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パチ依存症をこじらせて闇金から借金してた頃の話-45

家賃の未納や電気やガス、水道の料金の未納で追い込まれた私は、まともな生活が奪われる恐怖で全身を支配されていました。これらが奪われればミィとの関係も奪われてしまうでしょう。しかし私に解決する手段はありません。そこでとる行動は無謀な戦いを挑むだけです。

※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。

希望的憶測

華やかなネオンが光る駐車場から入り口に向かって歩きます。唯一のこの瞬間は恐怖や苦しみから自由になることができました。

店内に入るといつもより多くの客がいます。パチンコで新台入替があったようです。店内を一通り回ります。パチンコは多くの客がいましたが、パチスロはいつもより少し多いくらいです。

軍資金は1万7千円ほどしかありません。この時点で分が悪い勝負。ましてや必ず勝たなければいけない勝負です。本来ならば打ってはいけません。

私はいつもの通りキングパルサーの島に向かいます。数人打っていましたが、台は数台空いていました。

私はその中でもっともゲーム数が回されている台を探します。出来るだけ低投資で初当たりがほしかったからです。しかしほとんどの台が連チャンゾーンが抜けた台、128ゲーム付近で捨てられた台ばかりでした。

そんな中1台だけ、360ゲームで捨てられている台を見つけます。履歴を見ると5連チャンの後、360ゲームハマっている状態でした。次のゾーンである512ゲームまでは5,6千円で到達しますが、もしボーナスが引けない場合は天井は1280ゲームです。手持ちの資金では回せません。

当然打つべき台ではありませんが、私はその席に座りました。早くパチスロを打ちたくてしょうがなかったからです。勝ち負けの重要さはどうでもよくなっていました。

コインサンドに札を入れる瞬間、一瞬ざわっとしましたがそのコインを台に投入するとすぐにその感じはなくなっています。私は何も根拠もなしに512ゲーム以内で当る気になっていました。

2千円、3千円とコインを投入してもほとんど反応はありません。少しずつ焦りの色が見えてきます。そして512ゲーム、ノーボーナスでフィニッシュ。一瞬まだ続けそうになりましたが、何とかガマンしました。残りの資金では天井手前で資金が尽きるはずです。その後、他の人に座られて出されるのは目に見えています。

30分しないうちに6千円を失い、資金を1万1千円に減らした私は改めて店内を歩きます。いつもとは少し違い、どうしても勝ちたい私は「ただ打ちたい」という衝動をおさえました。しかしここで打たずに撤退という選択肢はありません。なんでもいいからとにかく勝つことが必要です。6千円負けたまま帰るなど1ミリも考えることが出来ませんでした。勝たなければまたあの恐怖や苦しみに全身を支配されることになります。

パチスロの島に比べて、パチンコの島は活気に溢れていました。見ると半数以上の客が出玉を持っています。

私はパチンコで勝負することを決めました。しかしパチンコはほぼ満席です。しょうがないので私は歩きながら台が空くのを待ちました。

15分ほど歩いている時でした。新台に座っていて連チャンが終わった台から席を立とうとしているのを見ました。慌てて席に近づきその台に座っていた年配の男性に声をかけます。

「もう、やめるんですか?」

「はい、どうぞ」

私は上皿にタバコを置き、台を確保しました。その年配の男性が呼び出しランプを押し店員が来るまでの間とても落ち着きませんでした。早く打ちたくて、勝ちたくて震えてきます。

そして出玉を台車に乗せ、その男性が台から離れると、改めてその台に座りお金をサンドに投入しました。資金は十分とは言えませんでしたが、新台であり問題ないだろうと思いました。もちろん根拠はありません。ぱちんこ依存症特有の根拠のない希望的憶測です。

最初の500円分の玉を打ち出すと、さすが新台でよく回ります。私はたくさんの出玉が出る期待感で興奮がマックスになっていました。時計をみると閉店まではまだ3時間弱残っています。未納の家賃分の出玉を出すには十分でした。

しかしその期待感は徐々に絶望に変わっていきます。来るリーチがほとんどスーパーリーチに発展しません。いくら新台で良く回るとはいっても大当たりが来る気配がありませんでした。

「な、なんで当らないんだよ・・・・」

気がつくと残り3千円になっていましたが、もちろんやめるわけにはいきません。

打つ前までの期待感は陰を潜め、ここで改めてパチンコを打つ前の恐怖と苦しみが徐々に顔を出してきます。

そして残り500円の時、待望のスーパーリーチ。数字は”5”です。液晶が激しく演出を始めます。もうすでに期待感というよりも懇願し始めていました。

一つずつ進む数字を凝視しています。徐々に当りに近づいていく数字を見ながら全身をこわばらせていました。

そして4から5に・・・。

「たのむっ!!こいっ!!」

液晶の数字は545・・・。

もちろん残りの500円も打ちましたがリーチにもなりません。

絶対に負けられない戦いは、またしても負けで終わりました。

自意識過剰

自宅に戻り、着替えもせずに布団で横になります。不思議と怒りは出てきませんでした。今、身体に残っているのは絶望が生み出す脱力感です。

「もう。パチンコやめよう・・・」

何度も思ったこのセリフが自然と頭の中によぎります。家賃を払うのはほぼ不可能です。この後、収入の予定はありません。水道代もガス代も払っていないためじきにストップするはずです。そして闇金の支払いも控えています。

私は糸が切れたように何もかもあきらめた状態になりました。不思議なことにそうすると恐怖や不安は陰を潜めます。無理にあがこうとせず受け入れると楽になれる気がしました。

しかしこれも幻想です。現実は何も変わっていません。その現実を目の当たりにした時、さらにおおきなうねりとなって恐怖や不安は私の体を取り込むことでしょう。

目が覚めると暗くて薄いブルーの空に、うっすらとオレンジ色の光を感じました。時計を見ると朝の5時前です。私は着替えもせずにそのまま寝ていたようです。

汗をかいていた私はスーツとシャツを脱ぎ、湯沸かし器のスイッチを入れて寝ぼけたままシャワーの蛇口をひねりました。

その時、私は違和感を感じます。

「あれ・・・?」

シャワーから勢いよく飛び出す水は、いつまでたっても温かくなりません。

「・・・!」

急いでガステーブルの火をつけます。

なんども点火スイッチを回しましたが、そのたびになる「カチッ」という音が空しく響くだけでした。

すぐに察します。

「ガス止まった・・・」

また一つ普通の生活を失いました。

しょうがなく冷たい水で顔だけ洗い、また布団の中に潜り込みます。何とかしようと考えますが、当然のように良い考えは浮かびません。

そうすると徐々に恐怖や不安が顔を出してきます。一応私は営業職です。シャワーを浴びることができないと体臭が気になります。それで営業成績が落ちるかもしれません。火を使えないため調理も出来ないので食事の事も気になります。

そして一番はミィのことでした。ガス代も払えないような彼氏をどう思うかを考えると、恥ずかしさやプライドでどうにも出来ない気持ちになりました。

ましてやシャワーも浴びることが出来ない部屋には、泊まりに行きたいと思わないでしょう。

わずかに残るプライドを胸に、私は再び絶望に襲われています。もう何もかも終わってしまったような気になりました。

1ミリもポジティブな要素がない気持ちのまま、カーテンを開けました。暖かい朝日が眩しく私を照らしましたが、私の気持ちは暗く沈んだままです。

会社についても気持ちを切り替えることができませんでした。そんな中、会社の事務員が話しかけてきます。

「あべさん、おはようございます。大丈夫ですか?なんか調子悪そうですけど」

「おはよう。あ、大丈夫・・・」

私はその事務員と距離をとろうとしていました。シャワーを浴びることが出来ないため、体臭を無意識に気にしています。一日くらいでさほど変わらないでしょうが、追い込まれた私は全てをネガティブに考えるようになっていました。ほんの少しだけあるプライドが顔を出し、私の周りにいる人間から悪く思われたくない気持ちと行動をとらせます。

これは営業に出ても変わりませんでした。受付の女性が綺麗な女性であればあるほど、距離をとり積極的に話かけたり営業することが出来ないのです。

昼近くになり、コンビニの駐車場に車をとめます。そういえば昨日の夕食はたべていません。

しかし財布を見ても残金は小銭しかなく、かき集めても200円ほどしかありません。仕方なく出来るだけ大きい菓子パンを買いました。そして車を公園に走らせます。お茶を買うことが出来ないため公園の水飲み場で水を飲み、昼食を済ませました。

あっという間に食べ終えてしまい、ほとんど満足感のないまま再び車に乗り込みます。

なにも考えずに窓の外を眺めていると、改めて不安と小さなプライドが頭の中をぐるぐると回り始めまていました。

現状の自分の状態が頭の中を駆け巡り、もう普通の生活には戻れない気がして情けなくなってきます。そして不安や恐怖が苦しみとなって私の全てを支配しはじめます。

その時私はそれを受け入れようとしました。もがけばもがくほど苦しみは大きくなるのです。それから逃れるためには受け入れてしまうのが一番でした。

全てをあきらめ受け入れた時、砂粒ほどの小さなプライドが抵抗をはじめました。

これが他に知れたら、私を見る他人の評価はとても下がるはずです。きっと周りは私のことをパッと見は真面目そうで、良い人そうで、会社の成績はそこそこ良く仕事が出来る人という風に思っているでしょう。そして私はそう見られていることを感じていましたし、それが気持ちよくもありました。

しかし実際はお金にだらしなく、消費者金融の借金は限度額いっぱいで、家賃を滞納して追い出される寸前で、ガスも止められ、闇金にも借金があり、パチンコ・パチスロで生活が破綻しているというのが本当の姿です。

私は追い込まれ、苦しみから逃れるためにその苦しみに抵抗せずにあきらめようと努力していました。しかしこんな状態になっても本当の姿が人に知られ悪く思われることに我慢が出来なくなっていたのです。

そしてミィに対しては、一番知られたくありませんでした。

きっと彼女が大好きな私は、本当の私ではありません。本当の私を知った時、彼女は私のことを軽蔑するはずです。

そう考えると我慢ができなくなります。しかしこのままでいると、本当の私を知るのは時間の問題でしょう。

私は携帯電話を手に取り、ミィにメールを打ちました。

「大事な話があるんだ。出来るだけ早く会いたい」


45話終了です。

誰しも自分の短所や悪いところを隠したいもの。そこまではどんな人でも同じなので良いでしょう。しかし良くないのはそれをごまかすために自分と向き合わなくなることです。

この時の私はそうでした。あらゆる問題に目をそむけてごまかすことばかりを考えていました。自分と向き合うことは時に自分を傷つけとても辛いものですが、そうしなければなにも解決しないのです。この時すでに重度のパチンコ依存症・パチスロ依存症でしたが、自分と向き合い少しでも進むことが出来ていたのなら、この後起こる悲惨な状況にはならなかったはずです。

まだまだ続きます。

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