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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-39

一瞬パチンコのことが頭をよぎった私でしたが、偶然にも電車通勤だった剣崎課長を家まで送り届けたことで、パチンコを打たずに済みます。しかしパチンコ依存症の私はこの時「パチンコを打たなかった」のではなく「パチンコを打てなかった」だけでした。この意味に気付いていない私はこの後、さらに大きな苦しみの渦に巻き込まれていくのでした。今日は闇金の支払い日そして翌日にも2件の闇金の支払いが控えています。さらに家賃などの支払いも待っています。さぁ私はどのような行動をとっていくのでしょうか。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

決別と再会

会社に着き、営業の準備をしていると洋平が近寄ってきました。

「兄貴、おはようございます」

「おう、おはよう」

「兄貴、今日の夜、空いてますか?ちよっと話があるっす」

「あ、あぁいいよ。なんだ神妙な顔して、女か?」

「い、いや違うっす。ちょっと・・・」

「わかった。ほんじゃ」

いつもとは違う何かを決断した顔をしていました。しかしこの時の私は、自分のことで精一杯で洋平のことを気にかける余裕はありません。今日は闇金に決別をつけるべく支払いが待っています。

営業を回る前に決着をつけようと思いました。少しでも自分にまとわりつく重荷を少しでも軽くしたかったからです。

闇金の入っているビルの階段を登ります。これで恐怖を軽く出来るという思いと、お金が減ってしまう恐怖が交差しとても複雑な気分になっていました。

「し、失礼します」

「あ、あべさん。全額払うの?大丈夫なの?」

「は、はい。大丈夫です・・・」

「そうか。また、いつでも言ってよ。あべさんならすぐ貸すから」

今までとはまるで違う雰囲気です。これまでの怖さとは真逆の雰囲気を出してきます。当然ですが闇金もお金を貸して利益を上げています。闇金にとってはジャンプしてくれたほうが儲かったはずですが、全額返済されてしまいました。

こんな時は優しく接して、またいつでもお金を借りにこれる状況を作ることに専念します。貸している時は、恐怖で債務者をしばり、その後はフランクに接して安心させる。そうすることによって、また貸し付けるチャンスを伺うのです。闇金に手を出すような人はすぐにでもお金が必要となります。そしてたよりになるのは同じく闇金です。

階段を下りながら考えます。

「よし、一つ終わった」

しかし、私の心は軽くなることはありません。闇金はあと2件残っています。この重い違和感に耐えられなくなっていました。思わず車に乗り込んですぐにポケットから携帯電話を取り出し残りの闇金のダイヤルを押します。

まずは振込みで貸し付けた闇金です。

「もしもし、あべまさたかです」

「あ、あべさん明日の支払いの電話ですね」

「はい」

「では、この口座に振り込んで下さい。○△銀行□☆支店口座番号は・・・・」

「はい、わかりました」

「あべさんジャンプ?」

「いえ、全額4万5千円お支払いします」

「え?全額?」

「はい、全額払います」

「わかりました。では支払ったらまた電話下さい」

「はい。ていうか明日ではなく今日この後、支払ったらダメですか?」

「構いませんが、どちらにしても振り込んだら電話は下さい」

「わかりました」

すぐにもう一件の闇金に電話します。

「もしもし、あべまさたかです」

「あべさん。明日支払日だな。で、何時にくるんだ?」

「いえ、あの明日ではなく今日これから伺ったらダメですか?」

「構わんが利息は10日分もらうけど」

「はい、大丈夫です。ではこれから伺います」

「わかった」

耐え切れない重い違和感に耐え切れなくなり、一刻も早くこれを消し去りたい気持ちでいっぱいでした。得体のしれない違和感は一番の問題である闇金をなくせば何とかなると思っていました。

すぐに銀行に立ち寄ります。月末なのでATMはとても込んでいます。並んでいる人数を数えると20人は超えていました。営業のことが気になりましたが、違和感を消したい気持ちの方が強く、しょうがなく列に並び順番を待っていました。20分が過ぎやっと自分の順番です。画面に口座番号を打ち4万5千を投入した時こう考えました。

「よし、2つ目終わった」

すぐに携帯電話を取り出し闇金のダイヤルを押します。

「もしもし、あべまさたかです。今、4万5千円入金しました」

「はい、わかりました。完済ですね。また必要な時は連絡下さい」

いつもの担当者ではない電話口の男は、明るい声でそう言いました。ここも同じく闇金です。高い金利でも借りる人間がいないと儲からないのです。こんな時、狼はあわてて羊の皮をかぶります。

すぐにその足で最後の闇金に向かいます。

「あべさん。全額返済だっけ?」

「はい。ではこれ・・4万5千円」

「わかった。ちょっと待ってて」

男は奥に消えていき、借用書を持ってすぐに戻ってきました。

「じゃぁこれ、破棄するから」

「はい」

「また、入用あったらおいでよ。貸すから」

「は、はい」

雑居ビルの隙間を歩き、車に乗り込んで大きく息を吐きこう考えます。

「3つ目・・・これで終わり」

一瞬、私を支配していた重い違和感がスーっと晴れていきます。そして心が落ち着きました。しかしそれも束の間、また同じ重い恐怖と闇が遠くからやってきて、すぐに私の全身を覆います。それはべったりと張り付き、どんなことをしても振りほどくことはできません。

私はわからなくなりました。もちろん他にも滞納している支払いなど、問題は山積みなのはわかっています。しかし一番の問題のはずの闇金を消しても、私の違和感は消えません。

もがけばもがくほどその違和感は締め付けてきます。私は抵抗することを諦めました。

Thank you big brother

闇金の支払いを済ませて財布を見ると一万円札が3枚、3万円になっていました。今月はこれで生き延びなくてはいけません。当然滞納している支払いなど、まだまだ問題は多く残っています。この現実に改めて私は落胆しました。

そして大きな不安を感じ始めます。闇金の借金がなくなっただけでは、私の違和感は消えませんでした。むしろ恐怖がなくなったことによりその不安は大きくなった感じがします。その不安は恐怖がある内はその陰に隠れていて、その恐怖がなくなったとたんに顔を現したのです。結局私は違和感を排除することは出来ませんでした。

そしてそのことに今度はイラつきはじめました。今度は何としても滞納した家賃など払い、早く楽になりたいと考えます。しかし手持ちの3万円では解決できないのは明らかです。

営業が終わり会社に戻ると洋平はすでに終了業務をしています。

「お、洋平早いな」

「あ、兄貴おつかれっす」

「ちょい、待っててくれ、すぐ終わらすよ」

「あ、すいません。大丈夫です」

急いで営業日報を書きます。闇金を回り、改めて現実に絶望した私は今日ほとんど営業をしていませんでした。

「洋平、終わったぞ。飯いこか。ファミレスでいいか?」

「そうですね。OKです」

ファミレスのドアを開けると席に案内されます。

「2名様ですか?禁煙席と喫煙席どちらになさいますか?」

目鼻立ちのはっきりした、背の高いすらっとした、大学生くらいの女性です。ファミレスにはあまり似合わない感じの美人の女性でした。いつもの洋平ならならこんな時「兄貴、あの娘かわいいっすね」と反応するはずですが、今日の洋平はそんなこともなく少し神妙な顔つきを見せています。

「腹減ったな、どうするかな?じゃぁオレ、ハンバーグプレートで。洋平は?」

「じゃぁ自分もそれで」

「かしこまりました。注文繰り返します。ハンバーグプレート二つ。以上でよろしいですか?」

先ほど席を案内してくれた女性でした。ここでも洋平は反応しませんでした。

「で、どうした?」

「はい・・・実は来月オレ会社やめます」

「!?」

「すいません。急に・・・」

「お、おう・・・。で、どうすんだ?次、決まってるのか?」

「はい。実は少し前から将来の事考えて転職活動してました。」

「どこだ?」

「F製薬の営業です」

「ま、まじかっ!すげぇな」

「おれも正直なんで採用になったかわからないんですけど・・・チャンスかなと」

F製薬は外資系の製薬会社で全世界に支店がある、誰でも知っている有名な企業です。そこそこの大学を卒業している洋平は、高卒でパチンコ依存症の私とは違いキャリアアップをしっかり考えていました。

しかし私は、洋平のキャリアアップを素直に喜べません。私を唯一慕ってくれる後輩がいなくなることに不安を感じました。自分を認めてくれる人が、そばからいなくなるのは不安なものです。自分を唯一確認できるのは他との関係性だということを、この時初めて感じました。

もう一緒に出張もいけませんし、会社の帰りにノリ打ちする相手もいなくなります。そしてお金がなくなった時にお金を貸してくれる人を一人失います。

「そうか。良かったな」

「はい。でも兄貴寂しくなりますね・・・」

「だな。でも日本にいるんだし。実家戻ったりするだろ。その時遊べるべ」

「それが・・・東京で研修の後、大阪に半年配属になってその後世界のどっかみたいです。なので何年間かはたぶん日本にいません」

「・・・そうか、洋平、英語ペラペラだもんな・・・」

「Thank you big brother. Thanks to you I worked hard so far・・・.」

「?なに言ってるかわかんねぇわ」

「笑」

「笑」

帰り道、ぼんやりと考えます。闇金から借金をし、支払いを滞納し、日々の生活もままならない自分。片や自分の身の丈をわきまえ、決してはみ出さず、着実にキャリアアップをしていく洋平。私は洋平に嫉妬していました。洋平と比べ、自分のふがいなさに情けなくなっていました。

部屋に着き請求書の山に改めて絶望します。これを何とかしなければこの違和感を取り除くことは出来ないと考えます。部屋を追い出されるかもしれません。電気や水道も止められます。携帯電話が止まるのは時間の問題でしょう。また猛烈に不安と恐怖が私の体全体を支配しました。

「くそ・・・なんだよもう・・・」

ふと携帯電話を見るとメールの着信ランプが点滅しています。

「まさくん、もう寝たかな?来週行くからね~」

私はそのまま携帯電話を閉じました。

こんな時、私は彼女に優しい気持ちになれません。


39話終了です。


せっかく闇金を全て返済し終えましたが、私の違和感は消えませんでした。闇金の陰に隠れていた問題が、顔をだします。そして新たな恐怖と不安を私もたらせました。そして洋平の転職に対しての劣等感が私をさらなる深みに落としていきます。

このようにパチンコ依存症・パチスロ依存症の克服・回復が難しい部分は借金や生活など全ての問題を正しい優先順位で正しく解決することが必要になってきます。

もちろん利息の高さや恐怖心で闇金が最優先事項になりそうですが、まずは生きていくために、パチンコ依存症と戦うために、基盤である衣・食・住を最低限でも確保するが大切になります。その上で様々な問題をクリアするということですね

この後私は、まだまだ追い込まれていくことになっていきます。なぜならこの時の私の一番の問題はパチンコ依存症・パチスロ依存症だからです。

あ、ちなみに洋平の言った

「Thank you big brother. Thanks to you I worked hard so far・・・.」は

(ありがとう兄貴。あなたのおかげでここまで頑張れた・・・。)です。


まだまだ続きます。

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