなくワクワクさせるでもなく。
少しずつ少しずつ輝きを失い、気がついた時にはどんなに磨いてもくすんでいきました。
いつもの通り、あまり意味のなさない準備をし、営業に出かけます。
席を立った時に視界に入る、佐々木さんの背中を見ながらドアを出口に向かいながら、なんともいえない疎外感を感じます。
彼女と重ねた熱い時間など、なかった気がしてきました。
佐々木さんは私の状況を知ったら、軽蔑するでしょう。
予感めいたものを感じながら峠を登り、たどり着いた夜景が広がる駐車場で重ねた唇も、体中を這わせた舌先も、最後にへそや乳房に感じた熱い液体も、なかったことにしたくなるに違いありません。
「オレノクルシミハ、ダレニモ、リカイサレナイ」
そんな思いが頭の先からつま先まで、染みていきました。
冷たいハンドルを握りながら車を走らせます。
最初にたどり着いたのは、一件目の営業先ではなく、コンビニの駐車場でした。
何も考えずにスポーツ新聞を手に取り、レジに向かいます。
車に戻るとすぐに開き、下部にある広告欄を片っ端から調べていきました。
支払いは全て残っています。
迫り来る”支払日”に押しつぶされそうになりながら、無心で闇金と思われる広告を探しました。
とにかく、早くこの苦しみから脱却したい気持ちが突き動かします。
気がつくと一件の闇金に電話をかけていました。
とにかく現金がなければいけません。
何をするにもお金が必要です。
財布に入っている数千円のお金では、安心感を手に入れることはできません。
闇金に電話する時、いつもなら震えている指先も、背中や脇に流れる冷や汗もありませんでした。
義務や本能に近い感覚が私を突き動かします。
そして、手にした3万円。
少しだけ、安心感を感じました。
現金の魔力。
とうてい思い通りにはならないであろう、幻の未来を映し出します。
支払いには足りていない、この金額も全て未来のためだと錯覚してしまいました。
いつものようにタイムカードを押して会社を出ると、なぜか心地よい緊張感が全身を包みました。
車を走らせ、たどり着いた場所は、ミィのカードを支払うATMではありません。
ネオンが光が照りつける広い駐車場がある、いつもの場所です。
いつもは顔をのぞかせる、プライドやアイデンティティは微塵もありませんでした。
131話終了です。
あと、もう少し続きます。