パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-53
見込み客からの連絡で気分を良くし、絶望の中に希望を見出します。それは根拠のない希望でしたが、久しぶりの前向きな気持ちに気分が高揚していました。そんな私がとった行動は、バイトをして収入を増やそうと求人誌を開きました。そこで日給5千円で週払いしてくれるバイトを発見します。まずは現状打破に向けて光が見えた気がしますが、この後私はどうなってしまうのでしょうか。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
誤認
朝、営業の準備をし会社を出た後、そのまま公園に向かいました。まだ早い時間ということもあり、公園には誰もいません。
さっそく求人誌を開き、折り目の付いたページをめくると、携帯電話に登録したその電話番号に電話します。
「はい、○×クリーンサービスです」
「あの、求人誌を見て連絡しました。」
「あ、はい。それでは面接に来てほしいのですが」
「はい」
「今日は来れますか?」
「はい、昼くらいでしたらお伺いできます」
「わかりました。それでは12時50分で大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
「では、写真付きの履歴書を持参して来てください」
「はいわかりました。失礼します」
電話を切った後、さらに気分が上がりました。まだバイトをすることが決まっているわけでもないのに、すでにバイトで稼いで闇金を全て返済しているイメージをしていました。
パチンコ依存症である私の悪いクセです。先走って良い想像ばかりして、現実から目をそむける・・・。
追い詰められてパチンコを勝負する時も同じでした。何も根拠もなく勝ったことを考えて、そのお金で問題を解決しようとしそして負けて全てお金を使い果たし、その現実から目をそむける。
私は何もわかっていないですし、これだけ追い込まれていても何も変わっていませんでした。
続けざまに昨日連絡が来ていた見込み客のところに電話します。まずは中古車販売の会社です。
「○○コーポレーションのあべと申します。昨日、ご連絡いただいておりまして、ご連絡しました。山田様はいらっしゃいますでしょうか?」
「○○コーポレーションのあべ様ですね。少々お待ち下さい。」
少しノイズの混じった保留音が聞こえてきましたが、そのノイズさえ心地よく感じています。
「お電話かわりました。山田です。あべさん、わざわざ有難うございます」
「いえ、こちらこそ」
「それで、早速なんですが、先日、案内してくれた件、導入したいと思います」
「はい!!ありがとうございます!」
「それで、急なんですが、出来るだけ早く運用したいのですが、いつくらいから可能ですか?」
「かしこまりました。それでは早速ベンダーとも日程調整しまして、詳しい日程等は改めてご連絡させて頂きます」
「それでは、宜しくおねがいします」
「はい、失礼いたします!」
営業をやっていてこの上ない瞬間です。基本、地道な仕事で、辛いことの方が多いですが、獲得の時の気持ちよさはたまらないものがありました。
この勢いでもう一件の見込み客に連絡します。
「お電話ありがとうございます。アースデザインです」
「○○コーポレーションのあべと申します。昨日、ご連絡いただいておりまして本日お電話差し上げることになっていたのですが、木村様はいらっしゃいますでしょうか」
「木村ですね。少々お待ち下さい」
「はい電話かわりました。木村です」
電話口の近くにいたのか保留音はならずにすぐに電話に出ました。
「あ、昨日はご連絡頂きありがとうございます。○○コーポレーションのあべです」
「あ、あべさんご連絡すいません。先日のお話なんですが、稟議が通りまして早速導入で進めて頂きたいのですが」
「かしこまりました。ありがとうございます。それではベンダーとすぐに日程等調整いたしまして、ご連絡させて頂きます」
私はさらにテンションが上がりました。二件同時に獲得が決定したのです。最近は中々、数字が伸びず停滞している社内の雰囲気を打破するようなファインプレーといえます。
おそらく剣崎課長もご満悦でしょう。周りの目も違うはずです。
私は電話を切った後、しばらく余韻に浸っていました。なんとか現状を打破しようと決意し、バイトをしようと面接の連絡をしてテンションが上がっている状態で、さらに良い結果が自分に舞い込んできています。
最近感じたことのない良い気分に私は包まれていました。おそらくこの後のバイトの面接も決まるでしょう。というよりも断られる気がしません。
そして、自分を取り巻くネガティブな状況が全て解決し、楽しい毎日が訪れることを疑いませんでした。
不感
午前中の訪問先を回り終えて、時計を見ると11時50分でした。面接先までは30分くらいかかりますがまだ時間はあります。
コンビニでおにぎりを買い、昼食を済ませて落ち着くと一瞬、少しだけ不安な気持ちになりました。もしかすると面接に落ちるかもしれません。しかし今の私はノっています。多少の不安を簡単に吹き飛ばすほど気分が高揚していました。
本来はこんな時ほど慎重にならなければいけませんし、冷静に対処しなければいけないのです。しかし私はそこまで考えることはできません。なぜなら久しぶりに感じた希望だったからです。
そのバイトの会社には10分前に到着しました。さすがに少し緊張しましたが、たかがバイトの面接というナメた気持ちとテンションの高さで、すぐに落ち着くことができました。
「失礼します。面接に来ました、あべと申します」
「あ、こちらにどうぞ」
「はい」
「では、履歴書をいただけますか」
その男性は明らかに60代の地味な男性でした。いつも私が営業で訪問している会社にはいないタイプです。悪く言えば、負組の人のような気がしました。こんなくたびれた感じで、小さな古臭い事務所で清掃会社で働く人は、きっと負組だと勝手に解釈したのです。本当は違うはずですがこの時の私は、見た目と職種だけでその人を判断し、そして見下し、差別しています。
そして同時に自分自身がここでバイトをしなければ、現状を変えることが出来ないほど落ちぶれてしまったことを感じ、絶望を感じました。
「本日はわざわざ面接に来ていただきありがとうございます」
「あ、はい、いいえ・・・」
「正直、こんな汚い会社で、仕事も綺麗ではないものすから、人が足りなかったのです。あ、申し遅れました、社長の富田と申します。」
「あ、はい・・・」
「で、仕事なんですが、求人誌に出ていた通り22時から翌3時で、ホテルとか飲食店の厨房の配水管とか汚水を貯める所の掃除が主な仕事になります」
「はい」
「昼間は他にお仕事されているんですね・・・」
「あ、はいそうです。営業をやっています」
「そうですか、では会社が終わってからになりますね」
「そうです」
「時間とかは大丈夫ですか」
「はい」
「出勤はシフトで週3日か4日になります」
「わかりました」
「改めてなんですが、体力も使いますし、汚れる仕事ですけど問題ありません?」
「はい、大丈夫です」
正直少しテンションが下がりました。求人誌である程度、仕事内容は把握していましたが、内容を聞くと自分がこの雰囲気に耐えられるかどうか心配になったのです。
普段は、スーツを着て綺麗なオフィスで仕事をしていますし、訪問先も綺麗なところばかりでした。
会社の中でするバイトではないですが、事務所や目の前にいる社長の雰囲気をみると、普段の自分とは真逆な感じがしました。きっと仕事も綺麗ではないというより汚い仕事の印象を強く受けました。
しかし、ここで引くわけにはいかないと感じてなんとか自分を保ちます。
「では、いつから働けますか?」
「いつからでも大丈夫です」
「そうですか・・・。今日・・・からとかってこれますか?」
「はい、大丈夫です」
「では少し早めに、21時45分くらいまでに来て下さい」
「はい」
少し不安に思っていましたが、思っている以上に簡単にバイトが決まってしまいました。しかしさっきまでのテンションはなく、少しだけ後悔もしています。
ここまできてもやはり私には、変なプライドが残っていて、しかも現実を直視できていない自分がいました。
それでも背に腹はかえられません。バイトをして収入を増やさないことには、闇金の借金をなくすことが出来ないのです。
私は無理やり「やってやるぞ」と自分を奮い立たせ、今ある希望にすがっていました。
午後からの営業は少なくし、早めに会社に戻ると早速、剣崎課長に2件の獲得を報告し、ベンダーやメーカーへの連絡や、先方の連絡を済ませます。
剣崎課長は、思っていた通りに喜びの表情になり、優越感を感じた私は改めてテンションを上げることが出来ました。
2人いる女性の事務員もとても良い眼差しを私に向けてこう言います。
「あべさん、2件も獲得すごーい」
「さすが、あべさん!最近、社内は暗いし、剣崎課長も機嫌悪いし最悪だったけど、これで少しはマシになるわぁ」
そんな声はお世辞だとしても、私に自信を持たせ、承認欲求を満たす為には十分な態度でした。そして私は男です。女性からの賞賛の声は必要以上に私の気持ちを満足させました。
タイムカードを押し、会社を出た私は少し薄暗くなってきた空を見上げます。ネオンや窓の明かりが少しずつ輝いてきました。
ここで改めて、気合を入れ直します。
「よし、バイトも決まったし、一気にケリをつけてやる!」
ネガティブな現状を変えるために何とかしようと決意し、まずは悪い流れをせき止めるために一歩を踏み出すことができました。やっと希望が見えた気がしています。
だけど、私は全く見えていませんでした。もちろんお金を稼ぎ、普通の生活ができるようになるのは大事なことです。
しかし問題の根本はそこではなかったのです。
そして何より私はパチンコ依存症・パチスロ依存症でした。
何も見えていない私は、せっかくのチャンスを棒にふるどころか、これをきっかけにさらに深い地獄を体験することになるのです。
53話終了です。
普通であれば、このままパチンコに行かずバイトをしてお金を稼ぐことによって問題を解決しようとしたところは正解です。
しかし若かった私は自分のことを全くわかっていなかったですし、世間や社会というものを全くわかっていませんでした。わかった気になっていただけです。
そして全く自分と向き合うことが出来ていなかったのです。私のこの時の状況ならばバイトをしてお金を稼ぐのは絶対必要なことですが、同じくらい自分と向き合うことも必要でした。もちろんパチンコ依存症・パチスロ依存症も私の状況を悪くする原因でしたが、私の性格や人間性なども状況を悪くする要因だったと思います。
まだまだ続きます。