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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-137

瞳から溢れ出る涙。ミィが私に見せた最初で最後の涙です。私は何も言えずただ、立ちすくんでいるだけでした。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

意志

ミィの叫び声が部屋中に響き余韻が空気を振るわせた後、張り詰めた空気が部屋全体を覆います。

瞳いっぱいにたまった涙があふれ、声にならない思いが鋭く私を刺しました。

私が、言い訳の言葉に困っている数秒が、さらに部屋の空気を重くします。

その空気を切り裂くように、どうにもならない気持ちを私に浴びせてきました。

「てめぇ!ふざんけなよっ!!出て行けよ!!」

「ミ、ミィ・・・」

今まで、そんな言葉を発したことのない彼女に驚いたのもあり、言葉を返すことができません。

「もぉ、顔見たくねぇーよ!気持ちわりぃんだよっ!!」

「ミ、ミィ・・・ち、ちがうんだよ・・・」

「うるせぇーよっ、出てけっつってんだよ!!」

「・・・」

「もぉーっ!!いなくなってよっ!!もぉイヤなのよっ」

それまでもケンカは何度もありましたが、鬼気迫るような表情に私はたじろぎました。

ミィの濡れた瞳の奥に明確な”意志”を感じたのです。

いつもはどんなに怒っても、私を許してくれていました。

しかし今回ばかりはそれを感じません。

覚悟を感じます。

きっと何を言っても彼女の気はおさまらないでしょう。

しかし悲しげな表情の奥には、私の幸せを思う気持ちと自分の幸せを思う気持ちがしっかりと存在しています。

彼女は必死に答えを導き出そうとしていました。

自分が一番大切な人を幸せに導き出すにはどうすれば良いか・・・。

彼女が私に浴びせた言葉は本意でなかったはずです。

答えの出ないまま、自分の意志に従っただけでした。

私の幸せ・・・。

そして自分の幸せ・・・。

この時の私はそれに気付いていません。

ただ、パニックをおこして錯乱しているだけだと思っていました。

しかし、いつもとはレベルが違う雰囲気というのは感じています

私は”賭け”に出ることにしました。

全てを話し、ミィに理解してもらおうと思ったのです。

きっとわかってくれるはず。

そんな、自分勝手な期待がありました。

この時、私は自分のことしか考えていません。

いつもの通り・・・。

助かりたいだけです。

このどうしようもない空間から逃げ出したいだけでした。

「ごめん・・・ミィ・・・」

「・・・・」

ミィは今までに見せたことのない表情で私を見つめます。

怒りと戸惑い・・・。

本当は私を許したいけど、必死にそれを振りほどくために戦っていました。

「実は・・・」

私はこれまでのことを話し始めます。

ミィに闇金の取立てから救ってもらい、この部屋に住むことになってからもパチンコ・パチスロをヤメることができずに、負け続けたこと。

ミィのカードから勝手に借入したこと。

また、闇金に手をだしたこと・・。

彼女はそれを何も言わず黙って聞いていました。

頬をつたう涙は止まっていません。

「だから・・・。なっ!?ミィ、出ていけとかいうなよ。助けてくれよ」

「・・・」

「たのむよっ!オレ、ヤバイんだよ!また闇金にさらわれちゃうよ!だから、今回だけだよ。最後と思ってなんとか助けてくれよ・・・」

自分でも驚くほどカッコ悪い自分です。

しかしこんな状況ではしかたありません。

だけどこんな時でもきっとミィはオレから離れられない。

そんな期待がありました。

好きな男が、最大のピンチに陥っている。

きっと助けてくれるだろう。

打算的な気持ちと甘えの気持ちがありました。

そっと彼女の肩を抱き寄せます。

「たすけてくれよ・・・。ミィ・・・・」

数秒の沈黙のあと、ミィは力いっぱい私を押しのけ搾り出すように言葉を発します。

「もう、ヤメてよ・・・。カギ置いて出て行って・・・」


137話終了です。


あと、もう少しで終わります。

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