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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-102

闇金の苦しみから逃れた私は、新たな苦しみと出会います。

「失いたくない・・・」闇金がなくなれば、パチンコ・パチスロがなくなれば全て変わると思っていた私は、新たに生まれたその感情に戸惑ったのです。

そして、新たな闇金からの勧誘の電話・・・。

結局、私は逃れることはできません。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

大粒の雪が降りそそぎ、目の前の視界がほとんどありません。

そんな中、少しずつ駆け寄ってくるミィの影が見えました。

「まさくん、おつかれっ!すごいね!雪」

「ヤバイな、帰ったら駐車場、除雪しなきゃ・・・」

「うん、帰りも前見えないから気をつけてよ」

「オッケ。買い物とか寄っていかなくて大丈夫?」

「あ、うん。何か適当に作るわ。大丈夫よ」

何気ない日常。

数日前には考えられませんでした。

ミィと再会していなければ、このままパチンコ・パチスロに直行でしょう。

急な大雪ということもあり、車が混んでいて、いつもなら20分あれば到着するはずが、1時間も掛かって自宅に着きます。

案の定、駐車場も車を停めるには除雪が必要でした。

本当は、冬の季節を考えると屋根つきのガレージが理想ですが、しょうがありません。

「ミィ、先に戻っててよ。オレ除雪するから。」

「わかった。ご飯作っとくよ」

「サンキュ」

まだ、それほど気温が低くないため、少し湿った雪は重たく、意外と時間がかかりました。

春が訪れるまでの間、何度かこうしなければいけないことを考えると少し憂鬱になります。

とりあえず、車を停めるスペースを確保し、駐車してミィの待つ部屋に戻ります。

気がつくと30分以上、除雪作業をしていました。

「あ~・・・腰と腕、ヤバ・・・。こりゃ明日、筋肉痛だわ」

部屋に戻る頃には、雪は小降りになっていました。

このまま今晩、雪が降らなければ、明日の朝は除雪は必要ないかもしれません。

玄関に入り、魚の焼けた匂いを嗅ぐと、腰と腕に溜まった乳酸がスゥっとなくなっていく気がしました。

「まさくん。お帰り。今日はシャケ焼いた」

「お、マジっ!今日なんか魚、食いたかった。なんでわかった?」

「ホント?そんな気がした。すごいでしょ?お見通しよ」

「ウソ、言えよ。冷蔵庫にシャケしか残ってなかっただろ(笑)」

「バレたか!(笑)」

「ていうか、ミィおにぎり又、やったじゃん!」

「なは、ハハハっ、メンゴメンゴ(笑)」

「笑」

「笑」

何だか、不思議な気がしました。

こんな何気ない会話が、ずーっと続いていた気分になります。

パチンコ・パチスロで借金を抱え、闇金に追い込まれ、車上生活をしていた期間など、なかったような気持ちでした。

ミィと、ずーっと前から毎日過ごしていた気になったのです。

苦しかった過去などなかったようでした。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

「ねぇ、今日はシャワーじゃなくてお風呂にしようよ」

「だね。寒いし、除雪したから、腕と腰パンパンだから、お風呂のほうがいいね」

「じゃぁそうしよう。まさくん、お風呂掃除おねがい」

「お、おう・・・」

風呂掃除が終わり、湯船にお湯が溜まります。

「ミィ、お風呂OKだよ」

「まさくん、先に入る?」

「いや、ミィ、先でいいよ」

「はーい」

ミィが浴室から出ると同時に、私も服を脱ぎ始めます。

「ちょ、ちょぉ、まさくん見ないでよっ!」

「あ、うん、見てないよ」

「ウソっ!見たでしょ?」

「マジで見てないよぉ、ていうか、お尻隠して前、隠さないの何なんだよぉ。ワケわからん」

「お尻太ったから見られるのイヤなのっ!」

「あ~はいはい、見ませんよ」

「もぉ~っ絶対見てたよっ、太ったと思ったでしょ!」

「なんだよ・・・見てないってば。それに丁度いいじゃん。ミィ元からお尻に肉ないから、バックの時、痛かったんだよ。肉ついてたほうが痛くない」

「サイテ~、バカだっ」

風呂から上がると、彼女はすでに髪を乾かし終わり、テレビを見ながらまどろんでいました。

私は髪を乾かした後、時間は早かったですがすぐにベッドに入ります。

それを見た、彼女はなにも言わずにテレビと電気を消し、ベッドに潜り込んできました。

舌を絡ませ、きつく抱きしめ合うと、多幸感が全身を駆け巡ります。

と、同時に「失いたくない」という恐怖もさらに大きくなって私を締め付けました。

唇を乳房から、徐々に下半身に移すと大きく体をねじらせ、息遣いも激しくなります。

私は、生まれた恐怖心を掻き消すように激しく太ももの内側に舌を這わせました。

薄暗い、オレンジの豆電球に照らされた、ミィの真っ白な太ももは、ネコのタトゥーを避けるように気を使う必要がありません。

朝起きた時に、ミィの頭の下にある右腕がシビれて感覚がなくなっている感じが、愛おしくてたまりませんでした。

あの、海

いつも通りに、ミィを送った後、会社に向かいます。

事務所に入ると、剣崎課長が丁度、出社してきたところでした。

「あ、剣崎課長、おはようございます。」

「あ、おはよう。あべくん、今月はこのあと数字どうかね?」

私は、正直焦ってしまいました。

数字が上がる見込みのある取引先はひとつもありません。

「そ、そうですね。まだ、数字にはあがっていませんが、確実に2件は大丈夫です」

「そうか、頼むよ。頼りにしてるよ」

「はいっ!」

また、私はデキる男を演じていました。

2件も見込み客がいるなんてのは、真っ赤なウソです。

しかし、剣崎課長に見込みが全くないことを告げることはできませんでした。

それに、どんな状況であれ、集中さえできれば結果を残すことくらいできると思っています。

しかし、いくらなんでも甘すぎます。

まともな営業もせずに結果はついてこないでしょう。

気がつくと、今月も残り2週間を切っています。

しかし、根拠もなく自分は大丈夫だと信じていました。

月に一回の全体朝礼が終わり、営業の人間がいっせいに出かけます。

その流れにいながらも、根拠のない自信は続いていました。

いつもよりピッチを上げて取引先に訪問していきます。

相変わらず、結果が上がりそうなところが出てきません。

それどころか、上手く話がまとまりそうなところも取りこぼす始末でした。

「くそっ・・・・調子悪いな・・・」

昼近くになり、コンビニに立ち寄り、トイレを済ませ。お茶を持ってレジに並びます。

ミィが必ずおにぎりとタッパーに詰めたおかずを用意してくれるので、昼食の心配はしなくてよくなりました。

”わたしができることだったら、なんでもするよ!まさくん応援するから!”

十分すぎるほどの応援を感じます。

パチンコ・パチスロも行かずに、昼食の心配もほとんどないと考えると、今までよりはるかにお金を使わずに済むのです。

正直、雑誌のコーナーでパチンコ・パチスロ雑誌が少し気になりましたが、それよりもミィのおにぎりを食べたいと思いました。

「もう、パチンコ・パチスロはやめる」

何回も誓っては、破ってきたこの決意も今回ばかりは、上手く行く気がしました。

おにぎりと卵焼きとミートボールをあっという間に平らげた後、一息つきます。

午前中は調子がでませんでしたが、このペースで回れば、どこか引っかかるでしょう。

かなり厳しい状態ですが、必ず結果を残そうと思います。

せっかく地獄のそこから生還し、集中できる環境ができたのです。

頑張るしかありません。

午後からもいつもより、気合を入れて回ります。

しかし、焦っている気持ちがあるのも事実です。

当然のように相手にも伝わってしまうのでしょう。

それに、営業というのは不思議なもので、数字がほしければほしいほど、タイミングが悪くなります。

全く手ごたえを感じないまま、夕方になりました。

久しぶりに、意気消沈しながら会社へ戻ります。

席に着き、引き出しを開けると今日は、付箋のついた缶コーヒーはありません。

そのまま後処理をしている途中、出張の時に新規がとれなくて私に相談してきた”洋平”を思い出しました。

ラーメン屋で、相談してきた洋平に、えらそうに説教していた自分を思い出し、恥ずかしくなりました。

「洋平・・・元気にしているだろうか・・・」

洋平には一度連絡をしたことがありましたが、海外に赴任になったらしいのと電話番号が変わっていたこともあり、一度も連絡をとっていませんでした。

彼は、私の本質を見抜いていたのかもしれません。

結局、洋平とはこの先何年も、連絡を取ることはありませんでした。

終了業務が終わり、帰り際に佐々木さんの席に目をやります。

彼女はまだ、忙しそうに書類とパソコンに向き合っていました。

会社を出ると、そのままミィの会社に向かいます。

いつも待っている場所に着くとすでに彼女は待っていました。

「ごめん、ミィ。ずいぶん早いね。待った?」

「だいじょぶ、ダイジョブ、ちょうどビッタシ!」

「そっか」

「まさくん、どっかスーパーよって。おかず何もないのよ」

「オッケー」

「あ、でも今日まさくんバイトだね。今日の夜は簡単にするわ」

「あ、うん。ありがと。なんでもいいよ」

助手席でシートベルトが交差したミィの少し膨らんでいる胸元を見て、佐々木さんの乳房が頭をよぎりました。

シートベルトをした時に、さらに強調されて見えた佐々木さんの胸元を思い出し、二度と顔をうずめることができないと考えると、惜しくてたまらなくなったのです。

そして、また「失う恐怖」を感じます。

私は、なにも変わっていませんでした。

何日かの間、パチンコ・パチスロからはなれることができても、闇金の借金がなくなっても、暖かい部屋で眠ることができても、その時と同じくらいの苦しさや恐怖を感じます。

私が不遇なのは全て他人や状況や運のせいだと思い、それさえなくなれば全てが変わると思っていました。

しかし、私の中にある本質は何も変わっていなかったのです。

苦しみや辛さは形を変え、しっかりと私の中に残っています。

私は、ワケがわかりませんでした。

自分が思っていた「これさえなければ」「これさえあれば」がある程度、満たされているのに、辛く、苦しく、孤独を感じています。

もっと自分に目を向けると、まるで手ごたえのない毎日が襲ってきそうでテンションが下がってきました。

負けると全てが終わると感じながら、サンドに札を流し、コインを入れレバーを叩いたり、怯えながら闇金の借用書に拇印を押していた時の方が、苦しみの質は違いますが、確かに生きている実感がありました。

「ねぇ、まさくん。早く雪が溶けたらいいね」

「うん・・・」

「雪が溶けたらさ、あの海に行こうよ。約束したでしょ?」

次の年、雪がとけても、約束した海には行っていません。

ミィと初めて行ったその海に行ったのは、ずーっと先のことです。

そして、助手席に彼女は座っていませんでした。


102話終了です。

私はブログやTwitterで「禁パチに注力しすぎないで」とよく書きます。それはこの時の思いの強さもあるからです。

依存症の方が我慢してパチンコをやめることができても、本当の意味での幸せはやってきません。

それよりも大切なのは、「より良い自分でいるためには」「幸せな自分になろう」という意志と行動です。

「そのためには、パチンコ・パチスロは自分に必要ないから行かない」とならないと結局、苦しみからは逃れられないでしょう。


もう少し続きます。

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